第27小節
雨音で目覚めた。
予報がそうだったので窓は閉めてあった。
一瞬、ここがどこなのかとまどった。
自宅の部屋のはずなのに、様子がちがう、と。
ああ、ホテルの部屋かと、すぐさま理解した。
何だか、むしょうに家に帰りたかった。
雨のせいなのかな。
家からはなれた日にちのせいなのだろうか。
わたしは最初のホームシックにかかったようだった。
ベッドからからだを起こして、スマホを手にした。
7時をまわっていたからもう母は起きているはずだった。
電話した。
母がでた。
「おはよう」
とわたしはいった。
「あら、どうしたの?」
「ううん。何でもないんだけど、朝だから、おはようっていおうと思って」
「帰りたくなったんでしょ」
「何でわかるの」
「声でわかるわよ」
「へえ~」
「元気なの?」
「うん元気」
「で、どうなの?」
「ん? 何が?」
「アルバイトよ」
「ああ」
「すっかり観光気分なんじゃない?」
「そんなことないよ」
「まあ、それならそれで安心なんだけど。どう? やれそう?」
「譜めくり?」
「そう」
「何とか」
「よかった。えっ、何?」
「何?」
「ああ、お父さんが」
「何? うん。うん」
「お母さん? もしもし」
「あっ、ごめんなさいね。何かお父さんが腹巻きちゃんとしておきなさいって、雨だから」
「ああ」
「あなた雨だとあれになるから」
「そうね。うん。わかった」
「お父さんわかったって!」
わたしは吹きだしてしまった。
少しあけた窓の向こうのグレイの雲間から、ちょっとだけ淡いブルーがのぞいていた。




