第2小節
いくつかの駅で乗り換えをして、やっと最後の1本となったその列車をわたしは待っていた。
ここは無人駅らしい。
赤い屋根をした駅舎。
やたら長いプラットホーム。
夏空。
乗車口の表示はホームのコンクリの上には書かれていない。
書かれてあったのに年月により消えてしまったのか、それとももともと書く必要がなかったのかわからない。
わたしはその表示のせめて痕跡でもと、月のクレーターのようになった状態のコンクリの上にさがした。
なかった。
とりあえずこのへんだろうと、安全策でまんなか付近にいた。
わたしのほかに乗客はいなかった。
いたら、その人のそばにいたらよかった。
誰かきたらいいのにと、駅舎のほうを見た。
まったく、人があらわれる気配がなかった。
と、踏切が鳴る向こうから2両編成のミルクセーキのようなクリーム色した列車がやってきた。
わたしが待っていたはるか手前で停まった列車からは、部活帰りらしい女子中学生がひとりだけ降りただけだった。
はや足で1両目に乗り込んだわたしは、空いていたボックス席の進行方向にからだを向ける側の窓際の席に座った。
冷房はほどよい感じで効いていた。
席ははんぶんほどうまっていた。
地元の方や、旅行者、ビジネスマンといった配分の、旅ならではの光景が車内にはあった。
フォン、という音を立てて列車は動きだした。
流れる風景は住宅街からやがて田園へと変わっていった。
もうすぐ海が見えてくるはずだ。