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譜めくりの恋  作者: ゆぶ
16/95

第16小節



 スマホが鳴っていて、わたしは飛び起きた。


 スマホ画面の時刻とかけてきた相手をほぼ同時に見た。


 寝ていたのはわずかな時間で、かけてきた相手はクレアだった。


 リハーサル(3つのシリーズのすべての曲の楽譜と一緒にあったスケジュール表には今日からはそうなっている)に遅刻したと思ったから、しまったと思って飛び起きた。


 と同時に時刻とクレアの名前を見て、ホッとした。


 いつも連絡をとりあっているような家族ではないので、家族からだとほんのちょっと不安がよぎってしまうところがある。


 わたしは応答をタッチした。


「もしもしクレアどうしたの?」

「寝てた?」 

「ちょっとね」

「ごめんね」

「ううん。おかげリハーサルに遅れずに済んだから、何かありがとう」

「そう」

「うん」

「彼、どう?」

「彼って?」

「野崎京介よ」

「ああ。ん? 話したっけ」

「あなたが気になってホテルのホームページ見たの」


 不吉な予感がした。


「ああ」

「どう?」

「どうっていわれても。まあ、すごく優しい人よ」

「へえ~」

「何より、彼の演奏をいちばん近くで聴けることが、あれよね」

「あれって?」

「う~ん。何ていうか……」

「貴重」

「そう、貴重」

「これからリハーサルなのね」

「うん」

「で、ね」

「うん」

「予約ができないの」

「何の?」

「彼の演奏会の」

「えっ! 昨日聞いたときはまだそこそこだって」

「そう」

「一歩遅かったわけね」

「そうみたい」

「あなたもファンだったの?」

「彼のファンでない女性がこの世の中にいるの?」

「そりゃいるでしょう」 

「そうゆう意味じゃなくて」

「女性ならって意味ね」

「そう」

「まさか予約しようとしたとか」

「あなたの雄姿も見たいから」

「ふ~ん」

「ふ~んって」


 クレアはケラケラと笑い、それにつられてわたしもケラケラと笑った。


 そういってくれる友人がいることがうれしかった。


 ケラケラと笑ってくれる親しさがキュンとなってうれしくてたまらなかった。


 はじめての土地で、そのことが身にしみてわかった。

 

「予約取って」

 とクレアはいった。

「わたしが?」

「あなたが」

「たんなるアルバイトよ」

「そこを何とか」

「あなたのチカラを使えばいいじゃない」

「使いたくないの」

「どうして?」

「そこのホテルね、うちの系列なの」

「ふわっ! じゃあ、ますます簡単じゃない」

「そう簡単じゃないのよ」

「わからないけど」

「会長の孫娘がわがままいってるって思われるじゃない」

「会長って理事長のことだよね」

「そう」

「だいだい孫娘ってそうゆうもんでしょ。そのイメージはいくらあなたががんばったところでくつがえすことは不可能なんだからいいのよいまさらべつに」

「それでもわたしだけはそうありたくないの」

「あんたはえらい!」

「ありがとう!」

「そっか。それで当学園の学生に限るって書いてあったのね」

「譜めくり?」

「譜めくり」

「その譜めくりのプロっていう人がいるのに何で素人のアルバイトなんだろうってちょっと思ってたけど、彼の演奏会であることをまだおおやけにしたくなかったということだったのかな」

「ほかに理由があるかもしれないわよ」

「たとえば?」

「彼、女子大生が好きとか」

「そんな感じでもないけど」

「……しってる」

「えっ」

「ん?」

「知っているっていまいわなかった?」

「油断してるっていったの」

「ああ」

「気をつけてよね」

「何を?」 

「いろいろと」

「いろいろとねえ」

「心配なのよ、いろいろと」

「だいじょうぶよ」

「そう?」

「柊エバーグリーングループのホテルなんでしょ? そこまで関心がなかったから気づかなかったけど。だったらわたしも柊学園の学生なんだから良くしてくれるわよ」

「わたしからもひとこといっとこうか?」

「何て」

「わたしの友だちだからよろしくって」

「そのよろしくの程度が空恐ろしいからいい」

「わかった」

「で何だっけ」

「だからあなたから予約なんとかして」

「う~ん。じゃあ」

「うん」

「たぶん、キャンセルがでると思うのね、こういうのって」

「出る出る」

「そこに優先的にお願いしてみよっか」

「あったまいい」

「わたしの柊学園の友だちがどうしても見たいって、そういったら何とかしてくれるかもしれない」

「さっすが」

「その場合わたしの部屋に泊まることになるかもよ、ツインだから」

「ツインなの?」

「ツインなのよ」

「わたしはいいけど」

「ならそうゆうこでとりあえずね」

「お願いね」

「結果はわからないからね。期待しないでよ」

「わかってるって」


 クレアはそういうと唐突に電話を切った。


 わたしはスマホを何度か耳に当てなおして確認した。




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