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終端の魔術師と破壊の遺子  作者: イベリア
第二章「変換放出魔法理論科実習基礎編」
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第六話「偉業の片鱗」

 その後も皆、生徒たちは各々の魔法を披露していった。中にはトリプルキャストをやってのける生徒もいたがクインタプルキャストを使ったのはディーただ一人だった。


「諸君らの魔法が学生としてはありえないほど、軍においてもとても高いレベルにあるのはわかった!これなら私のペースで授業をしても脱落者が出なさそうで嬉しい。ところで諸君、私からひとつ提案だ、今日のこのあとの授業はディー君への質問の場として活用したい。ディー君以外で意見のある者はいるだろうか?」


 ディーは悟った、自分には拒否権が与えられていないということを。


「皆ウズウズしているようだな!?私もだ、私もワクワクしているウズウズしている!!では早速講師の権限で最初の質問をする。ディー君、君が使ったクイントゲートという魔法は魔力を魔法に変換するという概念の固定だと思う。そこで根本的な疑問だ、何故あんなに回りくどいことをしたんだ?」


 その場にいる誰よりもテイラー博士が一番目を輝かせていた。そして、非常に愉快そうだった。


「あれは、剣を大量生産するときに刀身を作る班と鍔を作る班、柄を作る班それから組み立てる班に分かれたほうが一つ一つの作業が簡単になります。五つに分散して散漫になった集中力を補うために一つ一つを簡略化するための思いつきです。最初はゲート一つにして火球を連打しようと思ってたんですけど詠唱中に思ったより余裕があったので試しに五大元素全部作ってみたんですよ。」


 ディーの答えをテイラー博士はノートにそっくりそのまま書いていた。講師がノートを取るなど珍しい光景だった。


「ディー、俺からもいい?」


 次いで質問してきたのはアルトだった。


「もちろん。」


 ディーが答えるとアルトは遠慮なく質問を始めた。


「途中の詠唱って付呪機動の俺のオリジナルの一節を流用してたよな?」


 アンリミテッド・ブランク・マジック・スフィアの詠唱にディーは確かに付呪起動のアルトの独自詠唱を流用していた。それは本来詠唱を必要としない単純な魔力制御、しかしアルトはその制御の精密さと量を増幅させるためにあえて無理やり詠唱を創ったのだ。


「うん、あれは君の真似をしたんだ。本来なら詠唱を必要としな部分に詠唱をねじ込むと効率が驚く程上がってびっくりした。」


 ブランク・マジックスフィアは空白の魔法。つまりまだ魔法ではないのだ。あくまでこの魔法分野は“変換”放出魔法であって変換が成されてないものを魔法とは言えない。それをどれだけ緻密に制御しようともだ。


「つまり、俺のを見てからのあんな短い間にそんな仮説をたてたっていうのか!?」


 しかし、いくらディーでもそこまで考えてるはずもなかった。


「そんなわけないじゃないか。思いつきだよ。」


 だからその答えはアルトにほんの少しの落胆を与えた。


「何だ、流石にそこまでじゃないか……。」


 すると今度はディーが意外なことを言い出した。


「あの詠唱、少しリスク……というか時間制限があるよね?」


 確かにそうだった。

 魔力の制御量限界を無理やり拡張するような無茶な詠唱の効力が無限に続くわけがなくディーの感覚によるとそれは制御量を増やせば増やすほど効果の持続時間は短くなっていく。


 そう考えるとアルトの詠唱の場合不要な詠唱を明らかに多く入れすぎている。

 つまり、それだけ無理やり拡張している。

 よって、アルトの見せた魔法は限界ギリギリで舵を切る危険な魔法だ。


 もちろん安全を配慮して相当数の実験を重ねたのだろう。それでも、あと数秒魔法の発動が遅ければアルトは魔力を暴走させ最悪死に至っていた。

「ばれたか……。ノーリスクであんな大魔法ポンポン打てるのはアークウィザードくらいだし仕方なく……な?」


 そして、その答えを聞いてディーはあんな詠唱を二度とするまいと心に決めた。


「ディー、私からも。」


「質問を許可する!ジーナ二等兵!!」


 生徒一同が一瞬キョトンとした顔をする。


「二等兵はやめてよ……。軽くトラウマなんだからね?」


 そう言ってジーナは少し拗ねた顔をする。やっぱり女の子はいじめたり甘やかしたりするべきである、そのほうが可愛らしい一面を見ることができると教訓を得たディーであった。

 そして、ディーが教訓を得ると同時に生徒たちが笑いだした。


「ごめんごめん、で質問は?」


 笑われてブツブツと文句を言うジーナにディーが宥めるように質問を強請る。


「いやぁ、どうして“手綱”なんだろうなぁ?って。」


 これもディーの工夫の一つであり実はこの魔法の成功の鍵はそこにあったりする。


「本来魔法は魔力で制御するんだけどそれだと魔法を制御するのにとても集中力が必要だよね?」


「うん」


「じゃあ、魔法と自分を紐で繋いで体の方で制御してやると?」


「魔力で制御するより楽だったりするの?」


 それこそが肝だった。


「そのとおり、体の動きで制御するとかなりそっちに割く集中力を削れたんだ。」


 しかし、結果論である。実証を得ていたわけではない。


「もしかして?」


 ジーナは嫌な予感がしていた。


「うん、思いつきだよ。」


 満面の笑みでディーが言うとジーナが鬼の形相を浮かべていた。


「危ないじゃない!!暴走したらどうするのよ!!??」


 そしてそれは、なぜか抗いがたい雰囲気を持ってディーに襲いかかった。


「いや、ごめんなさい。ごめんね?」


 ディーは思った女の子を怒らせてはいけないと。


「次からもっとちゃんと安全に配慮すること!わかった?」


 ジーナの説教を食らっていると横合いからヤケにニヤニヤしたアルトが口を挟んできた。


「夜の大隊長さんも正妻には頭が上がらないようで。これは家庭では平隊員ですな小隊長殿ププププ……。」


 正妻という言葉を聞いてジーナはそれを激しく否定し、そして生徒たちは一同に大爆笑していた。


「ふざけんなよアルトォォォ!!!!!」

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