第四話「それぞれの魔法」
前章のあらすじ
ディー「ふざけんなよアルト!!」
中央魔術院のアークウィザード科の入学式後日。これから毎日の習慣になるであろう朝礼が終わるとアークウィザード科は学校内に設置されている初代学長アルフが遺した転移門によって魔法演習場と呼ばれる平原に集合していた。放出魔法の実習のためだ。
「さて、諸君。講義を始めるにあたって無駄な話しは省きたい。よって、諸君にはこれから私に対してその魔法の実力を見せてもらいたい。各々、自分の中で最良だと思う変換放出魔法を最高の状態で放ってもらう。出席番号順だ、一番アルタナ・ウィルソン!気が済むようにぶっぱなせ!!」
テイラー博士がそう、宣言する。その様はまるで愉快な士官学校の教官のようで、ディーはそれに少し懐かしさすら感じた。
「はい!」
そう言ってアルトは一歩前に出ると詠唱を始める。最高の魔法を最高の状態でと言われれば普通誰でもそうする。
「流動し、捻転し、統べよ。其は我が衣となりて全てを満たす。渇望する虚の器はそれを喰らいて目覚めゆく。」
詠唱の始まりの一節、それだけで膨大な魔力があたりに立ち込める。そしてそれをまるで喰らうかのようにピアスや制服その全てが魔力を吸引し光を帯びていく。魔力はその中で増幅して変換が成されていない高圧の魔力の光弾を形成する。
「其は炎。焦熱と破壊をもたらす紅蓮の業炎となり眼前を焼き尽くせ。クリムゾンウェイブ!」
形成された魔力の光弾は一気に炎へと変換されてまるで炎の大津波のようにアルトの前方に広がる。そしてその津波が通り抜けたあとは地面すらもその熱に焼かれ赤く煌々と僅かな光を遺した。
「素晴らしい威力である。私の論文をしっかりと読んでいるようだ。それに付呪と変換放出魔法の同時起動は見事である。91点!」
その威力は流石終端に至った魔術師であると言わざるを得ずおそらくアークウィザード科でなければ、また講師がテイラー博士でなければおそらく100点と言われていたであろう。
「ありがとうございます。」
アルトは評価に対し礼を言うと後ろに下がる。
「二番ベノア・ナイト」
ナイト、要するに平民から騎士になった家系だ。騎士家系の中にも魔術を好む人間は少なからず居り遠近両方こなせるため軍では重宝される存在だ。
「はっ!」
それだけに返事も軍隊式であった。しかし、アルト同様に魔法の詠唱を始める。これは、戦場において遠近両用型の特権だ。基本戦場で魔法の詠唱をする余裕はない。
「其は炎。刃を形成し突き抜ける蒼炎の槍。」
其は炎、火炎魔法の基本節である。それに修飾を付与することでその性質を決めていく。
「されど、反転し灼かれる者は凍りつく。い出よ、冷炎の槍!」
修飾のをすれば炎の性質を反転させ冷気の炎にすることも可能だ。これは明確な利点がある。冷気の槍は言ってしまえばただのつららだ。だが、炎は冷気に比べて遅い。つまり軌道に、冷たい炎が残るのだ。それも強烈に。
「はぁっ!」
気合とともに地面に突き刺された槍は未だ熱の残る大地の熱を奪い、さらに凍結させていく。そしてまるで燃え広がるように青い炎を地面に走らせていくがアルトの魔法の熱に相殺されて消えていった。
「次の生徒に支障のないように熱を取り除いてくれたようだな?加え性質反転の高等技術も考慮し89点!」
これ自体もとてつもない魔法だ、戦場で出くわした時を想像するとディーは生唾を飲み込まざるを得なかった。
「ありがとうございます!」
退場の際の足運びといいどちらかというとベノアは騎士に見える。