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記憶

あの日…僕の街にその冬最初の雪が降った日。

仕事を終えた僕はいつもの公園であの人を待っていた。

あの人…千葉詩織さんには僕と知り合った時他に好きな人がいた。

だけれど僕らはまるで何か特別なものの様に惹かれあった。

「彼と会ってる時も誠の事ずっと考えてた」

今思えば不都合な真実も僕はそこから眼を反らし詩織さんと過ごす僅かな時間に酔いしれて、少しでも僕の痕跡を彼女の残したくて夢中で求め続けた。

そんな現実か幻だったのかわからない時間はすぐに消え彼女はたった一言

「他に好きな人がいたの、あなたと会っている時もその人に会えないからあの人に言えない事をあの人と出来ない事をあなたと過ごしたの、退屈な時間を埋めてくれてありがとう」

一晩公園のベンチで待ちわびて身体に雪を積もらせた僕に言い放ち消えていった。

詩織さんは僕にくれた言葉全てを自分で否定してあの日僕の掌に落ちた雪の様に消えていった。

僕は自分の抱いていた感情が何だったのかすらわからなくてなって、その日担ぎ込まれた病院でこのまま僕の命すら消えてしまえばいいと願った…

僕の勝手な理由で店を暫く休まなきゃいけなかったのに郁人さんも那奈も何も聞くことなくただ心配してくれて僕を待ってると言ってくれた。

それから僕は、母親に捨てられた事と相まって極度の女性不信になった。

仕事を終え部屋に戻り一人きりの部屋でただ泣く事も出来ずもう恋をする事なんて出来ないんだろうなと何度も何度も考えてた…

きっと僕はずっと一人きりなんだろうと…


気がつくと僕は美雨の胸の中に抱かれ眠ったまま泣いていた。

美雨は心配そうに僕の頭をゆっくりゆっくり撫でていてくれた。

「もう誠くんは一人じゃ無いよ」

と小さく呟きながら。

「美雨…」

僕は美雨の眼を見つめ、顔を同じ高さまで合わせると美雨を抱きしめ乱暴に美雨の口を奪った。

美雨は何も嫌がる事なくそれを受け入れ互いの舌を絡ませる。

たったそれだけで僕は絶頂を迎えた様に幸せに包まれた。

突然、携帯のアラームが鳴る。

「クソッ」

昨日、店の鍵を借りたままだから先に行かなくちゃいけない。

「美雨、もう少しだけ抱きしめてたい」

「うん。良いよ」

僕らはお互いを強く抱きしめ合いお互いの体温と息遣いを感じあった。

僕は自覚した。

この娘が好きなのだと。

知り合って間も無いのに自分でも訳がわからないうちに恋に堕ちていた。

2度目のアラームで僕らは身体を離し、朝食の準備に取り掛かった。

美雨は大学が休みだから暫く部屋に残るそうだ。

美雨に見送られながら後ろ髪を引かれる思いで僕は部屋を後にした。

その日、郁人さんから一日からかわれたのは言うまでもない


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