負い目
片付けを済ませCloseとなった店内に僕と美雨と郁人さんさんだけ。
郁人さんは僕の肩を叩いて
「誠、悪いけど明日は店開けろよ」
そう言って店の鍵を渡してくれた。
「しっかりやれよ」
そう言って後ろ向きに手を振って店を後にした。
僕は那奈が入れてくれたコーヒーの残りを啜りながら美雨の隣に座る。
「美雨、それで何があったんだ?」
美雨は冷めてしまった紅茶を飲み干して僕の方をじっと見つめる、その瞳はたっぷりの涙で溢れている。
「誠…くん…今から話す事聞いたら嫌いになっちゃう…」
そう言うと涙が美雨の頬を伝う、美雨の眼から涙が止まらない
僕は右手で美雨の涙を拭うと美雨を抱きしめた。僕の腕の中で泣く美雨は普段大人びて見えるがやっぱり幼い少女に見える。
美雨は泣き止むと椅子に戻りふぅーと大きく息を吐いた。
「どっから話したらいいかなって、いろいろ考えちゃって…」
「美雨が話して良いと思うとこからで良いよ」
そう言うと美雨はウンと言うようにコクンと首を縦に振った。
「あたしね。一人暮らし始めて暫くして寂しくなちゃってSNS始めたの。そこで知り合った人と付き合ってたのね」
「うん」
「でもさぁ、その人には家庭があってね。」
その言葉に僕は言葉が出なかった。
「やっぱり引いちゃうよね。結局不倫だもん。でもその頃はその人のこと大好きで何時もは会えないのに会ったら優しくて、離婚してわたしとちゃんと付き合うって言われて舞い上がっちゃって…馬鹿みたい」
僕は黙って首を横に振った
「でも、結局彼は離婚なんてしないって言い出して…終わっちゃって…寂しかったの。その頃SNSで慰めてくれた人とつい会ってホテル行っちゃって…」
「美雨、言いたくないことは言わなくて良いんだぞ」
「ううん、ちゃんと話すから…その人に裸の写真撮られちゃってて…もう一回会うの断ったら写真をSNSに載せられちゃって…」
「なんでそんな酷いこと出来んだよ」
「うん、そうだよね。私のSNSの仲の良いおねーさん達がそいつに抗議してくれてすぐそいつ写真消してアカウントも消したんだけど…暫くしてなんかね、最近つけられてて」
「そうなのか?大丈夫だったのか?怖かっただろ」
「うん、この前もバイトの終わりに待ち伏せされてて、その時に誠くんが助けてくれたの」
「俺が?そうなのか?覚えてない…悪い。」
「ううん、気にしないで、凄い酔ってたもんね。でも凄い怒鳴ってくれて私の手を引っ張って二人でそこから走って、私…誠くんヒーローみたいだなって思って、ドキドキしちゃった」
そう言って美雨は小さく微笑んだ。
「それでか。なんでだろうって思ったんだ」
「うん、朝起きたら誠くん何も覚えてないみたいな感じで、わざと知らないふりしてくれてるのかなって思ったらほんとに覚えてないんだもん」
美雨はほっぺを膨らませて怒った振りをする。
「ここ3日は何もなかったんだけど、今日バイト先であいつに似た人見かけちゃって、内容が内容で友達にも言えなくて。気がついたら誠くんのとこ来てたの、迷惑じゃない?」
「大丈夫だよ。俺も美雨に会いたいって思ってた。」
「ほんとに?」
「ああ」
美雨は涙がまだ残った眼を緩め大きく微笑む。僕はついその笑顔に見惚れてしまう。
「じゃあ、今日は俺のとこ泊まりなよ」
「良いの?邪魔じゃないかな?」
「ほっとけるわけ無いだろ。もう泣くなよ。帰りに甘いものでも買ってやるから」
「も~子供扱いしないでよーカフェオレが良いな。甘いの」
そう言って美雨は僕の手をぎゅっと握ってくる。
「わかった、わかった。カフェ・オ・レな。そろそろ帰ろうか」
「うん、後ねプリン食べたい」
いたずらっ子ぽく返す美雨の笑顔を見て僕はきっと彼女に強く惹かれてるんだなと思ったんだ。だってこの笑顔をもっと見ていたいと思ってしまう。
店を締めると僕等は手を繋ぎコーヒーショップとコンビニに寄って僕の部屋に向かった。美雨を招き入れ部屋の鍵を閉める。
僕らは一晩中寄り添って色んな話をした。
たくさんの話を。二人きりだからと抱き合うことも無くただ寄り添って、僕が寝落ちしそうになったなった時、僕らは唇を合わせた。
美雨の柔らかな唇の感覚がとても気持ち良くて僕は深い眠りについた。