束の間
どうして僕がこんなにも愛される事に執着してしまうのか伝えようとするとかなり昔まで遡らなくてはいけなくて
簡単に言えば男に溺れて僕を置いて出ていって自ら命を絶った母親のせいかもしれないし、今までの恋愛経験からかも知れないね。
とりあえず昨夜酔って記憶を無くして、今僕のベッドで寝ている女性が誰なのだろうかと宛もなくなく思いながら
少し冷めかけたコーヒーを口に運んで外を見ながらちょっとCOOLな男を演じているけれど、内心は凄く動揺してる。
とりあえずこういう時は何かのドラマの様に気の利いた近所のパン屋のパンでも買って来て「朝ごはんだよ」と気楽に差し出していい男でも演じてみようか…
はてさてそうこういろいろ悩み過ぎているからコーヒーも冷めてしまったわけでズボンだけはいて上半身裸という意味の分からない中途半端な格好のまま意を決して出かけようと上着を取りに行った時に彼女は目を覚ました。
「誠くんおはよう」
半分眠たそうに僕の方を見ながら微笑んだ彼女に見惚れてしまうのは彼女が裸だからでは無くてなんと言うかはっきり言ってかなり美人だからだ。
それこそが僕の戸惑いの原因で、彼女みたいな美人をみたらそうそう忘れないだろう。
だがしかし僕は目が覚めるまで彼女の記憶なんて一切無かったしこんなにも戸惑っているのもそれが原因なんだ。
「ああ、おはよう…」
とりあえず微笑んでみたつもりだけどきっと変な顔だ
「ん?どうかした?」
「え?いやなんでもないよ。うん。」
「本当に?ちゃんと美雨の事覚えてる?」
「ああ…もちろん…悪いちゃんと覚えて無くて」
すると美雨は両手に顔を埋めひくっひくっと身体を揺すりながら
「ひどい…昨日はあんなに愛しあったのに…」
「悪い、すまない」そう言って僕が美雨の手を取ろうとすると、急に顔を上げる。その顔には涙なんて流れてない。
「嘘だよー。だって誠くん服まで脱がせて爆睡しちゃったんだもん」
そう言うと美雨は僕の差し出した手を自分の左の乳房に押し当てた。
「残念だからサービス」
そう言って微笑む。悔しいがその顔が可愛いから逆に悔しい。
「帰らなくていいのか?」
「それ、人の胸触りながら言うかな?」
そう言うと美雨は身体を起こし服を身に着け始めた。
「あーーお腹すいた。」
あらかた服を着た美雨は自分のバックを手に取ると
「来がけにパン屋さんあったよね?何か買って来るから誠くん、飲み物用意しててよ」
そう言って出かける用意をし始めた。
「コーヒーで良いのか?」
そう返した僕に美雨は微笑みながら
「うん。すぐ戻るから待ってってね」
と微笑み玄関を出て行った。
僕はほんの束の間ボーゼンとしたまま
あの日出て行った母親の台詞を思い出しながら
美雨はもう戻らないんじゃ無いかとそんな気になった。
あの人もそう言った
「誠、すぐに戻るから良い子にして待ってるのよ」
と…嫌なフラッシュバックが消えて僕は慌ててコーヒーの用意を始める。
昨日初めて会ったであろう少女の何気ない約束を信じて
待ってみることにした。
思いがけず美雨との関係が続いていく事なんて考えもせずに
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