ピエロ
お久しぶりの方はお久しぶりです、はじめましての方ははじめまして、にとろんと申します。
今回は短編です。少年の頃にピエロが嫌いだった男の昔話です。久しぶりに書いた&構想なしのぶっつけクオリティなので読みにくかったらそれこそピエロのように笑ってやってください。
それでは、どうぞ。
私の子供の頃の話だ。
私はピエロが嫌いだった。あの奇抜なメイクや服も、クネクネとした不思議な動きも、喋らないのも、仮面のように常に笑顔なのも何もかもが不気味で怖かった。サーカスなんてほとんど行ったことはなかったのだけれど、彼らは印象的で私の頭を離れなかった。
そんな私がみた夢の話。
あれはまだ小学校三年生だったころ、私は祖父母にサーカスに連れていってもらった。ピエロは怖かったがそれよりも大好きな祖父母が遊びに連れていってくれるということが嬉しかった。薄暗いテントの中で色とりどりのスポットライトの光が動きまわり、綱渡りだったり空中ブランコだったりを華々しく映し出していた。もちろんピエロも登場してジャグリングや玉乗りを披露したが、私はあえて見ないようにしていた。
サーカスが終わってテントから出ると外はもう夕方で、その日はそのまま祖父母の家に泊まった。祖母の手料理を食べて、祖父と風呂に入り、畳の上の布団に寝転ぶと疲れていたしすぐに眠くなって意識がだんだんとなくなっていった。
気がつくと私は今日行ったサーカスのテントの中にいた。ステージの真ん中に立っている私はスポットライトで照らされていて、辺りを見回しても観客席には誰もいない。薄暗いはずなのに不思議と遠くまではっきりと見えた。私がパジャマ姿で呆然と立ち尽くしていると後ろから誰かに肩を叩かれた。振り返るとそこには奇抜なメイクをして、奇抜な服を着た真っ赤な鼻のピエロが立っていた。
私は突然すぎる出来事に恐怖と驚きで動くことも声をあげることもできなかった。息がうまくできなくなって、汗が止まらない。ただただ線のように細い目と見つめあうことしかできなかった。
どのくらいの時間がたっただろうか。私とピエロの静寂は思わぬ形で破られた。
「やあ、こんばんは。」
ピエロが喋った。内容はただの挨拶だったがずっと喋らないものだと思っていたピエロからの突然の言葉はとても衝撃的だった。その声を聞いた瞬間、不思議と私から逃げたいという思いは消え去り、「こんばんは。」と彼に挨拶を返していた。今考えてもどうしてそうしたのかはわからないが、とにかくその時私は彼と話すという選択をした。
「君は今日僕のサーカスに来てくれていたよね。」
「うん、おじいちゃんとおばあちゃんにつれてきてもらったんだ。」
「そうかい、君のおじいちゃんおばあちゃんはとても優しいんだね。」
「そうさ、ぼくをとってもかわいがってくれるよ。」
「でも君は僕が出てきた時はなぜだか楽しくなさそうだったね。僕の演技はつまらなかったかな。」
「いいや、あなたのジャグリングやたまのりはとってもすごいよ。でもね、ぼくはピエロがこわいんだ。」
「ピエロが怖い?それはまた何でだい?」
「だってピエロはへんなかおをしているじゃないか。」
「そうかな、君のママだって顔にたくさん落書きをするだろう?あれとおんなじさ。」
「それにピエロはふくもへんだよ。」
「君のパパもお仕事の時は変な服を着ているじゃないか。」
「クネクネうごくのだっておかしい。」
「僕の体がやわらかいだけだよ。」
「あとはなんにもいわないのもこわいんだ。」
「僕は今君とお話ししているよ?」
私があげるピエロが怖い理由について彼は次々と言葉を返してくる。私はなんだか言い負かされているみたいで悔しかったが、
「ずっとわらっているのもきもちわるいや。」
この私の言葉にピエロが一瞬口を止めた。そして今までとは少し違った声で
「君は笑顔が怖いのかい?」
と返してきた。それに私も言葉を続ける。
「ちがうよ、ぼくらだってわらったりはするもの。でも、わらうだけじゃなくておこったり、ないたりもする。ピエロはずっとずっとわらっているだけで、まるでおにんぎょうみたいでさ。」
「なるほど、確かに僕らはずっと笑っているけれど、怒ったり悲しくなったりはするんだよ。」
「ほんとうに?」
「本当さ、誰かに叩かれたり悪口を言われたらそいつが嫌いになるし、君みたいに僕のサーカスに来てくれた子供たちに楽しいって思ってもらえなかったら悲しくなるもの。」
「ごめんなさい、あなたをかなしませるつもりではなかったんだけれど。」
私がそう言うと、彼はしゃがんでその大きな手で私の頭を撫でながら答える。
「ああ、君のせいで悲しくなってしまったわけではないんだよ。僕は君を笑わせることができなかったことが不甲斐なくて悲しいのさ。」
「でも、かなしいっておもったのならないてしまえばいいのに、どうしてピエロはわらっているの?」
「君は優しいね。でもね、それでもピエロは笑うよ。自分が怒ったり悲しくなったりするのが嫌だからこそね。誰でも笑っているときが一番楽しいだろう?僕はみんなに楽しんでほしいんだ。みんなに笑顔になってほしい。そのためには自分は笑っていないといけない。怒った顔や泣き顔を見て楽しいなんて思えないからね。そんな僕を見てみんなが笑ってくれるのならずっとずっと僕は笑うよ。」
彼は笑っていた。それはピエロの笑顔ではなくて、彼の笑顔で、たぶん、いや、絶対私もあの時笑っていた。
そこから先はあまり覚えていなくて、気がつけば祖父母の家の布団の上だった。以上が私が子供の頃にみた夢の話。私の大切な思い出。
「そろそろ出番です!よろしくお願いします。」
「ああ、すぐに行きます。」
控え室に入ってきた同じサーカスの団員に返事をして、奇抜なメイクをして、奇抜な服を着た私はステージへと向かう。
今日も笑うために。
お疲れ様でした。私の作品を読んでいただいてありがとうございます。今回はピエロを題材にしたのですが、書きながら調べているうちにピエロにも色々な歴史があることを学びました。長くなるのでここでは書きませんが気になる方は調べてみてはいかがでしょうか。
内容に関してですが(本文を読んでいない方はネタバレ注意です!)ピエロの笑顔に関する考え方は看護系の仕事をしている母の話を少し改編したものです。ただの諦めからの自己犠牲ではなくて、信念のある行動だからこそ他人の心を響かせることができるということが伝わっていれば嬉しいです。
久しぶりに小説(こんなもの小説とは言わん!なんてことは言わないでください…)を書けて楽しかったです。また何かしら書きたくなったら投稿するのでもし見かけられたらチラッと覗いてみてください。では、また会う日まで。