テレビの中の人はバカ兄である
食堂の看板娘(女子高生)奈々瀬とお気に入りのお客さん(すてきOL)とのほのぼの会話。別名:バカ兄にたかれるいいネタを手に入れた最強妹のお話。
私の家は食堂兼居酒屋である。私はそこの看板娘。こらそこ、本当に娘なのだ、しかもぴっちぴちの女子高生だぞ!健康的な小麦色の肌の部活大好き女子高生である。陸上部で走っているせいかちょっと落ち着きがないけれど、役に立っているはずだ。
夜のうちはファミリーも利用するので、定食類も昼と同じように出している。夕食の時間帯がピークなので私も注文をとったり運んだりと大忙しである。そんな私には最近お気に入りのお客さんがいる。惚れているわけじゃない、だって女の人だし。なんか、いい人なんだ。疲れた顔して入ってくるのに、こっち見るとやわらかい笑顔になるの。だらしなくはないけどちょっと着崩れたスーツが色気あるっていうか。
色黒なのが悩みって打ち明けたら「奈々瀬ちゃん、しゅっとしてるからむしろ女の子からもてもてなんでしょ。男の子はそういう女の子に嫉妬しちゃう時期があるんだよ。妬みの時期がすぎれば男は寄ってくるよ、うじゃうじゃ」手をワキワキさせながら彼女が言うので、腰が引けてしまった。今好きな人はいるのと訊かれ、いないと答えると、「彼氏ができたら絶対見極めてやるからネ」と親指を立てられた。お、漢らしいよ姐さん。
今は来店が待ち遠しい彼女であっても初対面のときは私の印象は最悪だった。彼女には話してないが、私には兄が居るのだ。よりにもよって芸能人の。顔だけでなく仕事にもまじめに打ち込んでいるようだが、ずぼらな為か結構頻繁に私が部屋の掃除をしに行っていた。そうしたら兄のファンに目を付けられてしばらく食堂にファンが押し寄せて大変だったのだ。あのときのことは口にしたくもない。バカ兄貴に「あんたの部屋には二度と行かない!」ってメールしたら「パンツはいてたら女って思われないから大丈夫だ」と返ってきたので父母に見せた。案の定激怒っすよ。ふふん、いい気味。こそこそ帰ってきて私に平謝りでおこづかいを差し出してくるのをかっさらってやった。
そんなくだりがあって女性客には厳しい目を向けていたわけですよ。忙しい時間帯のときに話しかけられてちょっと棘があったと反省している。彼女はニコニコしながら「部活も忙しいのにえらいね」と言ってくれたのに、兄のこと知って勘ぐってるんじゃないかと邪険にしたのだ。母に尋ねると彼女は純粋にごはん目当てのお客さんで、店に来るときは、大抵青白い顔で一心不乱にご飯を食べているちょっと気になるお嬢さんなんだって。いつ倒れるかと心配だったのよね、といつも笑顔のお母さんが苦笑いしてた。母親が亡くなっててここのごはんが家庭の味みたいでうれしいって言ってくれるからお父さんもちょっと話すのよ。無口な父にそうさせる彼女に私は心底驚いた。余計な感情を抜いて見たら、父の作った定食をおいしそうに食べて、父と母を優しい目で見つめる彼女がいた。
そうして大好きになった彼女だが、うちの兄に遭遇していたらしい。テレビ番組でかっこつけた兄が(かっこつけるのが職業なんだろうけど)出ているのを見ていたら、ご飯を食べ終えた彼女がテレビをじっと見つめている。タイプなのか聞いたらきょとんとした顔で似た感じの人に会ったと言う。気になって先を促すとそれは兄だ!というおバカな行動をとっていた。部活で鍛えた腹筋がここでも痛めつけられた。しかも、彼女は兄に全く気付いていない!!私が笑いをこらえて震えているのを、彼女は不審者に怯えていると勘違いして謝ってくれた。こらえきれなくて涙が出るくらい笑ってしまった。私は彼女が大好きだ。強引に彼女とアドレス交換し、写メも一緒に撮った。
あとは兄に見せびらかしてやろーっと。
追加のオコヅカイ、いくらもらえるかな~。
バカ兄、今回出てこれませんでした。