episode2―(1) 「初陣」
覚醒直前の断片的な思考で、これは夢なのだと結論を出した。
黄金の騎士が曇天の空を見上げている。右手には鞘のみならず、鍔から柄頭に至るまでが黄金造りきらびやかな細身の長剣が握られていた。刀身は向こう側が透けるほど澄み切っており、どんな素材で構成されているのか検討もつかない。勇者が持つとすればこんな感じの剣が相応しいだろう。
剣を握る騎士は、まだあどけなさを残す少女だった。
癖のない艶やかな黒髪は三つ編み。透明感のある真っ白な肌。切れ上がった両の目は紅蓮の灯火を宿している。顔立ちはユグアース人のものではなく、よく慣れ親しんだ東洋人のものだった。
少女は黄金の剣を片手に曇天の空を見上げる。
ぽたり、と彼女の頬を雫が伝う。一つ、二つ、三つ――やがて雫は彼女を濡らした。
大地には何千という人間が転がっていた。どれもがおびただしい血を流し、体と大地を縫い付けるように剣が打たれている。生者はいない。
よく見れば少女もボロボロだった。流麗な騎士鎧のところどころが砕け、肩や背中が剥き出しになっている。足元近くまである長いスカートはスリットを入れたように裂け、傷に包まれた足が露になっていた。
戦場を終えた大地には黄金の女騎士しか立っていなかった。
『……これが……』
カラン、と黄金の剣が死んだ大地に音を立てて倒れる。
同時に少女は膝を折り、嘆くようにして地面に爪を這わせた。
『こんなものが、勇者だというですか』
光を失った瞳は力なく虚空だけを見つめている。恨むことも怒ることもせず、ただただ己の愚かさだけを抱かされたように少女は世界に呪詛を吐き出した。
『私は言われた通りに世界を救った。言われた通りに国を守り、魔物を殲滅して、逆らう貴族を葬り、知恵を授け、弱者に善意を施し、強者に媚を売り、王には身体を差し出し、全てを捨て、魔王を倒して――なのにどうして、私こそが悪だと糾弾されなければならないのですか』
そう叫んだ少女は顔を上げ、俺を捉えた。
いや、実際に彼女は俺を見ているわけではないだろう。そこにいるはずのない誰かを思い浮かべ、叫んでいるに過ぎない。
全てを失った空っぽの彼女の、慟哭。
遠くから大勢の足音と声が轟くのが聞こえた。
ピクリと反応した少女が顔をあげれば、援軍らしき勢力が何万と迫ってきていた。
少女は虚ろな瞳を前に向け、取り零した剣を拾い、よろよろと立ち上がった。だがそれは疲労や痛みからの弱々しいものではない。触れればたちまち切り刻まれてしまいそうな雰囲気を纏い、自分を脅かす敵意に立ち向かう。
『未来の勇者はどうか……私のようにならないでください』
夢が終わる。
***
遠征のため特注して作らせた装備を身に付ける彼らを一言で表せば『馬子にも衣装』だった。この日のために事前に支給されていた装備を使用せず、いきなり本番はマズいので訓練でお披露目会は終わっていたのだが、別行動していた真と愛理だけは今日が初だ。彼らの周りには和気藹々とした緊張感のなさが漂っていた。
あの妙に馴れ合う空気はどうにも受け付けず、居場所のない俺は遠巻きにそれを見つつ、自分の装備の点検をしていた。点検といっても着心地は悪くないかだとか、位置はしっかり固定されているかだとか、そのくらいしか確認することはない。
そのなかでも上下は制服とほとんど変わらない。せいぜい皮ブーツと腰にある短剣くらいだ。
一通りチェックを終え、雪人たちはもう出発したのかな、などと考えながら護衛の兵士が来るのをぼんやりと空を見上げて待つ。
ユグアースにも空や雲はあり、太陽は東から西に落ちていくし、月も一つしかない。
召喚されてからの十日間で天候は変わらなかったものの、ユーリアさんに聞いたところによると雨や雪が降るらしい。一部の地域では灰も降ると言っていたし、たぶん火山灰だろう。
文明の歩みは全然違うし世界も違うのに、妙なところで類似点がある。
まさか通貨単位が円だったり、一年のうちに季節が四回移ろったりするのだろうか。思えば異世界なのに日本語が通じてる。そのくせ文字は違うのだから手に負えない。
なんて下らないことを考えていると、ようやく兵士がやって来た。
石段に下ろしていた腰をあげてお尻についた汚れを叩いて綺麗にすると、すでに隊列になるクラスメートのところに急ぐ。
「遅れてすまない。お前らを引率するゴドウェルだ」
気持ちの篭ってない謝罪を口にする下っ腹の肥えた男。身長は一六〇センチほどだろうか。でっぷりとついた腹の肉を隠すように地面すれすれの長さのローブを羽織り、俺たちを見下さんとするためか体を後ろに反らしていた。体重を支えきれないのか、右手に持った杖で体勢を維持している。
ゴドウェルの第一印象は最悪だった。こいつは雪人の言っていた俺たち『異世界人』を気に食わなく思う連中の一人だ。
真と愛理コンビも同じ印象を抱いたらしく、愛想笑いを浮かべているが目が笑っていない。
ゴドウェルもわかっているようで、二人を一瞥して偉そうに鼻を鳴らす。
「こっちがトルカ。今回は俺たち二人が護衛につく」
柔和な笑みと角張った輪郭が特長の男。身長は二メートルを軽く越え全身を重装備で囲い、背後には身長を越える大剣を担いでいる。
トルカは軽く会釈してゴドウェルの後ろに一歩下がる。
「遠征は一週間を予定している。その間、お前らには何があろうと俺に従ってもらう。俺の指示に従って行動しろ。それ以外のやつは切り捨てる。以上だ」
あまりの物言いに、今日までちやほやされてきたからか、ゴドウェルたちが歩き出しても唖然と棒立ちになってしまったいた。俺も肉体ダメージは多かったものの、ユーリアさんにはずいぶん優しくしてもらっていた。
ゆえに無下にされたのを瞬時に理解できなかった、あるいは丁重に扱われるとばかり思っていただけにこの態度に呆気にとられたのだろう。
俺も期待していなかったと言えば嘘になる。しかし、雪人に俺たちを疎ましく思う連中がいると聞かされていた時点でなんとなくこんな奴もいるだろうと予測していた。
未だに呆けるクラスメートのアホ面に、ずいぶん偉くなったもんだと内心で罵りつつ、ゴドウェルの上から目線の態度に肩を小刻みに震わせる愛理を軽くつつく。
はっとする愛理を視界から外し、ゴドウェルたちを追いかけた。
***
俺たちが向かうのは南にある森だった。そこには定期的に駆除しなければ近隣の村に被害を加える魔物が多く生息している。個体としてさほど難しい相手ではないのだが繁殖力が異常に発達しており、どれだけ駆除しても甦るように増え続けるらしい。
この世界にもギルドと呼ばれる便利屋があり、行く先の魔物は駆け出しの冒険者の肩慣らしにはうってつけの場所だとユーリアさんに教えられた。ただし力を過信した新人が単独で挑み、屍となって帰ってくるケースも多く、ギルドの方針としてはここで魔物を何体か倒してからが、正式の冒険者ということになっている。
俺たちも十数人プラス兵士二人もいるわけだから、戦力としてはオーバーキルだろう。訓練を真面目に取り組んでいれば魔物に遅れをとらない実力を備えてるだろうし、奇天烈な動きの魔物でなければ問題はない。仮にそんなのに遭遇しても、『勇者の加護』を持つ真がいる。予想外の事態にならない限り、おおよそ安全な遠征になりそうだ。
「ふーん。あんたって小難しいこと考えてんのね」
「…………」
最後尾を歩く俺の隣には、なぜか愛理が並んでいた。肩や胸、腕は薄手の鎧に覆われ、ちょっとしたお洒落か、レオタードのような布が腰部の鎧から伸びている。背中には長剣が備わり、歩を進めるたびにがちゃがちゃと騒音の演奏会を開いていた。
戦闘の配置にはなってないけれど、道中も魔物が出てくるかもしれないのに、なんで自分から居場所をバラす装備なのか不思議でならないが、間違いなく何も考えてないのであえて口にはしない。
「なに? あたしの顔になにかついてる?」
「目と鼻と口がついてる」
「あんたにもついてんでしょ」
辛辣に返されて若干落ち込む。場を和ませるジョークにマジで返すなよ。
「……なんで俺のとこにいるんだ? 黙って真のとこいろよ。いい嫁さんになるぞ」
「よ、よよよよ嫁とかなに言てんのよ! あた、あたしは別に真のことなんて……じゃなくて!」
テンパっていた愛理は大声を出して強引に軌道修正する。
俺は真と嫁のワードを口にしたけど、別にそれがイコールで繋がってるとは言ってない。まあ勘違いして当然の言い回しにはしたけど、これだけで真っ赤になるとわかりやすすぎるだろ。
「ごめんね」
いつもの強気な表情はどこかに消え失せ、俯き加減でかろうじて四文字を絞り出していた。
はて? 愛理に謝られることは山のようにあるけれど、改まって言われるようなことでもあっただろうか?
真が好きで雪人が嫌いな彼女だから、一緒にいる俺が巻き添え食らうなんて日常茶飯事だし、異世界生活初日の言い争いについてなら、むしろビッチ発言を許してしまった俺が頭を下げるべきだと思わないでもないのだが。
記憶を掘り漁っても出てくるのはとばっちりを受けた思いでだけで、すっかり慣れた俺に謝罪は不要だという結論しか導けない。
「今さらだけど、実里ちゃんのこと」
ああ、それか。俺たちと真たちとの溝を決定的にした一件。あれ以来なにかといがみ合うようになったし、とばっちり生活が始まったわけだ。
俺は個人的に愛理は嫌いじゃないので、両人がいなければ普通に会話もするけど。
「俺じゃなくて実里に直接謝ってくれよ。俺に言ったって意味ないだろ」
「……それは、わかってるんだけど」
「わかってても実行できてないんじゃわかってないのと同じだろ。いい機会なんだから、女の子同士で和解してくれ」
俺のささやかな願いを篭めて愛理に言うと、最初はかっと怒ったように赤くし、次に申し訳なさそうに俯いて、最後に羞恥から頬を赤く染めてそっぽを向いた。
「できたらとっくにしてるわよ。でもあの子の近くにいつも雪人がいて、会うとすぐに口喧嘩になっちゃうのよ」
「あー……すぐイメージできるなぁ」
「実里ちゃんに謝りたくて行ってるのに顔を合わせるたびに言い合いになっちゃってるから、せっかく二人っきりで会えても酷いこと言われると思ってるみたいで、口を動かすだけで涙目で逆に謝られちゃうのよ」
「で、それを雪人に見られて勘違いが加速すると?」
俺が言うと愛理はクリティカルヒットでも食らったらように胸を押さえて呻くと、がっくりと肩を落として情けなく一回だけ頷いた。
「自業自得やがな」
「だからあんたに言ってるんでしょ! ね、お願い!」
ばちんと両手を合わせた愛理は、自分の容姿が優れていることを利用して、男ならドキッとして二つ返事で了承してしまいそうな上目遣いで懇願してくる。
強気で好戦的な彼女を知らなければ例に漏れず了承してしまいそうになるが、続くだろう言葉を予想するとバッサリ切り捨てるのもどうかと思う。
俺は頭をガリガリ掻いて嘆息する。
「……実里に謝る機会をセッティングして、俺が立ち会えばいいのか?」
雪人も俺が説明すれば噛みついていかないだろうけど、心配なのは愛理だ。俺が先手を打ってなにも言わないようにしても、雪人を目の敵にする愛理のことだから感情を爆発させていつも通りになるかもしれない。
ならば雪人を引き付けておこうにも、たぶん実里は一対一だと愛理と話せない。
「い、いいの!? 嘘でしたとか言わないわよね!?」
「…………」
ずずずいーっと接近してくる愛理の頭を鷲掴みにして押し返し、立ち止まってる間に離れてしまった一行に追いつくために早足で移動を再開する。背後から金属擦れる音を奏でながら、文句を言う少女が横に並ぶ。
「セッティングはするけど、そこからはお前次第だからな?」
「うん! ありがとね、ひつじ!」
素直にお礼を言われるとむず痒いな。
下手に拗れることがなかったら、雪人と愛理は憎まれ口を叩きながらも仲のいいコンビになっていたかもしれない。
そういえば、俺たちより早く出発した雪人たちはどこまで進んだのだろうか。
話によれば北の洞窟に向けて俺たちより一日多い遠征を予定しているらしい。このグループ分けは戦力を均等にすることのほかに、苦手分野の克服も含まれているように思う。
森組は連携するのは得意だが、個人戦が苦手な人が多い。深い森では大木が遮蔽物となって、仲間の姿がすぐそこにあるのに連携を上手くとれず、焦りから力を十分に発揮できない。
洞窟組は逆に個人戦が得意な人が集められている。こっちは暗闇のなかで声を掛け合い、連携技術を学ばせるつもりなのだ。実里が洞窟組なのは怪我人が多くなると予想したからだろう。
ふとユーリアさんに言われた注意事項を思い出して周囲の気配を探り――全身が総毛立った。
あの二人は何やってんだ――っ!!
「愛理、みんなに伝えてくれ!」
腰の短剣を抜き放ち叫ぶ俺に、愛理は戸惑ったように身動いだ。
「え、な、なに? どうしたの?」
「――敵だ!」
敵もバレたと気づいたのか、次々と姿を現す。
体躯は俺の胸辺りまでしかないのに、筋肉が凝縮されていてがっしりとしている。異様に伸びた長い腕に、その先にある恐ろしく鋭利な爪。くすんだ緑色の皮膚。不釣り合いなまでに大きな眼球はぎょろぎょろと不気味に蠢き、濁った黄色の光を放っていた。
ユグアースに召喚されて初めて見た人間以外の生物。
知性の欠片も見当たらなく、牙を覗かせる口からは涎をだらだらと流しているというのに、目玉には残忍な悦びがありありと浮かんでいた。
種族を残そうとする本能から来るのか、女の子を見る目には興奮の色も見てとれる。腰を粗末な布で覆うだけの一部が、不自然に隆起していた。
ぎぃぎぃと騒ぎ立てるその生物は、瞬く間に数を増やしていく。初めての戦闘に四〇、五〇は難易度高すぎではなかろうか。
短剣を構えた俺は、ようやく戦闘準備を始める面々に苛立ち、舌打ちする。
「ゴブリンの群れか。ふん、今のお前らにはちょうどいい相手だ」
でっぷり肥えた腹を揺らしてゴドウェルはふんぞり返る。
くそ、こいつはバカか。予想だにしない襲撃にみんな硬直してるだろうが。
「お前ら、さっさと塵を殲滅しろ」
トルカを近くに控えさせ、安全な場所で指示とも言えない指示を口にするゴドウェルに形容しがたい怒りが込み上げてくる。
――が、今すぐにでも短剣を心臓に突き刺し、絶命させたい衝動に駆られたことに驚きを感じる暇もない。戦う気がない奴に構うくらいなら、ゴブリンの一体でも始末した方が生き残る確率はぐんと上昇する。
地面を抉る勢いで蹴りだす。身を低く屈ませ、手近にいた一体へ肉薄する。
ゴブリンの反応は予想以上に速かった。右手に握った武器と呼ぶには無骨な棍棒を接近する俺に、横殴りに振り回す。人間ひとり分の重さはあろう棍棒を片手で振り回す小人の筋力と、もし避けられずに直撃したときの光景が脳裏を巡り、動きにわずかな淀みを引き寄せた。
しかし問題はない。
『先読』がオンになった俺の目はユーリアさんの剣を避けきれないものの、完璧に捉えるまでに至っている。音すら置き去りにする一撃に比べれば、ゴブリンのひと振りなど止まっているも同然だった。
腕が、棍棒が人体を叩く前に、すれ違うようにして短剣を首筋に一閃する。
肉を千切り、骨を切断する感触が柄を架け橋に伝わり――それを無視して腕を振り切った。
棍棒を振るう勢いに耐えきれなかったゴブリンの体が体重によってぐるりと回り、切断された首が地面に転がった。
初めての殺しは、こうしてあっさりと終わった。
「あ……」
そんなか細い声を溢したのは、はたして誰だったのか。
ついさっき感じた恐怖はもうどこにもなく、今はいかにして圧倒的に数が上回るゴブリンを効率よく減らしていくかだけが頭のなかを回っていた。
ようやく武器やスキルや魔法の準備を終えたクラスメートは俺の豹変ぶりに戸惑い、血を噴水のごとく撒き散らすゴブリンの死体に嘔吐感と嫌悪感、恐怖がごちゃまぜになった感情のせいで第一歩を踏み出せずにいた。踏み出そうともしていなかった。
まさか俺だけにやらせるつもりだろうか?
協力を拒絶していた雪人に、困っている人を見捨てるのかと語った真も、実戦になった途端に足が竦んで震えている。
「……俺だけでどうにかなるわけねぇだろ」
続けて二体の首を撥ね、絶命させる。
わざと近くにいたゴブリンを狙ってみたのだが、さらに出来上がった二つの噴水から溢れる赤色の水を頭から被った子は、目の前で起こった惨殺劇に耐えきれず、汚ならしく吐き出していた。スカートから伸びる太股からは黄色の液体が伝って流れている。
持っていた剣を落とし、体をガタガタと震わせて座り込んでしまった。
くそ、真の意見に軽い気持ちで同意するからこうなるんだ。戦えないくせに世界を救うとかふざけてんじゃねぇよ。
支給されて真新しいはず短剣は、俺の技能スキルの低さから悲鳴を上げている。上手く刃を入れられれば長持ちするだろうけど、三体を跳ねた時点で刃毀れしていた。この様子だと、あと一体か二体で使い物にならなくなる。
棍棒は持ち上がらない。ちょうど剣を手放した奴がいるし、彼女は俺のせいで戦う意思をなくしただろうから、これは不要な代物だ。
背後でゴブリンが棍棒を振り落とす気配がある。
とっさに体を反転させて喉元をかっ斬ると、短い刀身が粉々に砕け散った。
返り血を全身に浴びたことで不快感がとんでもないが、それだけで止まってたらいい的になる。動き回っていてヘイトを集めまくってるから、止まろうが止まるまいが狙い撃ちされるのは確定だ。
胃液の上に落ちた剣を拾うのは躊躇いがあったが、ゴブリンの濁った青色の返り血を浴びてるのを思い出して一瞬で彼方へ飛んでいった。
試し切りとして何体か首を撥ねてみるが短剣のリーチに慣れしまっているため、短剣以上に扱いの拙さが目立った。
「ひ、ひつじ!」
ゴブリンを切り伏せながら、声の主に耳だけを傾ける。
「なんだ?」
「い、今から加勢する!」
スキルを発動させた真が黄金の輝きに包まれた。周囲にいるゴブリンたちが一斉に甲高い声を上げて上体を仰け反らせ、苦しげに顔を覆っている。
素早く手近にいたゴブリンを屠り、後退して距離を稼ぐ。
「遅いんだよ。ミルフィスさんをいの一番で助けるっつったのはどこのどいつだよ。こんな雑魚に怖じ気づいてんじゃねぇ」
雪人の口調が移ったかな、などと思いながら、黄金の鎧を纏った真に視線を向ける。
右手には鞘のみならず、鍔から柄頭に至るまでが黄金造りのきらびやかな細身の長剣が握られているのだが――それはどこかで見たような気がした。
そんなわけがない。真のスキルは今回初めて見たわけで、そもそもこんな美しい剣だったら一回でも目にすれば忘れるはずがない。
だから、これはただの気のせいなのだ。
俺は剣を握りしめ、ゴブリンの群れに飛び掛かった。