第3話 『叫喚シュプレヒコール』
―――あれからどのくらい経ったのだろうか。
廃工場での銃声に叫喚した俺はそれに為す術も
なく銃口の前にひれ伏す事しかできず、その最期は呆気ないものであった。
目の覚めないこの身体は確かな温度すら感じる事もできず、『死後の世界』というものを改めて
実感した。思考を巡らす事はできるのに肉体は俺の命令には全く動じない。奇妙な話である。
『どうです…生きる屍となった気分は。』
「ああ、アンタの仕業かい。」
何故だかは分からない。俺と蓮を撃ち抜いた本人を目の当たりにしても、俺は「怒り」の感情を表面化させることができなかった。
「俺はこれからどうなるんだ?」
『さあ。私にも判りません。天国や地獄なんて
非科学的な物が存在する保証すらないのです。』
死後の世界なんてイレギュラー過ぎる空間で対話しているのにも関わらず「非科学的」なんて言葉がどの口から出たものか。
『しかし貴方はここでは終われないでしょう?』
意味が分からなかった。だが、その質問の意味が分かるに連れて俺の中で何かが強く奮い立つのが感じ取れた―――――。
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こんな突飛な出来事、そう起こる事じゃない。
2人が血飛沫をあげて倒れ込んだ意味すら今の僕の低速回転を続ける脳には理解できないまま、命の
危険性だけを感じ取った身体は衝動的に逃げる事を優先した。
「ハァ…ハァ…。」
普段、運動もせず貧弱なスペックの僕にはこの程度の疾走でも苦痛である。そんな事には形振り構わず容赦なく屋内を破壊する先程の発砲男による
衝撃音は段々と大きくなり近づいているのがかる。
「アハハハ!逃がしませんよッ!!!」
立ち止まるな。全力で廊下を駆け抜ける僕は
ひたすらに侵入口を目指す。
「死ぬのは嫌だ…!まだ僕は…!」
こんなところで死んでたまるものか。
その一心で壁を登り、割れた窓ガラスから身を
乗り出す僕に追いついた男は銃口を向ける。
よく見ると随分派手な格好をしているものだ。
バァン!!!
照準がズレたらしく、弾が外れたと同時に僕は
建物の外へ脱出することに成功した。着地が悪く激しい衝撃で体が痛むが、顔を上げた瞬間に目に飛び込んだのは僕を取り囲む警察の姿だった。
「あ…いや、誤解です!僕は……」
――そこまで言いかけた時、頭上で「カチャ」と拳銃のセーフロックを外す音が聞こえ、まさかと
見上げた時には僕は鮮血と共にアスファルトへと
倒れ込んだのだった。