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絶望都市のアルルカン   作者: 柴月
3/4

第2話 『フールタロット』

「駄目だ……全然わかんねえ。」


本日何回目になるのだろうか。こんな弱音を聞くのは。試験中ですらお手上げという意味を多大に込めてそう呟く、慎みを覚えない男。


それが結城に並ぶ俺の良き友達、『香川 蓮』の

表立った特徴である。


学力的にも平均を下回っているらしく、授業や

試験中では常に苦い思いをしている蓮だが、

部活動でサッカーをやっており、それなりに体格も良く、何といっても心の器が広いこの男は

とても頼りがいがある。


試験終了を表すチャイムがなると、それまで

教室内で保たれていた沈黙がどっと溶け、

試験の感想を言い合うクラスメイトが目立つ。


「おっしゃ、やっと終わったぜ!」


両手を大きく広げて大声で言う蓮。

それに時折驚いて怯える結城は蛇に睨まれた蛙のように固まっている。


「も、もう…。大きな声出さないでよ…。」


「はは!悪い悪い!!!」


ガッハッハと下品に大笑いする彼を取り囲む沢山のクラスメイト。所謂、陽キャラというやつだ。

羨ましい限りである。



今朝、結城に廃工場に誘われた件では、メンタルの弱い俺らを補うべく蓮も誘ったらしい。結城に俺のメンタルを指摘されるのは癪に障るものもあるが、この際仕方のない事だ。


試験のみの日程である本日の学校生活は終わり、

俺らはさっそく港近くの廃工場を目指した。

まだ平日の昼時ということもあり、人気は然程

無かった。しかし日の照る時間帯でありながらも外はかなりの冷気に包まれており、一気に鳥肌がたつのがわかった。


「にしても今日はよく冷えるねー。」


おっとりした口調でそう言う結城に、「まあな」

など適当な返事を返したり、


「結城も運動すりゃあこのくらい大丈夫だ!」


などと暑苦しく語る蓮とタジタジな結城の会話を見守りながらアスファルトを進んでいくと、

あっという間に海辺が目に飛び込んできた。


「ん、蓮。結城。そろそろだぞ。」


そういうと二人は都市伝説への遭遇を目前にしていると大興奮しており、特に結城に至っては廃工場へ走り出し、勢い余って転倒してしまった。

俺たちが廃工場へ到着すると同時に港からは貨物船の出港を合図する鈍い音が鳴り響く。


「もうすぐアルルカンに会えるんだね……!

折角だし沢山ダンス習いたいな……!」


結城が『鉄塔の踊り手』に会う目的はそれらしく、胸を高鳴らせている。


廃工場であるため、正面の入口は当然固く施錠がされていた。なので廃棄物などが積まれている

路地裏を抜け、手頃な石で窓を割って侵入する

ことにした。


「だ、大丈夫なのか巧海。こんな方法で。」


「人気もないしバレはしないさ。」


そう言って俺は頭二つ分高い所にある窓ガラスへ

石を放り投げると、『ガシャン!!』とお決まりの衝撃音が耳に伝わる。


流石の俺もここまでやるとかなり高揚していた。

そりゃあそうだ。いくら無気力体質といえど、

俺だって純粋な少年だ。気持ちが高ぶらない理由はないだろう。


「よし、お前ら。準備はいいな?」


「ああ。」


「僕もいつでもOKだよ。」



俺が窓から屋内へ飛び込むと続けて二人も追うように飛び込んでくる。


「随分埃っぽいし…何だかいい気分しないね。」


「ああ。まあ閉鎖されたのは5年も前の話だしな。当然といえば当然のことだ。」



飛び込んだ先は薄暗いが、窓から差す光でここが事務室であることが確認できた。脚の錆びた机や

表面の酸化した鉄製ロッカー。特に一般事業所のオフィスと変わりはない。


室内を色々調査してみたものの何一つ手がかりになりそうな物は見つからず、1時間は経過しているだろう。


ガチャ…


「っ!?」


突然開いたドアに蓮が振り向くと同時に銃声が鳴り響き、蓮は力なく床に倒れ込んでいく。


何が起こっているかすら理解できない俺は怯えきって尻もちをついたと同時にこちらへ向けられた銃口は再び銃声を上げた――――。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あーあ、貴方達も迷い込んだのですか…。


嘘も真実までもが混合する闇へ…。


…大アルカナ 『FOOL 』…愚者ですか。


実に可哀想な方々ですね。


運の尽きないことを願いますよ……。

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