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絶望都市のアルルカン   作者: 柴月
2/4

第1話 『日常茶飯』

けたたましいアラームで目を覚ました。


カーテンの隙間から差す朝日は覚めたばかりの

目には少々強過ぎる程で、鳥たちの煩いさえずり

が聞こえるあたり、どうやら今日も快晴だろう。



現行高校2年生である俺、『篠原巧海』は

現在進行系で猛烈な倦怠感に襲われていた。

といっても無気力体質である俺にとってこれは

寧ろデフォルトであり、特筆することでもない。


だが、今日だけは話が違う。


多機能デスクの対面の壁に掛けられたカレンダー

を見ると【11月26日 月曜日】とある。


この『月曜日』というキーワードによって

一週間の幕開けであるという情報が脳に伝達されると共に本日最初のため息が零れる。


しかしそれに追い討ちをかけるかの如く、予定欄には【定期試験 1日目】と大きく書かれているのを目にすると、気力を失った俺はだらしなくベッドに倒れ込んだ。


「最悪だ…………。」


どんなに足掻こうとも今日の日を迎えることは

不可避らしく、起床を催促する母の怒鳴り声が

聞こえてくる。正直耳が痛い。


仕方なく制服であるブレザーに袖を通し、一通りの準備を終わらせて食卓台のある1階へ降りる。

が、目に飛び込んできたのはとても朝食だとは

思えないような料理の数々であった。


豚骨ラーメンに鳥の唐揚げ。サイコロステーキの奥には手作りであろうピザが見える。

母さんは朝食を何だと思っているのだろうか。


「ちょ…、これ、マジ……?」


「マジも何もないわ。ちゃんと残さずにね。」


最後は母親らしい事を言ったもののやはり鬼だ。

明日から朝食担当は俺にしたほうがいいだろう。


全く…朝から先の思いやられる。

とんでもない厄日にでもなるのではないのか…。


まあ、何にせよ、これまでどおりに全てを

受け流せば然程苦労する事もないだろう。

そう心で唱えて、俺は目を現実に向けた。





小春日和。


初冬近づくこの時期にもなると、コートやダウンジャケット、マフラーなどの防寒着に身を包む人も増え、冬の訪れを感じさせる。


俺の通う高校は電車で10分の所にあるのだが、

ほとんどの時が満員であるためとても乗車する気にはなれず、仕方なく徒歩で長い時間をかけて

登校している。


特に誰か一緒に登校する友達がいるわけでもなく

長い通学路を1人歩いていくのだが今日は違った。


「篠原くーん!!!」


変声期に見放されたかと思うほどの小学生気質なその声はクラスメイト『橘 結城』のものだった。


『結城……お前なんで徒歩なの。』


『いやー!それがね…電車に乗り遅れちゃって

さ……勘弁してほしいよね!』


何に対して勘弁してほしいのかは分からないが

とりあえず馬鹿だということは分かった。


それから2人で登校するも長い沈黙が続き、

結城は耐え切れなくなったのか話題を切り出す。


「ねえ、篠原くん!鉄塔の踊り手の話…………

まあ、知ってるよね?」


こいつの話す事といえば町中から溢れかえる噂や都市伝説の数々。今回はその中から最も有名な

『鉄塔の踊り手』の話を持ち出した。


「でね、その都市伝説なんだけど、最近また新しい噂が立ち始めてるんだよ……!!」


「新しい噂?まだ説なんかあんのかよ。」


『鉄塔の踊り手』というのは町外れの鉄塔の頂上で、毎夜道化師の格好をした人が踊り狂っているというもの。これまでも関連した沢山の噂が幾度となく更新されてきた。


「港のそばに廃工場があるでしょ?そこに鉄塔の道化師がいるらしいんだよ……!!!」


結城は好奇心旺盛に話すが、特に興味はない。


「へ、へえ……廃工場にね……。」


「でね!僕、その道化師を見てみたいんだ!

だからさ篠原くん!」


嫌な予感がした。

コイツのことだ。すぐに廃工場に誘うに違いないだろう。すぐに話題を変えなければ。


「ま、待て!お前廃工場にいって道化師を見るなんていっても簡単じゃねえんだぞ!?」


「え?僕何もいってないよ?」


「え、あ、……」


「まあ、当たってるんだけどね!」


駄目だ。勢いづかせるな。話題を変えなければ。

廃工場に道化師がいるなんてあくまで都市伝説。

嘘ならば時間の無駄だ。


「……俺はパス。」


「え!?なんで!?」


「俺はそういうの興味ないんだ。悪い。」


無愛想にそういうと、結城は涙目で俺を見た。

え?なんで泣いてんだ?


「一緒にいごヴおおおおおよおおあ!!」


後半はうまく聞き取れなかったが、俺に結城を

泣かせる理由はない。

なんてタイミングで良心が芽生えるのだ。

というかこれは良心なのだろうか。


「わ、分かった……泣くなって。」


「ほんと!?」


結城は一気に泣き止み、笑顔へと戻った。

その時間、わずか0.2秒。

ハメられた気分がして腑に落ちない。


まあ、たまには悪くもないだろう。


「…………今日だけだからな。」


「ありがとう!!篠原くん!!」



やはり今日は疲労が大きそうだ。


そうして、俺、『篠原巧海』のアルルカンを

巡る1日は幕を開けた。




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