お題短編小説 タオル 靴 社会人
部屋に響くシャワーの音。
「はぁ……」
その音にかき消されて男のため息は人に、いや自分にすら届くことはない。
いつものようにシャワーを浴びて起きたばかりの自分の体を覚醒させていく。
シャワーを浴びた後、男はタオルで全身を入念に拭く。
適当に拭くと服が自分の肌に張り付いて嫌だからだ。
拭いたタオルを洗濯機の中に投げ入れ、男は着なれたスーツを着ていく。
「俺も社会人になってからもう10年か……」
この10年間、毎日が同じだったというわけではない。
会社に入ったばかりのころは、自分がこの会社の重要な歯車になってやると心に決めていた。
その為に毎日の業務は手を抜かず真面目にやった。
課長にほめられた事もよくある。
しかしその意識は数年もすれば薄れてきた。
与えられた業務を淡々とこなす日々。
課長にほめられることもなくなった。
仕事も段々手を抜くことが多くなった。
「昔はあんなにやる気だったのにな……」
そんなことを呟きながら履きなれた靴を履く。
さぁ、今日も退屈な日々が始まる。