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スライムなダンジョンの閑話集  作者: 伊藤
4章 別視点
1/18

スケルの留守番 「骨の記憶」 前編

「打てば槌!」


 ばごん、とけっこうな音を立て、頭部に直撃を受けたリザードマンが悶絶する。

 横合いから新手の接近を感知してさっと手首をひるがえし、


「構えば盾!」


 一撃を受け、じゅおおっと周囲からあがる驚嘆の声に気を良くして、さらにすちゃっと頭上にあててみせる。


「被れば兜!」


 …………。


 ――で? という白けた雰囲気。

 それを察した白髪に白肌の少女は、頭に持ってきていた物をあらためて両手に構えなおすと、


「回せば凶器ぃ!」


 何事もなかったように状況を再開した。


 白ずくめの少女の細い腕がぶん回しているものは、背もたれと座面と四脚を持った一般的な椅子そのものでしかなく、確かにそんな物でも角が当たれば凶器にだってなるにはなる。

 しかし、その椅子は見た目こそ古い木造りの安物でしかなかったが、実に恐るべき代物だった。


 最強の生物種として君臨する竜族。

 その一人、黄金竜ストロフライ・ヴァージニア・ウィルダーテステがその椅子に施した魔法は、彼女にしてみればなんということのない、ほんの戯れじみたものに過ぎない。


 自分が座っても壊れないように。


 だが、その結果は下々の者にとって超絶したものだった。

 高温低温、圧力や衝撃にも変化を受けることのない最強の椅子と化した物体を無茶苦茶に振り回されれば、それはもう凶器というより狂気の沙汰となる。


 その威力を身をもって知り、恐れ戦いた様子で大勢の蜥蜴人達が距離を空ける。

 彼らはいきなり乱入してきた突然の相手にどんな反応をすればよいのか、怒りより戸惑い気味だったが、如何せん爬虫類顔の表情を読み取ることは慣れた者でなければ難しい。


 それ以前に、周囲の困惑など微塵も気にしない様子で白色少女は手にした椅子を肩に担ぎ、


「まったく! 暴力なんか振るったところで物事はなんにも解決しないでしょうに!」

「えっとぉ、スケルちゃんがそれいうのはちょっとどうかなー」


 堂々と言い放つ隣で、ノーミデスが突っ込みを入れた。



 とある場末のダンジョンに住む魔物であるスケルが、彼女の仕える主人とその仲間達が遠出にでる際の留守番役を任されてから二日目のことだった。


 一人きりの食事をすませ、飼育部屋のスライムの世話も終わり、さっそく暇を明かして部屋のなかでごろごろ転がっていると、


「スケルちゃーん、たぁすけて~」


 洞窟の天然管理者である土精霊ノーミデスののんびりした悲鳴が聞こえてきた。


「はいきた!」


 と答えて地下に降りた先で彼女が見たものは、いがみあうリザードマン達とリザードマン達。屈強な肉体を持った蜥蜴人達が、なにやら険悪な雰囲気で互いにしゅらしゅしゅしゅと鋭い舌鋒を交わしあっていた。


 手にはそれぞれ地下洞窟を掘削するためのツルハシやらスコップを持っていて、それは彼らが元々使用してきた石製のものではなく、掘削にあたって町から購買された鉄製の工具。

 武器ではないが、武器に使ってなんら支障のない代物を手に、二つに分かれた集団は徐々に興奮のボルテージをあげつつあり、いつ爆発してもおかしくない。


「いったい何事で?」


 土精霊にこっそり事情を聞けば、眉をひそめた土肌の美女から答えが返ってくる。


「なんか、トカゲの子の若い方と若くない方とでケンカしてるみたい~」

「あー、なるほど。例のやつですかね」


 洞窟の地下空間に昔から群れを作っていたリザードマン達が、新しく魚人族達との共生生活を始めるにあたって群れの中でいざこざが起こしているらしいという話だった。


 先日の一件の鬱憤や、年代間の意識差。それに伴う世代交代の波が云々。

 つまりは群れの中でよくある主導権争いのあれということで、気をつけるよう主人から言われてはいた。しかし、留守中に問題が顕在化することもあるかもしれないとはいえ、まさか二日目でとは思っていなかった。


 さて、どうしたもんでしょうとスケルが様子を見守っているうちに、一部のリザードマン同士がとっくみあいになりかけ、それを周囲が止めようとしてまた別に掴み合いが始まる。

 あれよあれよとわかりやすい激発の構図が生まれ、


「スケルちゃん、なんとかしてぇ」

「なんとかと言われましても。ノミさんの魔法で、ぱぱっと全員拘束しちゃったりできないっすか」


 ノーミデスが難しい顔をして唇に人差し指をあてる。


「うーん。ちょっとアウトかなぁ」

「おや、そうなんで?」

「アウトって思っちゃったらアウトだからぁ。精霊にも色々あるの~」


 まったく説明になっていない説明に、スケルは深く考えず頷いた。


「精霊さんってのも大変なんですねぇ」

「そうなのよ、大変なのよぉ」 


 周囲ではいよいよ騒動が熱を増している。このままでは流血沙汰にまで発展しそうな状況で、さすがにこれ以上のほほんとはしていられなかった。


「すいません。ちょっくら地上まで送ってもらってもよろしいです?」

「ええぇ、帰っちゃうの~」


 おっとりと抗議の声をあげる精霊に、


「いえいえ。武器を持ってくるだけでさ」


 にんまり笑ったスケルは地上から食卓の椅子を持ち出し、地下に戻るや否や冒頭の通り、乱闘中のリザードマン達双方に踊りかかっていき――


「打ってよし護ってよし被ってよし! 椅子とはかくもはずれざりけり! どうしてもやるってんなら、椅子神拳伝承者たるこのイス・スケルが相手になりますぜ!」


 びしりと変なポーズで椅子をつきつけられたリザードマン達が、表情の乏しい蜥蜴顔に困惑した気配で沈黙する。


 洞窟の上、その山頂には竜が棲む。

 蜥蜴人族にとっての竜族は信仰の対象であり、スケルの主人とその一行は竜の御使いとして彼らから認識されている。


 だから、両手を広げて片足をあげた奇妙なポージングでの言葉にも十分な強制力があったが。しかしそのリザードマン達には喉元までせりあがる不平不満を飲み下している感が窺える。


 洞窟の地下空間で共生生活を始めようとしている二つの種族が、そう易々と上手くいかないだろうということは、両者の生態や文化、言語が異なることを考えればむしろ当然のことだった。


 かといって放っておくわけにもいきませんが、と白鳥の構えを取りつつスケルは考える。 

 強制的な支配や統制ではなく、物理的な棲み分けや拒絶でもなく、穏やかな共栄などという甘ったるい理想を自分の主人が望んでいることを彼女は知っていた。


 作られた被創造物としてはその希望を叶える義務が彼女にはあり――はて?と内心で首を傾げる。

 創造者と被創造物の間には、絶対的な主従関係が存在する。それは本人の主人に対する好悪にまったく関わりなく遵守されるが、それを義務と考えることにどこか違和感があった。


 まあ、今はそんなことはよろしい。目の前の事態をどう収拾させるかに意識を戻して、スケルは奇妙なことに気づく。


 リザードマン達の視線が彼女の手元に注目していた。


 右手の椅子を掲げてみせると、全員の視線があがる。

 右手の椅子を下げれば、全員の顎も下を向いた。


 右、左、というフェイントに、ばばっと忙しく左右に顔が振られる眼差しにあるのは決して恐怖一色ではなく。むしろ猫が目の前の玩具につい注視してしまう表情に似て、ははあとスケルは考える。


「通訳をお願いします」

「いいよー」


 こほん、と咳をついて、


「えー。熱き血潮を漲らせ、その持っていき場所に困っていらっしゃる皆さん。ちょいと私からご提案させていただきたく――」


 演説を始める。


「日頃、掘削作業に勤しんでさぞお疲れのことと存じます。労働は尊いですが、それだけに終わる人生は空しいもの。今、皆さんに必要なものがなんなのか、教えてしんぜましょう」


 ごにょごにょとノーミデスが通訳を終えるのを待ってから、きっぱりと。


「それは、――趣味ですっ」


 ?と強面に似合わない愛嬌さでリザードマン達が一斉に首を傾げた。

 重々しく頷いたスケルがかっと目を見開いて告げる。


「日々のストレスは運動で昇華し、趣味にて発散すべし! あっしはここに、椅子真拳スラ子道場の開設を宣言します!」


 リザードマン達が、反対方向へ首を傾げた。


 ◇


「それで、こうなったわけか」

「こうなっちゃいましたねぇ」


 目の前に広がる光景に呆れ交じりの視線を向ける水色の美女。長不在の魚人族を主導するエリアルへ、頬をかきながらスケルは答えた。


 二人の前では、大勢のリザードマン達が床に座り込んでそれぞれの作業に熱中している。

 彼らが手にしているのは手ごろなサイズの木片で、それを削り、揃えて互いの出来を見せ合いして子どものようにはしゃぎあっていた。


「とりあえず、他に熱中できるものがあれば気が紛れるんじゃないかってだけの思いつきだったんですが。まさか椅子作りでここまで盛況するとは予想外でした」

「ここには木がないから、弄くるのに興味深い素材なんだろうが……しかし、よくあの量を持ち運んだな。大変だったんじゃないか」

「そりゃもう、全力で褒めてほしいっすよ」


 大勢のリザードマンの全員に行き渡るように一日中、地上から木材を運び込んでいたスケルは疲労困憊だった。


「まあ、特に若い方々が木材工作を気に入っていただけたようでなによりです。潜在的な問題は全く解決してませんが」

「先送り。とはいえ急激な解決が望めるものでないのなら、それが最善なのかもしれないな。私の立場から何か言えることでもないが」

「マーメイドさん方はいかがです。なにか問題なんかあったりは」

「いや。そちらから提供してもらえた――布生地か。あれを全員で弄くりまわしているよ。水中にもああいったものはないから」

「水の中では必要ありませんからねぇ」


 艶やかな裸身に肩かけを巻いた格好の相手を見ながらスケルは頷く。水中での着衣は保温にもならず、かえって重さや抵抗が増すだけになってしまう。


「以前のお住まいでは、陸にあがったりされなかったんで?」

「そうだな。あまり深い海でもなかったが、わざわざ浜辺まで上がろうとはしなかった。近くに人間達の集落もあったし、陸地活動は得意じゃないからな」

「では、他との交流も特には」

「ああ。基本的に、水の恵みがあればそれだけで我々は事足りる」

「自給自足ってやつですね」


 他との関わりを持たないということは、多種多様な魔物達のなかでは珍しいことではなかった。

 精霊とマナに満ちた世界に在る生き物は姿形から嗜好に至るまであまりに幅が広すぎるし、その全てが平和的な交流を求めているわけでもない。何かしらのとっかかりがなければ互いを認め合うことさえ難しい。


「水中には精霊に言葉を授かった種も少ない。属性が水に限られるから、在り方自体が偏っているしな。だからこそ我々も平和にやっていけていたというのもあるが……」


 相手の表情に、何かを思い出して影が差したことにスケルは気づいた。

 魚人族は元の住処を追われてこの地下洞窟にやってきた。マーメイド達に害したのは何者かという興味はあったが、それを訊ねる雰囲気でもなかったので微妙に話題を変える。


「言語は大事ですねぇ。互いにやりとりするにゃ、それが共通しているってのがてっとりばやいですし」


 一般的に精霊言語と呼ばれる言葉は、その名のとおり精霊達が用いているものが広く普及したものである。エルフやそれに習った人間族、他にもそれを用いる種族は多いが、地上と水中では必要とされる身体機能が異なるため、この場合は地上で生きる者と似通った言語を持った魚人族のほうがむしろ珍しい例だった。


「ところで、彼らは使い方をわかっていないようだぞ。あれでいいのか?」


 気遣いを察したエリアルが表情に笑みを戻した。視線の先では、スケルが見本にとリザードマン達の中央に置いてきた彼女の椅子があり、それが手にとられて振ったり回されたりしていた。


「ご主人のせいっす。はじめて会ったとき、ほとんど武器みたいにぶん回してたのがよほど衝撃的だったんでしょう」

「あまり有用な形状とは思えないが……」


 片手では扱えないし、刃物ではないから切れもしない。当たり前のことだが、竜の加護を得て無類の硬さを誇るからこそ尋常でない使い方ができるというだけで、その形だけ模したところで使い勝手が変わるはずがなかった。


「象徴みたいになってるのかと。一応、座って使うものだって説明はしてあるんですが――ぶっちゃけてしまえば、さっきの騒動が起きたときにあの椅子を見せればストロフライの姉御のことを思い出してもらえるんじゃないかって打算もあったんで。まあ、それが変な方向にいっちゃいましたが」

「いいのか?」

「どうでしょうねぇ」


 エリアルが苦笑いを浮かべる。


「正直だな」

「うちのご主人も、積極的な介入なんざ考えてないでしょう。今回の騒動に関しても、相手の文化慣習をどうこうしたくないって意味でも」

「……変わった人間ではあると思うが」


 微妙な表現で、エリアルはスケルの言葉に同意した。


「黄金竜から管理を任されたのなら、もう少し我々に対しても強圧的な態度をとっていいはずだ。前の住処にいた頃、漁師やそれ以外の人間と何度か接したことはあるが、ああいうタイプは珍しいんじゃないか?」

「ヘタレでビビリっすからねー」


 スケルは自分の主人をあっさりと断じてみせた。


「人の上に立ったことなんざありませんし、そもそも誰かと交流を持つのが苦手ですから。最近はちょっと慣れてきてますが、根っこのところは早々変わりはしませんよ」

「はっきり言うんだな。ああ、特に付き合いが長いんだったな」

「そうですね。ほんのちょっと前まではあっしとご主人の二人っきりでした」

「これは個人的な印象だから、気に触ったのなら謝るが……」


 前置きをしてから、陸にあがっても水気の失われることのない顔を傾げて人魚の女性が言う。


「そちらの関係も随分と変わっているんじゃないか? 私が被創造物の相手と話したことがないから、そう思えるだけかもしれない」

「ご主人のこと、好き勝手に言ってますからね」


 スケルはからからと笑った。


「創造者と被創造物ってのは、別に好き嫌いじゃないんですよ。エリアルさん、生きるために必要な空気や水をいちいち好きになったり嫌いになったりしますかい?」

「……しないな。あることが自然なのだから。もちろん、それで感謝を忘れるわけではないが」

「そういうことっす」


 にこりと微笑む。


「被創造物が存在してるのは、主との間に魔力の繋がりがあるからです。それがなくなれば存在そのものが失せるのに、裏切ったりどうこうするわけありません。自殺したいんならともかく」

「なるほど」


 納得するように頷いてから、エリアルもちらりと笑う。


「だが、私が言ったのはそれとは少し違うかもな」

「と言いますと?」

「創造した、されたではなくて、もっと一般的な関係性に思えたんだ。それこそ古い友人か、長らく連れ添ってきた夫婦のような」

「夫婦?」


 睫毛を瞬かせ、スケルは大げさに笑った。


「いやいや、それは流石に。スラ姐やカーラさん達に怒られちゃいますでしょう!」

「私が口にしたのは彼女達の気持ちではないぞ?」


 ちょっとした会話の罠にはまり、渋い表情になる。落ち着いた容貌にからかうような笑みを浮かべる相手を見て、ぽりぽりと頭をかいた。


「……エリアルさんもそういう話されるんすね。ちょっとばかし意外でした」

「日々、姦しい連中の話を聞いているからな」


 少し疲れた様子で息を吐く相手の苦労を偲んでスケルもにやりとする。


「女性社会っすねぇ。そういや、群れには男の方がほとんどいらっしゃらないんですよね。それはこれからどうされるんで?」

「難しいところだな。戦いから生き延びた男達がいるかもしれないし、湖から繋がる外洋には他の同族だっているのだろうが。今すぐに大勢を呼び込んでしまったりすれば、それがまた問題の種になりかねない」

「あぁ、なるほど」


 色々と内部でごたごたしているリザードマン達が敏感に反応してしまう恐れはあった。


「群れの将来を考えれば放置しておけることでもないが、しばらくは状況を落ち着かせることに気をつけたいな。身籠っている者が何人かいるから、まずはその子達が無事に産まれてくれれば希望にもなる」

「生まれたお子さんが、次代の長さんになられるんでしたっけ」

「精霊の祝福があれば。まあ、そればかりは……」


 何かを言いかけて、エリアルは小さくかぶりを振った。


「なにか?」

「いや。――スラ子。地下の湖は彼女の管理にある。長がどうなるかも彼女次第だろうな」

「スラ姐が。ああ、地上のだけじゃなく、こっちもでしたか」

「……彼女は、精霊ではないのだろう? だが精霊としての力がある。不思議な存在だな」

「まあなんといいますか、かなりはっちゃけた存在ではありますね。一旦壊されたあっしを、作りなおしてくれたのもスラ姐です」

「壊された?」


 眉を持ち上げるエリアルに、スケルが今の自分がこうなった事情をかいつまんで説明すると、エリアルはふと深刻な表情で考えこんで、


「率直な疑問だが、いいか」

「はいな?」

「スケル。今のお前にとっての創造主は今、彼と彼女のどちらなんだ?」

「そりゃあ――」


 答えに詰まりかけたスケルが答える前にリザードマンの長が現れ、話はそのまま流れた。


 ノーミデスも含めた四人で現状を確認する。

 木材という素材は若い年代のリザードマン達にとってかなり興味をひいたらしく、現状への不満を漏らしていたのがすっかり鳴りを潜めているということだった。


 資源に乏しい地下で生き物の骨を細工したりすることを好んでいたらしいから、元々そうした嗜好が強いのだろう。可能ならまた木材を仕入れて欲しいという長の要望に、スケルは前向きに善処しますと答えを濁した。

 木は近くの森に生えているとはいえ、有限な資材でもある。加工された木材を仕入れるのにも費用はかかる。


 あるいは、地上の豊富な資源の元にリザードマン族そのものに出向いてもらえばよいという考えも浮かびはしたが、さすがにそこまで話を一人で進めるわけにはいかないから、今は暴動の気配が薄れただけでよしとするべきだった。


「ですが、長さんはよろしいので? 勝手をして申し訳ありませんでしたが、木材って玩具を得た若い方々でこれからどういう動きがでるか、不透明かと思いますが」


 スケルに問いかけられ、巨躯のリザードマンは静かな声音で答えた。それをノーミデスが通訳する。


「変化は、生きている以上避けられるものではなーい。自身と周囲を傷つけ、後悔するものでない限りぃ、我々はそれを許容するつもりだぁ。長ちゃん、わかってるぅ~」

「なるほど。そういうことでしたら、こちらからはなにもありません」


 スケルは納得して頷いた。


 話し合いを終え、ノーミデスに地上まで送られながら、スケルは先ほどのエリアルの言葉を思い出していた。


 被創造物にとっての創造主。

 骨から作られ、それを壊され、改めて肉を得た。その事実に基づく素朴な疑問に初めて思い至って、スケルはふと薄ら寒い気分をおぼえていた。


 ――いったい自分は誰の創造物なのか。



 脳裏には、不定形の笑みが浮かんでいた。



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