02
「本当にそれは、困った。貴方の途方もない気持ち、私なんかが想像出来る範囲を越えてる。碧、私変なこと言ってるかもだけど、今まですごく辛かったよね。私で良かったら何でも手伝うよ」
彼の一番華やかな時代であっただろう20代~後半を、あわや人形にされてそのまま何百年も生き続けなければいけなかったのだ。酷い話なんて言うものじゃない。私だったら絶望のぞん底にいる。
想像したら涙が出てきた。
碧は、どれだけ辛かったんだろう。寂しかったんだろう。
「あ、あの。葉月さん…」
「ああ、ごめん。お前が泣いても仕方ないだろって話だよね」
「そんな、違いますっ!僕は…僕は嬉しいです」
椅子がフローリングを勢い良く擦る音がして、向かいに座っていた碧がこちらに身を乗り出してきたと思うと目の端に温かいものが触れた。
それは涙を拭う、碧のごつごつした指だった。
「…葉月さん。僕のせいですね。ごめんなさい」
心底申し訳なさそうに、眉をハの字に下げて謝る碧。
待って待って、何で碧が謝るの?私が勝手に泣いちゃっただけだというのに。どこまで純粋なんだ。
「違うよ、ただ勝手に出てくるから…」
「貴女に涙を流してもらえるのは、僕は嬉しいです。でも僕のせいで貴方の笑顔が絶えるのは…嫌、なんです」
ちゅ、と小さく音を立てて、私の目尻に口付けた。
「!!!!!??」
がたがたがたーーーん!
夜中だというのに、盛大に椅子から転げ落ちてしまった。これは明日確実に下の階の人から苦情が来るな、間違いない。
じゃなくて。
今のは…
今のはなに!?
「葉月さん!大丈夫ですか?」
「うはは、だいyぞうbだいいzy」やばいろれつがやられている
「ごめんなさい、僕調子乗りました。二度としませんから、どうか許して下さい…!いや、何か償いを…」
私を椅子から抱き起こしながら、さっきのハの字よりさらに鋭角寄りに眉を下げ涙目で謝る碧。わああ違うの、自分でもこんな少女みたいな反応してしまった事にかなりびっくりしててそしてすごく超絶今恥ずかしいの!
「ゆ、許すも何も怒ってないよ、ちょっとびっくりしただけで…。それに償いなんてそんな大袈裟な」
「いいえ、無意識とはいえあろうことか恩人に不埒な行いを働いた罪は重い。こうして真夜中に未婚の女性と時を過ごしているという事もそもそも問題であるというのに僕は貴女の好意に甘えている立場です。どうか僕に罪を償わせて下さい」
貴族か騎士かどっちか分からなかったんだけど、これではっきりした。やっぱり碧は騎士だ。律儀な所と、今の私の足元に跪いている仕草たるは騎士あるいはそれっぽい職業だったからなんだろう。とかぼんやり考えていたんだけどそれどころじゃない。
「えーっと、なんか大変な事になってしまったけど。ねえ、碧。頭上げて」
「葉月さん…」
「なら、約束して。私と一緒に貴方が元の人間に戻る方法を探すこと」
「な、それは罰ではありません。それでは褒美です…」
「いいえ。これは罰です。私、自慢じゃないけど推理とか探し物とか大の苦手だから。私なんかよりもっとそういうの詳しい人に任せられるかもなのに、私と一緒にいなきゃいけないんだよ、何の拷問ってレベルだよ。さあ、呑む?呑まない?」
私は碧に手を差し出した。
同時に、なんか私ってズルいなって思った。
碧の事を思うと、今私が言ったようにもっと詳しくて良い人の元に行った方が近道だ。それを分かってて、私のワガママで碧を手元に置いておこうとしてるのだ。言い過ぎではなくこれは碧にとって不当な“罰”に他ならないだろう。
わかってるけど、でも。
「…だから、それが褒美だと言っているんです」
「え」
立ち上がった碧は、おもむろに私をその厚い胸板の中に抱き寄せた。
「すみません。また罪を重ねてしまいました。…罰を頂けますか?」
耳元に、熱い息がかかる。
さっきまでのハの字眉・涙目・犬耳(幻覚)はどこへやら、全然違った雰囲気に翻弄される。若干声も低い気がする。ついでに腕の力も強い。
「う、えと、きょ、今日はもう寝る…」
碧の尻尾が一気に項垂れた気がしたが(幻覚)、これは仕方がない。びっくりしたんだもの、仕方ない。だって何故か身の危険を感じたから。。
やっぱり続き書きたくて始めちゃいました。1話完結の方は、話的にミステリーな感じで終わらせたかったというのがありああいった終わり方になっていますが、こっちではがっつり続きます!いやあのがっつりではないですけどね、ゆるーくですけどね!そんな感じでゆるーく見守って頂ければ嬉しいです!趣味と妄想全開になると思われます。