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二日目(火) ~呪詛~

 「ちっ…おんなァ…またかァ…」

 「貴様のような奴と何度も会うのは御免だ。今日で終わりにしてやる。」


 とりあえず売り言葉に買い言葉を返し、通行人の意識を横目で確認する。四〇代程度の会社員だろうか。意識は完全に無いようだ。眼球運動と口の開き具合から、断定する。この技術は、シンから教わったもので、毎度、と言うほどではないが割合頻繁に使うため、かなり上達した技術だ。


 「まァ…そこの野郎はもうつまんねェしなァ……」

 「それについては同感だ。共感は、しないがな。」


 そのまま目を戻し、相手の様子をうかがい、全力の戦闘態勢にギアを入替え、


 ―――ッ!!!


 激しい頭痛と吐き気に襲われ、目を見開いた。


 (な、なんだこの男…!!!)


 それは、彼女の『異能』による効果、もっと詳しく言えば、自爆。彼女の異能、『読心』の。

 彼女の『読心』は、文字通り人の心を読む、という能力。相対した敵の行動計画思考に始め、反射的思考、感覚思考、場合によっては記憶さえも読み取ることができる。

 戦闘において思考を生む距離を置きさえすれば、ありとあらゆる行動を読むことができる、無敵の能力。その距離は、最初の一撃で十分稼いであることを確認している。


 誤算だったのは。


 (殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル)


 (く、くそっ!)


 傾聴すれば、そのワードの影に隠れるように思考された、行動の意思を聞きとれただろう。だが、大小高低様々な音色の不協和音でもたらされる呪詛の中にあるわずかなフレーズを聞きとれる人間が、世の中に何人いるだろう?


 (う、あ、あ…)


 柊蓮は、この能力と長年付き合って来ていたが、これほどまでの殺意を感じたことが無かった。そしてそれに想起されるように、幼少期の悪夢が蘇る。


 ―――四方八方から聞こえる、自分を疎み、僻み、妬み、呪う声。


 「あ、あああああああっ………!!!うあああッッ!!!!!!」


 事務所に入り、シンに教えを請い、実戦をこなしてきたとはいえ、中身は一人の少女に過ぎない柊に耐えられたのは、一分にも満たなかった。そんな自分を恥じることさえできないほど、狼狽していた。


 殺人鬼が最初の行動を起こす前に、柊は背中を向け、助けるべき人と、捕えるべき相手を放り出して、逃げ出してしまっていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「若大しょー。そんなにきょろきょろすんなよー。かえって怪しまれっぜー。」

 「てか、リョウさんだけで十二分に怪しいっすよ。」


 いや、あやしさレベルで言えば、俺の一〇倍と言わないレベルで心の友の方が怪しい。だってさあ、中学生と言われても全く違和感がないような、というか小学生と言われても誤魔化せそうな人間が、ものすごい髪の染め方して、タバコ吹かしてんだから。もしかしたら傍から見たら俺は「なっていないガキの周りでオロオロする兄」みたいな感じに見えるんだろうか。


 「さて、と…そろそろ時間だ。」

 「あ…ポイ捨て…。」

 「あ、わりー。拾っといてくれ。そろそろ…始めるからよ。」


 そういって、唇を右端だけ釣り上げ、目を凝らしたような、しかめたような、そんな表情を作りだす。…文章にすればそれだけなのだが、明らかに、それだけでは無かった。

 空気が変わった。ありていに言えばそんな感じか?まるで空気が電気を持ったみたいに、某ビリビリ中学生と向き合ったみたいなプレッシャー。


 「…あ、あの…」

 「わり、ちょっと今は楽しくおしゃべりするヨユーはねー。車全部見てっから。」


 そういう心の友。目は、確かにすごい勢いで眼球が動き回り、顔は道路に向かったまま一向にぶれない。…コイツ、もしかしたらマジで全部車見てんのか?確かに人を傷付けるものが見分けられるんなら、車みてりゃー事故は防げるだろーが…。きつくね?


 「んー…。ねーな…。」

 「ん?ちょ、オイあれ!!!」


 響き渡るクラクション。明らかに違反のスピード。危なげな運転…っておいおいおいいぃ!!!どう考えても突っ込むのあれだろ!?なんでこいつそんな悠長に構えてんだよ!おまえなんか分かんないけど超能力者じゃないのかよ!?


 「とりあえずあれだろ行くぞオイ!」

 「おい、ちょっと待てあれじゃない、別の……!?ッ!」


 俺からわずかに、いや結構遅れて、チビガキ (心の中で格下げ)が走り出す。かなりのスピードだが、俺の方が早い。っておい、俺の方が早くねーよ、あっという間に並ばれたよ、抜かれるよー……。


 「あの車の後ろだバカ!バーさん抑えてろ!!!」

 「えっ、あ、おう!?」


 は?後ろ?と思った瞬間、気がついた。暴走車は一台じゃなかった。後ろの車の影から、ものすごいスピードで出てきた車が一台。おいおい、俺の早とちりかよ!ってか、バーさんってのは…アレか!?


 「おk、まかせろっ!」

 「うっし!全開で行くぜ!!!」


 言われたことするのは得意だよ、ヘタレって!万引きは無いけどピンポンダッシュならさせられたことあるしなあ!俺の早とちり車が通った直後、一体の人形がその気流に飲み込まれ、道路に落ちる。それを取りにあわてて飛び出す少女。追いかけようとする老婆…とここまで〇・三秒。んー思考の世界は自由でいいねー。


 「バーさん、ちょっと動かないで!」

 「ま、孫がっ、あ、あああっ!!!」

 「まかせなバーさん!!!」


 バーさんのところで急停止、車道までは一五センチ。ヘタレの俺では、それで限界。ガードレール有るけどそこに突っ込むのは出来なかった。無理無理。

 だが、隣のチビガキはその距離を全くビビらず、というか勢いを緩めるどころかさらに加速して、そのままガードレールを低空飛行 (この場合は跳躍、かな?)で飛び越える。そのまま少女に突っ込む。え?少女を助けるヒーロー役はいいのか、って?いや自動車だよ?無理無理死ぬ死ぬ無理無理。心情的には、超絶ヒーローのカッコよさ<<<越えられない壁<<<身の安全、って感じだよ。これは普通だよな?


 「う、ううう!」

 「じっとしてろよお嬢ちゃん!!!」

 「ふ、ふぁい!」

 「あ、ら、よっと!!!」


 右手で少女を抱え、左手を地面に伸ばして人形を拾う。そしてそのまま体を半回転、足を曲げてタメを作り…ってオイオイ!!!そのまま走れば逃げられるだろ!!!


 「どおりゃあああ!!!」


 メゴキャアッ!


 まあ文字にすればそんな感じの音が響いた。何の音か、と言えば、それは見事な回し蹴りが炸裂した音。車のバンパーの真正面、ちょうどナンバープレートのあたりを盛大に凹ませた。ネジが何個か吹っ飛ぶ。ごめんね道交法。


 「ちいッ!!!」

 「ふ、ふあ!?」

 「え、えええ!!!?」


 蹴り足のめり込んだ個所を足場に、一呼吸ためた後、その力を開放するチビガキ…ってかおい、お前ホントに人間か?やばいよ何メートル跳んでんだよ、そのままこっちまで帰ってきてんじゃねーよ。こっちくんな。


 「くそっ!若大将、ナンバーだ!!!」

 「え?な、何?携帯?」

 「ああ、ちがーう!!!」


 なんか良く分からん指示 (基本的にヘタレ、この場合はパシリかな、とかは抽象的な指示に弱いのだ。だから、パシリに言うときは「うまいもん買ってこい」とかじゃなく、ちゃんとした商品名を言おうね。お兄さんとの約束だ。)にとりあえずフリーズして、凹んだ車 (多分心も凹んだだろう)を見送る。


 …。

 ……ん?


 なんで普通に見送ってんだ俺。いや何であれだけの事されてそのまま車が走り去ってんだ?普通止まるだろ。てか完全にひき逃げじゃんこれ。被害は明らかにあっちが多そうだけど。


 「…わーかだいしょー、車のナンバーだよー。そしたら身元探れるかも知んないっしょー。」

 「あー、なるほど。把握。」

 「もー。プンプン!」


 横に着地して (無傷っぽい)、少女をおろしてやりながら (やっぱり無傷っぽい)、チビガキがおどける。やべ、ちょっと似合ってる。女じゃなくても有りなんだなこのネタ。いや、俺はしないけど。と

いうか、お前は頑丈だな?未来少年なのかその体は。


 「まーそれは蹴りでナンバープレートを落とせなかった俺にも責任はあるしなー。まー、おあいこってことかなー。」

 「いやいやあれはアクロバットの一環だったんじゃないんかーい」

 「…そのエア乾杯はウケないぜ若大将……。」


 「あ、あの…」


 突然割り込む声に振り向く俺ら。というか、完全に無視してたね、ごめんねバーさん。


 「孫を、ありがとうございました…。なんとお礼を言っていいか…。」

 「ああ、お礼ならいつか、困ってる人でも助けてくださいなー。ウチのダンナがそう言えって言ってるんでねー。」

 「あ、ありがとうございます…。」


 おお、チビガキ、なんかかっこいいぞ。マンガのヒーローみてーだよ。てか、その身体スペックがあるならまあヒーローであって然るべきだな。もはや義務だな。


 「んじゃ、いくぜ若大将。んじゃ、気をつけて帰れよなー!」

 「あ、ああ、じゃ、ども…。」


 さわやかに挨拶して歩き出すチビガキと、どう見てもおどおどで何度も頭下げてそれを追いかける俺。絵的にすごいかっこわりい。だってチビガキ見た目中学生だもん。俺の方が年上に見える分だけ俺の情けなさがアップしてるよ。


 とかまあ、そんなことを考えながら、わりかしみじめな気持で初仕事が終わった。


 …ただ。


 「ありがとう、お兄ちゃん達!!!」


 最後の少女に掛けられた声だけは、ちょっと心に残った。俺はおまけで、その9割はチビガキだろう。もっと多いかもしれない。てか「達」ってついてたことにちょっと驚いたくらいだし。

 でも、この仕事は、いい仕事なのかもしれない。って。ちょっと思った。


 「うーむ、まだ俺のストライクゾーンでは無いなー。」


 …こっちの一言を、黙って聞こえなかった事にしておけば、の話だが。


初作品です。

稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。


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