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二日目(火) ~姓無~

盆で更新が遅れてしまいました。そのうえ若干量少なめで申し訳ありません。これからは以前同様のペースで更新できると思います。

お気に入り登録が増えていて、嬉しいです。ありがとうございます!

 「あー、あー、あー…。」

 「待っていたぞ、ヘタレ。」

 「おk、把握した…。」

 「何を言っているんだ?とりあえず行くぞ。」

 「い、いえ、ちゃんと自分で歩くんで……。」


 放課後、校門で待っていたのは、ショートカットと、その中に翻る一筋の長い髪の良く似合う、凛々しい眼をした美女…というとすっげーうらやましい状況な気がするが、実際には怪力女、もとい、柊、とかいってた、例の女が仁王立ちしていた。


 ―――まあ、早く来ることになるとは思いますが。


 ちなみに、一目見た瞬間の心の声としては、「あー、あー、あー、把握した」だった。まあ考えてる事がそのまま口を突いて出た、ってヤツだ。そのくらいは勘弁してくれ。ヘタレでも人間なんだ。人間だもの。としや。


 「それにしても楸、って言ったっけ?あのイケメンメガネ。何者なのあの人?人のケータイ完全にハッキングしてくれちゃってんだけど。」

 「師父を呼び捨てとはヘタレはなかなかに太いな。まあ、師父については、私も知らないことが多いな。分かるのは、強い事と、賢い事。特に電子機器についてはものすごいぞ。」


 …師父って。あんた何時代の人間やねん。ツッコミの時だけ関西弁の人間ってなんか関西人に目の敵にされるよね。なんでだろうね。まあ、それでもしちゃうんだけどさ。やめられない、とまらない。


 「まあ、時代というか…私の年は…と、そんなことを話している場合じゃないのではないか?あれ。」

 「はえ?」


 指差された方向を反射的に振り返って見る。剋目する。…あーあー、毎度お馴染、不良の群れ、ってか軍団じゃん。すげえよ、この距離からでも目え血走ってんの分かるよ。特に先陣を切る彼、ああリュウ君だったね、足はえーよ。どうすんだよ。俺逃げ足速いと自負してるけど彼からは逃げ切れねーよ。


 「まあ、それを見越して私が派遣されたわけだが…」

 「ふおえ!?っあ、首、あ、あ、アッー!!!」


 突如所謂首根っこをひっつかまれて、そのまま (俺基準で)全力で引っ張られる。浮かぶ俺。I can fly。なんかデジャブ。


 「てめえ、昼休みの事忘れたわけじゃねえだろうがあ!!!」

 「こ、これは不可抗力で!」


 というか、見て分かれ!!!どうみたって拉致現場じゃねえか!昼休みどうのこうのの問題じゃねえよ!それからルリ女史!こいつらなんとかしてくれよ!?いい人なんだろ、とても!


 「ルリ女史、に、はっ、メールでッ!」

 「んなことわあってらあ!!!」


 わかってないよ、それ。全然分かってないよ。

 というか、おい、すげえよ。不良がみるみる遠ざかっていくよ、逆向きに走ってるみたいだよ。どんだけ足早いんだよこの怪力女。


 「さっきから拉致現場だの怪力女だの…。もう少しまともなことを考えられんのか。これから師父から色々と説明があるだろうに…。」

 「えっ、なっ、ちょ、首、タイが入った、死ぬ死ぬっ!!!」


 なんかいろいろと死亡フラグやらなんやらあった気がするが、人間の脳っつーのは、考えるのには酸素が必要らしいよ。その酸素を、絞殺という手段で断たれた俺は、いろいろ考えるべき事を残したまま、思考を放棄。というか、…これ…って…あー…


 最後の瞬間に思い浮かんだのは、『ブラックアウト』という単語だった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 気がついたとき、俺はベットの上だった。知らない天井だ…と思ったら、いきなり人間の顔がドアップで飛び込んできた。


 「きがついた…?だいじょうぶ…?」

 「…ハイ。」


 そのきれい、というか、かわいすぎる顔は多分、昨日の美幼女、パルカとかいう子だろう。とりあえず簡潔に挨拶をする。ん?返事は挨拶とは違うって?そうなの?


 「おにいちゃん…よんでくる……。」

 「あ、ハイ。」


 そのままベッドから降りて、トコトコという擬音語が似合いそうな足取りで部屋の外に歩き去る。腰まであるゆれる髪は緩やかに波打ち、フリルたっぷりのドレスはホントに人形のようだった。ちなみに思い浮かんだのは、呪いの人形だった。例のあの髪が伸びるヤツね。無表情なとことか似てね?言ったら怒りそうだが。


 とか考えてると、直ぐに別の人間が入ってくる。うん、あいつだね、所謂犯人だね。


 「楸…さん…」

 「こんにちは、木林君。思った通り早い時間に来てくれて助かりますよ。まあ、失神して泡吹いているとは考えていませんでしたが。」


 いやてめーと怪力女のせいだろ、JK。まあ口には出さないけどさ。


 「え…と、今h」

 「今の時間は、夕方6時。今日は二つ仕事がありまして、一つは柊さん、もう一つは君と榎田君に行ってもらうつもりです。事件の起こる時間は8時前なので、今から二人でのんびり行ってもらって結構です。ここの事は、彼から色々聞くといいですよ。きっと気が合うと思いますよ。」


 いやいや、確かに聞こうとしていた事全部答えられてるけどさ。そういうのあんまり人に好かれないらしいよ。聞いた話だけどさ。


 「えー…っと、」

 「ちなみに君のバイトの最終目標だけは、私から説明しておきましょう。私たちは今、危機的状況にいるんです。詳細に言えば、選択を迫られている。一人の少女の命か、この町のすべてか。」

 「は、はいぃ?」

 「私は、そのどちらも選べない。いや、正確には選べますが、選びたくない。そんな時、君に出会った。選択肢ごと無にできる君に。」

 「あ、あの…、」

 「君にはこの一週間、正確には5日で、『覚悟を決め』てもらいます。ここでのバイトはそのためです。」

 「か、覚悟って…、」

 「断っておきますが、私は所謂シスコンです。妹のためなら、なんでもする覚悟があります。君が覚悟を決めるためなら、なんでもする覚悟が、私にはあります。」

 「い、いや…、」

 「私からは、以上ですね。なにか質問があれば、榎田君に聞いてください。えのきだくーん!」


 外から「あいよーっ」という幼いが威勢のいい声が聞こえる。なんていうか、外堀から完全に埋められた感じ。ん?ちょっと違うか?袋のねずみ?まな板の上の鯉?そっちの方が近いか?絶対絶命度が上がってる気がしないでもないんだが。

 妹の笑顔 (ここ数年見た記憶がないが)、ルリ女史のとろけた表情、不良のにらみ顔がフラッシュバックし、頭の中で「お前は完全に包囲されているっ!」の声が聞こえる。

 …すいません、投了です。


 「楸のダンナ、なんか俺っちに用?もう仕事の説明は聞いたけど~。」

 「榎田君、今日の仕事ですが、彼、木林君と一緒に行ってください。私たちの仕事の現場を見せるのが、一番いい理解になります。あと、彼の質問に答えてあげてください。」

 「まあ俺っちは別にいいけど…なんか不味いこととか口走っちまわねえかな?」

 「大丈夫です。君にはそんな不味い情報なんて教えていません。君は考えたことがそのまま口にでる子ですからねえ。」

 「ははっ。そりゃちがいねえ。おk、ひきうけたよ~。」

 「あ、あの、僕の意思は…?」

 「関係ありません。まあ、君も榎田君とは気が合うと思いますよ。彼、飢えてますから。」


 最後の抵抗をバッサリと切り捨てられ、そのまますんげえ髪の色した少年に売られていく俺。ドナドナどーなー…。てか、飢えてるってなんだよ。ほんとにドナドナじゃねえだろうな?


 「んじゃ、まあそろそろ出発だし、行こうぜ、若大将!」

 「は、はあ…。はあ…。」


 変な呼び名で呼ばれ (この事務所は時代錯誤な人が多いのだろうか?)、背中をばしばしと叩かれ (殴られ慣れている俺でも結構痛い)、そのまま連行。ちなみに上のセリフは一回目が同意 (イヤイヤ)、二回目が溜息だ。もう今日何回溜息したか。人生でもトップ3、いやこの場合はワーストかな、にはいるぞオイ。


 とか何とか考えている間に、外に連れ出され、バス停まで歩かされ、そのまま乗り込む。なんかバス代おごってもらってんだけどいいのかな。というかコイツ、当たり前みたいにこども料金ではいったぞオイ。顔立ちと背丈はいけるかもだが、その頭は無理なんじゃねえかコラ。

 だが、バスの運転手は何も言わず (あんまり堂々としているからかもしれない)、そのまま最後尾のシートに二人で座る。


 …。

 ……。

 ………。

 よし、とりあえずいろいろ聞いてみるか。あのメンツじゃあ、多分、いや俺の鍛え上げられた勘 (何で鍛えられたって?愚問だね。)が間違いないと言っている、こいつが一番話が通じる!

 いくぞ、俺!


 ちなみに、、結論から言えば、この勘は正解だった。

 もっとも。

 後にして思えば、ちょっと正解過ぎたかな、と思うが。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「腹部に金属殴打一回…顔は無傷…拳での殴打が二回…。」


 俊也達が仕事に出かけた後、シンは一人、地下室の機械と向き合い、キーボードを叩いていた。行っているのは、ハッキング。常人にできる速度を大きく上回るタイプスピードと進行率で、必要情報を探索する。


 「つまり、昨日の帰宅後と今日の昼は、運命通り…。」


 だが、それでも彼の全力には程遠い。思考の大部分が、別の事に集中しているのだ。流石に『最善』の能力を用いて迄はいないが、思わず思考が口から零れ出る程に。


 「彼の能力は、運命を変えられる時と変えられないときがある…。その条件として考えられるのは…。」


 ハッキングしている相手は、大物だ。今回の最終的な戦場となる場所に、本拠地を構える者。彼の最愛の妹、パルカの死地となる『運命』の場所に陣取る者。


 「覚悟…。」


 表の世界では、業界では世界でも有数の規模を誇る大企業。この町から程近い土地に本社と設備を持ち、大勢の社員を抱える大御所。古風にいえば、城、とも言えるかも知れない。

 そして、裏の世界では、最新鋭の兵器生産工場で、最悪の兵器の製造、保管、輸出を担う、軍事工場としての側面も持っている。


 そんな相手でさえ、彼にかかれば片手間の作業でハッキングできてしまう。柊が自信を持って「電子機器についてはものすごい」と語るのも頷ける。


 「では今後は…ん?」


 殆ど無意識に行っていた探索の手が、不意に止まる。同時に、独り言も止まる。『運命を捻じ曲げる』能力の思考を一旦打ち切り、100%全力の集中力を画面に向ける。


 ―――足跡?


 発見したのは、何者かの足跡。自分では無い。自分ならこんなミスはあり得ないが、この足跡は、自分で無ければ見つけられなかったろう。


 ―――とりあえず逆探知から身元を…


 反射的に足跡の主を検索する。勿論一筋縄ではいかないが、シンの本気にかかれば不可能では無い。小一時間という、シンを相手取ったにしてはよく逃げた、といえる時間の後、


 ―――ッ!!!


 絶句したのは、シンの方だった。それは彼が見つけたかった情報、「相手が用いている実戦担当者は何者か」であった。あった、のだが。


 「『姓無』とは…。」


 『姓無 (せいなし)』。裏の世界では名の知れた、それでいて詳細は不明な点が多い集団。分かっているのは、雇われの傭兵の一種であるということ。少数精鋭の集団であるということ。


 そして。

 ―――紛れもなく『殺人鬼』であるということ。


 「『姓無』が噛んでいる…ハッキング…。」


 なるほど、とシンは一人納得する。自分は会社自体との戦争を考えていたが、どうやら違うらしい。相手は、会社に攻撃を仕掛けている人間。恐らくテロリストの一種だろうそれらは、厄介なことに銃火器、戦車すら軽く凌駕する『姓無』を雇っている。


 「なるほど…。姓無が相手では、私がみすみすパルカちゃんを奪われてしまう可能性も、ゼロではない…。」


 自分の思い描いたシナリオを頭の中で修正しながら、シンは一人ごちる。それに合わせて、今後のスケジュールの調整を図る。


 ―――『姓無』は恐らく、いやほぼ間違いなく『異能者』。

 ―――ならばこちらも『異能者』をぶつけるべき。



 シン自身の『異能』は、戦闘向きではない。確かに相手の戦闘方法や力量から『最善』の戦法を探ることはできるが、それはあくまで、シンに前情報がある場合だ。未知の兵器、ましてや『異能』が相手では、その情報を集めている間に決定的な一打を喰らってしまう可能性が高い。

 その点、残り二人の『異能』は、かなり戦闘向きだ。こと柊に関しては、扱い方さえ間違えなければ無敵と言ってもいいほどの力を発揮する。


 ―――『姓無』がいるとしても、恐らく一人か、多くて二人。


 『姓無』は、互いが殺し合わない様に大人数が集まることは無い、と言われている。殺し始めたら止まらないため、同志討ち危険が高いからだ。


 ―――ならば、策はある。


 急遽浮上した、「戦闘力の向上の必要性」を最優先事項とし、ハッキングを打ち切り、ディスプレイの前から立ち上がる。まだこの事務所にいるはずの柊に、鍛錬を念入りにしておく事を伝えておこう、という、いち早い対応の為である。


 このとき、彼は気付かなかった。

 ひとつ、見落としをしていることに。

 それは『運命を捻じ曲げる』力の考察の所為だったかも知れないし、『姓無』が現れたことによる驚きの所為だったのかもしれない。


 彼が、テロリストの足跡を消し忘れていた事に。


 このほんの些細な見落とし、シン本人も「自分でなければ見つけられない」と考えた程の小さな見落としが、後に大きく事件に絡むのは、少し先の事だった。

初作品です。

稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。


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