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二日目(火) ~予言~

 穏やかな朝、が来るはずもない。何せあの妹と二人暮らしなのだ。マンガのお節介をそのまま現実に引き出したような性格なんだから。


 「にーさん!!!さっさと起きる!!!」

 「おおうっ!!!」


 大声と共に響き渡る、甲高い打撃音。どこまでいってもマンガキャラだなオイ、フライパンにおたまって。ちなみに朝は早いが、俺の部屋は完全防音 (理由は…男なら皆わかるだろ?)なため、これだけ騒いでも近所から苦情が来たことはない。まあ出来すぎた妹がいつもお裾分けとかしてるからかもしれんが。


 「ほらほら、ガーゼと包帯変えますよ。」

 「お、おう、いいよ、腕とか自分でできるs」

 「どうせ時間がかかるだけでロクに出来ないから私がします。大人しくしててください。」


 ……妹よ、蒸し返して申し訳ないが、兄らしく堂々たれ、とか昨日言ってなかったか?こういう細かいところで頑張ってみてるんだよ、一応。頑張ってる、よな?俺。


 結局大人しく為すがままに手当てをされた後、朝食に引っ張り出される。手当ても大した時間かからなかったし、もう寝れんじゃね?と考えていた俺。だが、願いは儚く砕け散るッ、て感じ。妙に豪華な朝食を、テレビを見ながらいただく。


 「んぐんぐ、むまいな。」

 「もうちょっと品位とか語彙とかないんですか。」

 「んー、うまいしいいんじゃね?」

 「……適当ですね。」


 妹の言う通り、適当以外の何物でもない会話をしながら朝食を食べる。ちなみにいつも寝坊ギリギリ (妹がしびれを切らして怒鳴りこむまでのロスが大きい)な為、こんなのんびり会話しながらの食事は珍しい。ヘタレの特殊技能の一つとして、食事の瞬殺は欠かせない (パシらされる前に完食していないと食いっぱぐれてしまう)のだが、その力は朝も大分役立つのだ。


 「今日は、帰りは遅くなるんですか?」

 「んーああ、その予定。ちょっと用事があってな。」

 「…まあいいです。」

 「昨日よりは早いんじゃないかな、多分。」

 「最近物騒ですから、できれば早い方がいいです。」


 ちら、とテレビの方を見ながら妹。


 「…現在…町付近を中心に連続殺人が…被害者は…」

 「………そだな。」


 間違いなく、例のあの殺人鬼だろう。あんとき逃がしちゃったっぽいし。それの責任の一端が俺にある、様な気がしないでもない。あそこで俺が生きてなかったらあの怪力女が冷静にあの殺人鬼は捕まえられたんじゃないか、とか考えてしまうのだ。自分でも考えすぎだろ、とツッコみったくなるが、考えてしまうのだから仕方ない。この辺もヘタレに関係してるんだろうか?よう分からん。


 「…昨晩も…名が……犯人は…複数……組織の関与が…」

 「…気をつけるよ。」


 心配掛けてすまんな、と言わないのは、何故だろう。やっぱりヘタレだろうか?というか、実の妹に何でこんなに気を使うこと考えとるんだ、俺。


 「分かっているならいいんです。」

 「…歪みねぇな。」


 ほんとは「素早ええな」とか言うところでこういうネタに走るのは良くないかな。分からない妹に言っても仕方ないし、からかうのをひそかな楽しみにしているわけでもない。え?マジだよ?


 「では、食べ終わったらさっさと朝の支度をしてきてください。兄さんは殴られて傷だらけで無い前提なら、きちんとすればそれなりの顔に見えるんですから、ちゃんと身だしなみに時間をかけるべきです。」

 「…なんか嫌なフレーズ入れんなよ。」

 「分かってるなら前提を満たしてください。」


 いつもより妙に饒舌な (なんかいいことでもあったのか?)妹に、なんだかんだ言われながら台所を追い出され、そのまま洗面台へ。顔の切り傷が染みるのを堪えつつ (悲鳴とかは上げてないよ?ホントだよ?)、眠気を水で洗い落とす。台所からなんか聞こえた気がしないでもないが、無視を決め込む。

 結果、いつもより10分近く支度は整い、どうせすることも無いし、ということで登校を余儀なくされる。我が妹はもう少し「何もすることの無い時間」の重要さを知るべきだと思う。思うだけで口には出さないけど。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 朝、森音はフライパンとおたまを持って兄の部屋に入る。ちなみにいわゆる不法侵入をしている訳ではなく、もともと兄の部屋は施錠されていない。理由は一度施錠のまま就寝した兄を扉の外から必死に起こそうとした森音が、兄諸共遅刻になった、という前例の為だ。「次に施錠したまま寝たら鍵ごと壊す」と明言した森音の気迫に、俊也が屈した、というのも当然一因である。しかし、「起こしにいかない」という選択肢があったことに、両者は気付いていない。


 ―――せーのっ!!!


 心の中で精一杯の気合を込めて、森音がおたまをフライパンに打ち付ける。響き渡る快音。毎朝こうして起こすのは、森音の数少ない漫画の知識の一つによるもので、兄の興味分野に絡める数少ない機会である。

 森音本人はこれが兄の知っている「マンガ」の文化で、兄はそういうものを好むのだ、と思っている (それに自分が合わせてやる、ということの意味には気付かない)が、俊也は既にそんな段階を超えており、所謂「あんなこと」や「こんなこと」で起こされるようなメディアがお好みなのだが。


 叩き起した後、朝食をとる。兄がすぐに朝食を食べることを望んでいないことなど、森音には一目瞭然だったが、そこは無理強いをする。


 ―――せっかく張り切って作ったんだから、いつも通りの時間に起きてこられてガツガツと食べるなんて勿体ないじゃない!


 心の中で呟きながら、兄の手を引き摺る。体格も体型も平凡だが、高校生ともなればそれなりの重量がある。ふとした時に森音はそれを感じる。昨日の傷の手当てもそうだった。スポーツをしているわけでもないのに、無駄な脂肪がなく、程よくしなやかな筋肉の付いた体。


 ―――もしかしたら、天賦の才とかあったりしてね!


 この発想自体がかなりブラコンのものであることは言うまでもないが、『運命を捻じ曲げる』という『異能』は明らかに天賦の才、と言えるものだろう。最も、森音はそんなこと知る由もないのだが。


 眠たがる (様にしか見えない)兄との朝食、


 「んぐんぐ、むまいな」


 この一言で、森音の思考はショートしてしまった。次に気がついたのは、学校の玄関口で兄と別れた後、靴箱に向かってにやけていたところだった。もちろんその間の行動が特に問題ないことは、しっかり思い出せるのだが、そんな問題ではないのだ。


 ―――たった一言でこんなになるなんて…。


 森音は盛大にため息をつく (ちなみに通りがかった男子生徒が一人、その物憂げな行動に頬を赤らめていた)。こんなことでは兄を立派に成長させられない。もっと気をしっかりもたなければ、と気合を入れなおす森音。


 もっとも、最大の問題は誰がどう考えても完全に彼女がブラコンであり、本人にその自覚がないことも相まって、完全にツンデレ属性を帯びていることだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 昇降口、いつもより早い登校。無造作に自分の靴箱に突っ込む靴と手。何かを押しつぶす感触。×2。


 「ほえぇ?」


 周りも気にせず (早い登校といっても遅刻の20分前。優等生度的に、上には上がいるものだ。ちなみに妹は、上に属する人だ)、素っ頓狂な声を出す俺。だって靴箱に手紙だよ?こんなシチュエーション普通ないだろ。

 …いや、ある。普通ではないが、経験なら。そういえばあの時体育館裏に呼び出されたのは何だっけ?


 …。

 ……。

 ………。


 あー…。思い出さなきゃ良かった…。


 「果たし状だったな、確か…。」


 まだヘタレが定着してなかった頃、女の子とイチャついてた (あの頃はそう思って無かったが、今にして思えば間違いなくイチャついていた)のに腹を立てた不良に呼び出されたんだった。不良さんってなんか古風なこと好きだよね。何でだろうね。今でも仁義とか重んじるのかな?

 ちなみに思い起こせばあの時土下座したへんからヘタレが定着したのかな。人生の分岐点って分かんないもんだね。他人事じゃないけど。


 「……えーっと…。」


 とりあえず封筒の中身を見る。え、その場で?とか言わない。人間命の危機がある爆弾は早めに正体を知っておきたいだろ?俺だけかもしれんけど。



 一通目―――



 拝啓

 2年B組 木林 俊也 様


 昨日の夜は大変お世話になりました。

 あのような事は、今まで生きてきて初体験でした。

 あの夜の事は忘れられないと思います。

 不謹慎かもしれませんが、あんなにドキドキしたのは初めてでした。


 話がそれてしまいましたね。

 そのことで、是非俊也さんにお礼をしたいと思います。

 昼休み、体育館裏に来ていただけないでしょうか?

 時間は何時でも構いません。

 昼休み中待っています。


 2年C組 森羅 瑠璃



 2通目―――


 放課後、体育館裏にこい


 ちなみに、「放課後」の下に2重線で消された「昼休み」の文字がみえる。



 どう見ても死亡フラグです本当にありがとうございました。

 立ったまま遠のく意識の中に、無機質な声が、無駄にはっきりと響いた。


 ―――あしたはきをつけて。なぐられるから。


 …。

 ……。

 ………。


 んなもんこの状況でどうしろってんだよ!!!

初作品です。

稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。


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