七日目(日) ~俊也~
初作品です。
稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。
カララ…ン。
完全な沈黙のなかに響くのは、薄い金属性ドアが床に転がる音。
その他のものたちは、完全に思考が停止していた。
「はぁ、はぁあ……」
叫びきったことで息が切れたのか、それともここまでの全力疾走が堪えたのか、沈黙を破って喘ぐように呼気を洩らす俊也。そのまま崩れるように片膝をつく。
それでも、
「どうなんだ…」
それでも、繰り返す。
「生き、て。いたくないのか…」
声が、返ってくるまで。
「シンは、俺、達は…、生き、て、ほし、いぞ……」
「生きて…」
喘ぐように、いや喘ぎそのものの声で繰り返す。
冷静さを取り戻したのか、マスクの男たちが各々の武器を構え、嘲笑の表情を浮かべる。抑えようともしない下卑た笑い声が、至る所であがる。膝をついて俯く俊也を、嘲笑う。
だが。
俊也は、そんなことは、どうでもよかった。
聞こえたから。
彼の耳に、ちゃんと届いたから。
嘲笑い、罵り、見下しの中でも、ちゃんと届いたから。
「……い。…っいき。」
少女の、声が。
「わた、わた、しっは…」
事務所の、最後の一人が。
「わたしは、いきたい。おにいちゃんの、ぶんまで。いきていきたいぃ…。」
最後の一人が、覚悟を決めた、その小さい、でも力強い、その声が。
ナイフの向こうに見える少女の美しい瞳から止め処なく涙が溢れ出すのと、俯いた俊也が顔を上げ、ニヤリと笑ったのは、ほぼ同時だった。
そして次の瞬間、不用意に近寄ってきたマスクの男を、俊也は握りしめたこぶしで殴り飛ばした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぐぼああぁっ!!!」
きれいに顔面にストレートを決められた男が吹っ飛んでいく。うん、あの飛び方なら一発KOだな。長い間殴られてきた、俺の経験が、教えてくれているっ!
決めたのは、俺。
人を殴るのはそう言えば初めてのような気がするが、いちいち構っちゃいられない。
「てめぇ!」
「動くな、撃つぞ!」
だってさ、前前。
何人か…ってか、半分ぐらい銃持ってんだよ、ヤバイだろ。
でもこの時の俺は、なんか覚醒していた。もしかしたら俺はニュータイプだったのかもしれない (よく考えたらマジでニュータイプのようなもんなんかもしれん)。
「ここで撃つのか?周りは火薬の山だぜ?」
その一言に、銃を持った奴らの手が一瞬止まる。もしかしたら警告なしの発砲をしなかったのは、テロリストのこいつらもそれが分かっていたんだろう。銃を投げ捨て、一気にナイフやらロッドやら…なんだありゃ?よく分かんない武器を構える。
が、まあ、そのくらいなら、俺にだって経験がある。いや、この場合は、免疫、って言うべきか?
ナイフ片手に突っ込んできた男をヒラリとかわして横から殴り飛ばして落とす。うん、ここ殴られると痛いんだよー。経験則。続いて突っ込んできたやつはゴーグルみたいなのしてたから真正面から拳を入れてそれを叩き割る。
「うごぁっ!」
「目が、目がぁァァ!」
うん、流石にこの辺の奴らなら動きがよく見える。見える、見えるぞ!って感じ。あのイケメンメガネの特訓は無駄じゃなかったらしいな。このままいきゃあ俺一人でも…ってかスルーしてたがさっき大佐いたぞオイ。
「としや、ぼたん!」
へ、ぼたん?だからヘタレに指示出す時には具体的にって先生いつも言ってるだろ!…っとか馬鹿な突っ込み入れてる場合じゃねえよな、なんだよボタンって!?
「動くな!このボタンは、工場の核爆弾全部の時限装置につながってる!押せば五分で町が吹き飛」
「知るかあああ!!!」
「がはぁっ!」
「あべしぃ!」
なんか言ってたのをガン無視して突っ込んできたやつらを殴りつける。だってもう動いてんじゃん、ここで止まったら死ぬだけじゃんかよ。撃つと動く、じゃあるまいし。
「だ、だかr」
「なんだってええ!?パルカ、聞こえねえ!!!」
「俺の話を聞けええ!!!」
「うぐぅっ!」
「ひでぶっ!」
とりあえず突っ込んでくる奴らをなんとかしながらパルカの言ってたボタンを探す。パルカもなんか言ってるっぽいが、突っ込んでくる奴の「とあー」だか「でりゃー」だか分かんない声や、パルカ抱えてるやつのわめき声がうるさくて聞こえない。
「く、くそっ!」
「としや、このひとがもってるの!」
「聞こえねえ、とにかく助けっから!!!」
「くえぇっ!」
「くぽぉっ!」
とりあえず皆のしちまえばいいだろう、と考えて、左右二人の挟み撃ちを仰け反ってかわし、頭と頭をごっちんこ。うん、これだけ見えると漫画みたいな事出来るもんだね。そしてさっきからテロリストの諸君、断末魔がなんか聞き覚えがあるんだが、どういうことだい?
―――戦い、終盤。
とりあえず、大半はやっつけられたっぽい。
俺の左手には、数え切れない切り傷。あれだけナイフを防いだんだ、当然と言えば当然だろう。むしろ繋がっててくれてありがとう、の域だ。利き手、右手は攻撃に使う (柊みたいに美しい蹴り技が出来るのはそれ専門の練習した人だけだろJK)、と割り切ったために防御専門 (犠牲、ともいう)となった左手、ごめんね。
そして右手は、というと、無事、なわきゃあなかった。なんつーか、痛い。もう少し分かりやすく言えば、拳にひびが入ったみたいな感じ。あ、もしかしたらこれ大正解かも。たしか、慣れて無いくせに人をむやみに殴ると拳が痛む…みたいな事誰か言ってた気がする。
結論。満身創痍。息も絶え絶え。
でも、もーいい、と思う。
残す敵は、あと一人。
左手でパルカを捕まえた、おそらくリーダーだろう男。
こいつを殴り倒して、それで終わりだ。
「く、くそ、くるな、くるな、おすぞおおお!!!」
「それで来なくなる馬鹿はいねーよ。」
つかつかと歩み寄る。
だが、この時俺は気付かなかった。これに気付かなかったのは、痛恨、といっていいだろう。俺的に。オタクを名乗るものとして。
―――普通こういうときはナイフなり銃なりを、人質に向けるもんだろう、という事に。
本来それをするべき武器を持つ右手に握られているのが、なんか四角い、コントローラみたいなものだった事に。
「う、うああああっあがっ!!!」
完全に錯乱し、武器を構えることさえ出来ない男に、最後の拳を叩き込む。
もんどりうって吹き飛ぶ男をしり目に、パルカを支えてやる。囚われのお姫様の開放の場面。
だが。
お姫様の口か零れたのは。
「ぼ、ぼたん、おされ、おされちゃ、ちゃったよぅ…!」
涙の交じった嗚咽の声だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
柊蓮は、走っていた。
俊也のいると想像される、「広域兵器保管庫」にむけて。
敵の主力である『姓無』の一角をほぼ無傷で落としたにもかかわらず、彼女の表情は険しい。勿論、まだ戦場であり、他の人間は戦い続けているのだから、気を抜くべきでは無いのは当然なのだが、それだけでは無い焦燥感の混じった顔。
黒ずくめの『姓無』の言葉が、頭をよぎる。
―――先に向かうべきだろう。コウは本気になったが、殺すには至らないだろう。
得体の知れない男だった。
柊にとって、得体の知れない、とは、『読心』にあたって大きな障害となる。「相手に対して感じる距離感」によって読み取る情報量が増える『読心』では、読める量が極端に減るのだ。この時読めたのは、黒ずくめの男が嘘をついているわけではない、という程度のものだった。
(信じるなら、榎田だ。奴は、きっとやる。)
何度目かの行き止まりに苛立ちながら、折り返してまた走り出す。
―――貴様なら間に合うだろうと、奴は言っていた。俺も、急ぐがな。
イライラはとっくに頂点に達していたが、思考は止めない。そうしなければ、いざというときに動けないからだ。それは、自分の、そして仲間の命に直結する。
奴、とは?
間に合う、とは?
俺も急ぐ、とは?
答えの出ない思考と、思い通りにならない迷路に限りなく苛立ちつつも、駆け出す足のスピードが落ちることは、無い。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おk…、なんと、なく、は、分かった…。」
「とりあえず、急いで逃げるべきです~。私が広域兵器保管庫にある管理データベースになんとか入り込んで~、コードを止められないか~、頑張ります~。」
会話の相手は、ルリ女史。ケータイで「なんか核爆弾が爆発するらしい」って感じの説明だけで、何が起こってるか把握してくれるのは正直有難い。こっちはなんとかなるんじゃないかって気がするくらいだ。
なんともならないのは、こっちの方。正確に言えば、俺の現状。
一言で言ってしまえば、情けない、に尽きる。
左腕はほとんど動かず、だらりと垂れ下がっている。足もかなりガタがきており、支えて貰っている。自分より30センチ近く身長の低い女の子に。しかもパルカの方も、結構青痣作ったりしてるんだが、こっちはしっかりした足取りと手つきで俺を支えている。そして、右手がにぎったまま開けない (開こうとするとちょーいたい。フタエノキワミアッー。)俺に代わって、携帯を耳に当ててくれているのだ。
やっぱあのスピードとパワーで動きまわんのって、一般人には無理なんじゃね?筋肉痛ってレベルじゃねーぞ。
結論。
急いで逃げることはできない。
少なくとも、俺は無理。
「パルカぁ…運命って、ホントはどうなってたんだ…?」
「…はっきりは、わかんない。でも、こんなにとしやはけがしてなくて、はしってにげた。とおもう。」
「…いや、置いてってもいいよ?途中で柊とかが拾ってくれるだろうし。」
「やだ。」
即答。うーんどうしたもんか。
考えてるうちに、またケータイから声が聞こえる。相変わらず間延びした声だが、いつもよりちょっと緊張してる感はある声。
「……結論から言います~。解除は、難しそうです~。ですが~、出来なければ町ごと吹き飛ぶので~、どの道今からでは逃げられません~。俊也さんは、広域兵器保管庫を通って少し行けば~、その先の防衛用シェルターがありますから~、そこに避難してください~。」
「……了解、んじゃ、きるよ~。」
「ええ、さようなら~。」
ルリ女史の「さようなら~」が若干引っかかりはしたものの、とりあえず方向性は決まった。
んだが。
「なあ、パルカぁ…。聞こえてたろ、お前一人d」
「やだ。」
俺の足がそこまで行けそうにないのは、どう見ても明らかだった。それならば、置いていってくれた方がいいんだが。二人死ぬよりは一人死ぬ方がいいだろうし。
「そうだ、柊たちにこの事を知らせにs」
「やだ。」
「俺はお前の事をシンに頼まれt」
「やだ。」
「ある日森のくまさんg」
「やだ。」
「………。」
「………。」
若干頬を赤らめるパルカ。うん、こんなときでも笑いを忘れないのって異常なのかな?ポジティブシンキング過ぎる?生まれ変わるなら関西人かな。あ、でも関西人が全員おもしろいわけじゃねえしな。
「んじゃ、とりあえず、いけるとこまでいきますか。」
こくり、と頷くパルカ。なんか喋ってくれなくなったが、まあこの期に及んで好感度上げてもいた仕方あるまい。とりあえず運ぶのをやめる気はないようなので、俺は必死に、あがらない足を引き摺り続けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
体力の限界っ!
……とか冗談考えてる場合じゃねえかもなぁ…。
とうとう、限界が来た。俺に、じゃない、パルカにだ。
考えてみれば当然なのだが、休ませるにも休んでくれないのだ。
高校生の男一人を支えて歩くだけでも重労働 (弁解しておくが俺がさぼっていたわけではない)なのに、ましてや今のパルカは傷だらけ。本来の年齢を考えれば、倒れていても不思議はないだろうし。
案の定、広域兵器保管庫に辿りついたところで、とうとう倒れこんでしまったのだ。
顔を真っ赤にして息を切らすパルカ。
う~ん見た目あぶねえ。あ、俺はロリコンじゃないよ。念のため。
「でも、どうすっかなぁ…。」
倒れたパルカを右手の腕を使って器用に引き寄せ、そのまま壁にもたれてズルズルと座りこむ。壁にちょっと血が付いたのを見るに、どうやら背中も何箇所か切られてたらしい。ああ、また森音に迷惑かけるなぁ…。いや、ここでぶっ飛んだらそうでもないか?
いや、ここでぶっ飛んだら。
―――森音も。
それは、
それは、駄目だ。
そんな運命は、駄目だ。
だったら、そいつを、ぶち壊さなきゃならない。
―――俺には、その力がある。そうだろ?シン。
ええ、そうですよ、やっちまってください、という声が聞こえた気がした。幻聴まで聞こえるとは俺もかなりきてるな。でも、サンキュな。やる気、でたぜ。
さて、と…
「ヘタレっ!」
ちょうどいいタイミングで飛び込む影…おお、柊じゃん。
やっぱ事実は小説より奇なり、だな。このタイミングで援軍到着とはな。
「おい、これかr」
「柊、お前今からパルカ連れて、防衛用シェルターに行け。ここまでで見かけたろ?」
倒れていたパルカが非難の目を向け、柊が目だけで問いかける。「いいのか?」と。
「頼むぜ。異論は、受け付けない。」
「やだ、やだやだやd」
「わかった。信じるぞ。」
「おk。任せろよ。それが俺の『異能』だろ?」
ごねるパルカの腕を掴んで助け起こして強引に背負いながら、確認する柊。一応笑顔で返したつもりだったが、こわばってたかもしれない。だって傷痛いし。そのまま、少し顔を下げる。最後の休憩だ。
ゆっくり深呼吸した後、気合を入れて立ち上がる。
体がビキビキいってるのがはっきりわかるが、そこは無理強いする。どうせこれが最後なんだらこれくらいは踏ん張ってもらわな困る。
腕がズキズキ痛むが、それも根性で無視を決め込む。当然。左腕は感覚ないから痛みは無いんだが、つっかえ棒にすらならないので、握りしめたまま開けない右手 (激痛有)をついて体を起こす。
気力を振り絞って顔を上げると、誰もいなかった。
柊は、ちゃんとパルカを連れて行ったらしい。
心を読んでなかったわけではないだろうに、いいヤツだ。
「ははっ。」
笑いが零れる。これが、最後の一瞬である事を知っているから。
でもまあ、最後に皆を守って死ねるなんて、誇らしいじゃん。
ってか、守れる証拠はどこにもない。
そう、証拠はない。
なのに。
俺はするべき事が。分かった。
いや。分かっていた。不思議な感覚だが、これも俺の『異能』なのかもしれない。
「はっはっは……。」
ふらふらと、歩き出す。倒れたらもう起き上がれないと思う。
目指すのは、部屋の中の、並んだ機械群の一角。チカチカと目触りに輝く光。
すがりつくようにそれに身を預ける。
―――『新兵器』コントロールパネル。
これを、壊す。
当然壊したから時限装置が止まるとは限らないし、寧ろ速攻爆発する可能性が高いだろう。もしかしたら部屋ごと吹き飛んで、俺ごとおだぶつかもしれないし、そうでなくてもこのまま倒れれば失血死だろう、さすがに。
だが、俺の『異能』が、叫んでいた。
運命を壊したくばこいつを砕け、と。命を賭けてでも、と。
ふと、思う。
ああ、あの時榎田もこんな気持ちだったんだ、と。
「このシチュエーションなら、言うよな…。ははっ。」
口に微笑を浮かべ、最後の言葉を紡ぐ。観客がいないのが少々残念だがな。
「いいぜ…。」
開かない、握りしめた右手を、より一層強く握る。
「運命がなんでも思い通りに出来るってなら…!」
そして、大きく振りかぶる。これで、終わる。よな。
「まずはそのふざけた運命を、ぶち殺す!!!」
握りしめた拳を振り下ろし、運命を象徴するようなその光を打ち砕いた。
さて、あとはエピローグを残すのみですね。そして、キャラクター図鑑はこれがラストになります。今まで読んでいただいて、どうもありがとうございました。よろしければ、後一話だけ、お付き合いください…。
~楸 パルカ~
ごめんなさい。この作品中最も後悔の残るキャラです。不思議系美幼女という、需要バリ高 (俺基準)のキャラだったにも関わらず、全然上手く書けませんでした。ごめんよ、パルちゃん。
内面的モチーフは、作者の中にある「不思議系」です。天然とは似て非なるものですね。僕の最も好きな作品の一つ「るろ○に剣心」のともえさん。まあ、やはり王道としてアヤナミさんは多分に含まれますが (笑)。
外面的モチーフとしては、とりあえずかわいらしい日本人形、ってくらいです。作者のイメージでは、「地獄○女」のあの子 (名前忘れた。)ですね。
~木林 俊也~
主人公。何よりも、非常に書きやすい、書いていて楽しいキャラでした。こんなにも馬鹿キャラが書いていて楽しいとは…!「これは次回作にも生かしたい!」と思う反面、「次回はまともな人間を主人公に…」とも思います。まあ、そのへんはそのうちに (投)。
内面的モチーフは、これはもう不動といっていいでしょう、僕の最(ry「CLAN○AD」の春○くん。キングオブヘタレの名を冠するにふさわしい彼に、ちょっとした『異能』を付加した…という感じです。
外見的モチーフは、彼に関しては一切排除してあります。皆さんの思い思いのキャラにしてあげてください。求ムキャラ絵 (笑)
~『性無』の面々~
実は彼らは、次回作の中ボス的なポジションのキャラ達で、今作品では登場予定はありませんでした。物語が中盤に差し掛かった際、「超能力バリバリの主人公サイドを相手に敵が「テロリスト」ではあまりに弱すぎないか?」とふと疑問に囚われ、急遽彼らの出番になりました。僕の作品の妄想もとい、構想において、「敵キャラの魅力」というのはとても重要視しています。なぜ戦うのか?なぜ悪に落ちたのか?とか。その理由がかっこいいキャラはやはり魅力的です。その点考えると、今回の悪役は0点ですね (泣)次回はもっとかっこいい敵を書くぞ!
彼らにも当然モチーフがありますが、次回以降クロスオーバー予定なので、ここでは伏せたいと思います。ご了承ください。
では、多分明日にでも最後のエピローグが上がるかな?頑張ります!