七日目(日) ~運命~
初作品です。
稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。
「おおおっ!」
「ヒュウ、やるのー!あんさんの体格活かした、ええ戦法やー!」
ここまでの攻防で、榎田は既に相手の能力、『硬化』を見抜いていた。何度も急所を狙って突きたてたバタフライナイフの刃が、「刺さらない」。そして、まるで刃物同士で鍔迫り合ったかのような、甲高い金属音。
(要するに、「強欲」だろ?で、全身硬化は出来ない、っと!)
「ヤッ!」
「おお、またやられてもーた!あんさんはどうやらワイの『硬化』場所がみえるらしいなあ!」
急所を突く、と見せかけて、硬化した以外の場所を攻撃する。致命打には出来ないが、確実に相手の体力を奪える。特にさっきの一撃のように、足に入れられれば、同時に機動力も削ぐ事が出来る。
この調子でいけば、時間を稼ぐくらい、いくらでもできる。
でき……る?
そこまで考えて、ふと違和感に囚われた。
(時間稼ぎが、いくらでもできる?ダンナを倒すほどの敵を相手にして?いくら俺と相性がいいといっても、これはあまりに楽すぎじゃねえか?)
(こいつの力は、この『異能』だけなのか?)
(こいつは……。)
―――本気になって、いないのではないか?
その瞬間、背筋に冷たいものが走った。
慌てて目線を向ける。
その先にいるのは、黒ずくめの男。まがまがしい殺気を放ち、仁王立ちする男。ニット帽と襟元で見えない表情が、心なしか苛立っているように感じる。
男は、微動だにしないまま口を開く。
「ゼツ。先に、行くぞ。」
「おお、ゼツやん?それも、奴が言っとったんか?」
「ああ。」
「いいんか?ワイ今、めっちゃたのしーで?」
そこまで言って、軽薄そうな頬が大きく歪む。
殺人鬼が、妖しく嗤う。
榎田の目に映る『害意』の揺らぎが、輝きを増していく。
「ちぃっ…!」
「はっはっは…、ワイ、楽しすぎて…あんさん、殺してしまいそうやわぁ…。」
「…構わん。奴は、それでも大丈夫だと言っていた。」
「なら、ええなぁ…。」
爆発的に膨れ上がった存在感。圧倒的な暴力。
そして。
いままでの殺意が赤子同然に見えるほどの、背後が妖しく歪むほどの、殺気。
「くそっ…いかせるかうおっっ!!!」
ゆっくりと第二区画に向けて歩き出した黒ずくめを止めようと駆け出そうとした榎田。
その体が。
大きく横薙ぎに吹き飛んだ。
周囲の電子機器を巻き込んで激しく転がる。
『硬化』など全く関係ない、ただ力任せの一撃。
「う、うぐおっ、お……。」
膝立ちになり、立ち上がろうとし、
一旦崩れ落ち、吐血する。
たった一撃。
力任せの一撃が、この威力。
(一瞬の殺気に、横向きに跳んでなかったら、死んでた……。)
一気に近づいた死の気配に、榎田の頬を汗が伝う。
ふらつき、吐血しながらも立ち上がった榎田を、心の底から楽しそうに見つめる、バンダナの男。その後ろに見える、歩き去る黒づくめの男。
「あんさん…ちょうどえーから、ちょおっとワイらの事おしえたるわ。ワイらは、『姓無』はな、殺人鬼なんや。『異能』に目覚めてもーたりして、ごっつい運動神経を得る…まあ、これだけやったらよかったんやけど、な。」
虚空を見つめながら、バンダナの男は語る。
「そのときに得てもーた力のせいで、「ある衝動」を抑えられんくなる。ごっつい力を得たもんにはよーあることや。それはな、『殺害衝動』。ワイらは、ある瞬間から、その衝動に心を奪われていく。」
ふと足元に転がった、電子機器を拾い上げ、ぐしゃぐしゃに握りつぶす。
「ワイらはな…。人間で有りたかったんや。せやから、皆で集まって、考えた。そんで始めたんが、傭兵や。これやったら、殺しても咎められへん。衝動が堪え切れんくなったら、戦場で戦う。そんで衝動を解消したったら、また普通に生きていける…。」
粉々に…鉄製の機械が本当に粉々になり、足元に落ちる。
「でもな、ワイは駄目なんや。普通の生活をしたいと思う……ホンマにそうおもっとるチユやサッチとはちごーて、な。ワイは、楽しい。ジュウとおんなじで。もうきっと、戻れへんねん。だから、な。」
思い出したように、榎田を見つめる。
「殺すでえ。あんさん。あんさんは、ワイを、たのしませてくれぇや…。」
話し終わると同時に、倒錯した笑みを浮かべて榎田に跳びかかる。
『硬化』した腕が、鉄の機械をまるで紙でも破るように貫く。
紙一重でかわした榎田のわき腹が、飛び散った鉄片で裂ける。
(これが、こいつの本気…。完全に、殺すつもりの攻撃…。)
理屈も何もない恐怖。もう一発くらえば死ぬ、という焦燥。
第二区画に消えて行った男の事は、考えない。
(そっちは任せたぜ、柊……。なんとか、上手く逃げてくれ…。)
再び襲いかかる殺人鬼の打ち下ろしが、さっきまで榎田がいた場所の床を大きく凹ます。
本気のデスゲームが始まる。反撃の余裕も無い、勝ち目のない戦い。
それでも榎田は時間稼ぎに徹する。
どこまで稼げるか分からくても、そんな事は関係ない。
それが、仲間のためになるのならば。
ただ一つ言えるのは。
彼に残された時間は、少ない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぐおお!!!」
悲鳴が上がる。
圧倒的だった。
次々と決まる連続した蹴りが鮮やかに決まり、異能、『重化』によって重くなった体さえも吹き飛ばす。態勢を立て直す前の一瞬に横に回り込み、回し蹴りを放つ。的確にこめかみを抉り、意識の刈り取りを狙う。
「諦めてもう寝ろ。」
「クソォ……調子に乗るなよおんなァ…。」
(殺す、必ず殺す、ぐちゃぐちゃにして殺す、ギタギタにして殺す、潰して殺す、殴って殺す、苦しませて殺す、右の薙ぎ払いで殺す、恐怖させて殺す、泣かせて殺す、ぶっ殺す。)
『姓無』の右腕、つまり柊の左側面を狙った横薙ぎの一撃を「読み」きってかわす。そのまま重量に振り回される形となってがら空きになったわき腹を前蹴りで吹き飛ばし、その反動で空中で身を翻し、つまりはバク宙して距離を取る。
頭は、痛い。
こめかみのあたりが締め付けられるように軋んでいる。
『読心』は確かに精神的な疲労を伴うが、明らかにそれだけでは無い苦痛。
(だが、そんなものは関係ない。もう、終わる。)
『姓無』の、このジュウという男は、決して弱くはない。「ちょおっと『衝動』を堪え切れない(実際はちょっとどころではない)んやけど、文句なしに『姓無』戦闘要員の一角や。」というのはコウの談。
柊が、強すぎるのだ。
完全に思考を読み、長いリーチを生かした蹴りで圧倒していた。
「コロシテヤル殺してやるころしてやる殺してヤルこロシてやルころしテヤる…」
もう、勝敗は決した。
あとは、ただ一つ。一つだけ確認する事がある。
「師父を…楸シンを殺したのは、お前では無いな?」
「コロシテヤル殺してやるころしてやる殺してヤルこロシてやルころしテヤる…」
反応はなかった。だが、柊の異能、『読心』は、鋭敏に『姓無』の心を読んだ。
(連れて行かれなかった…おれは、そいつの殺しには連れて行かれなかった…)
ああ…。
よかった…。
師父は、少なくともこいつに殺されたわけじゃない。
こんな、殺意だけの下らない奴に殺されたわけじゃない。
それだけで、満足だった。
「コロシテヤル殺してやるころしてやる殺してヤルこロシてやルころしテヤるウウうう!!!」
飛び掛かる『姓無』。だが、完全に動きを読まれ、その攻撃は紙一重で当たらない。
そして。
空振りの隙に、必殺の後ろ回し蹴りが側頭部に炸裂し、『姓無』の意識は落ちた。
「で、次はお前が相手か?」
そして、そのまま声をかける。
音も無く歩いてきた、黒ずくめの『姓無』に向かって。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい、キリキリはこべよな!」
「何言ってんだよ、あの化け物どもが入口守ってんだろ?大丈夫に決まってッじゃねえか。」
「そうそう。特殊兵団もちょっと数が少なかったけど、あいつらが全部片付けたし。」
「なんかあればあいつらと一緒にいる奴らから連絡が来るさ。」
下らない会話の行われているのは、「兵器出荷控室」。「広域兵器保管庫」をはじめ、完成した武器の保管庫から、一部の人間のもつキーで入れる、最後の部屋。
手ごろな武器の梱包を始める者と、人間の大人より一回り大きな『新兵器』を運ぶための台車を見つくろう者。無駄口を叩いてはいるものの、流石に死線をくぐってきた者たちだけあって、動きにはよどみがない。
もうすぐ外に出るためか、顔の下半分を覆う、マスクをしている。
夢で何度も見た、あのマスクを。
リーダーは作業には加担せず、その様子を眺めている。
左手にがっちりと抱え込んでいるのは、パルカ。さっきまではまるで意識がないように静かだったが、今になって何かに脅えるように見えるが、男にはなんなのかは分からないだろう。
そして、右手に持つのは、ボタンのスイッチ。組織が長い時間をかけて作り上げた、ハッキングの成果。『新兵器』の時限装置を作動させるスイッチ。
「うぐう…」
「暴れるんじゃねえ!」
パルカは、知らぬ間に声をあげていた。それは、誰よりパルカ自身を一番驚かせていたのだが。
もう、死ぬのは、覚悟してたのに。
もう、抗わないって決めたのに。
シンが、向こうで待っているかもしれないのに。
「うう、うううう……」
知らずに涙が零れる。この一週間、一度も流す事の無かった涙。
「そろそろ行くぞ。次はこの台車引いて、一気に車まで行くぞ。武器を出しておけ。」
台車を引く係の男たちが、武器は別の者に預けて、運搬に専念する。そして、兵器を盗み出して男たちが、自前の武器を構える。
ある者は、二丁拳銃を。
ある者は、マシンガンを。
そして、ある者、パルカの目の前に来た男が、ナイフを抜き出す。
「んじゃ、とっとと行くぞ…何泣いてんだ、行くぞオラァ!次はどっちだぁ!?」
頬に鈍い衝撃。現実にはなったが、まるで現実で無いかのように感覚の無い衝撃。そして、自分の言うとおりに男たちが歩き出す。この部屋においてあった梱包用のロープで縛られた両手。為す総べなく引き摺られる自分。
全てが、運命のまま。
そして、運命のままに、
ガシャン! ―――ドアが蹴り空けられる音。
ドアが開けられ、
「なんだぁ!?」
マスクの男たちが、一瞬油断し、
「ぱるかあぁぁ!!!お前は、生きていたくないのかああああああ!!!!!」
運命が、ぶち破られた。
遅くなった分、2話投稿してみました。残るところあと1話、エピローグまで入れて2話。思ったより長かったです…。
さて、キャラクター紹介です。
~木林 森音~
妹キャラ。自分の中の典型的妹 (理想的、ではない)を文にした感じです。ストーリー的には、「帰るべき日常」の象徴で、一応ヘタレなりに彼女を守ることを誓って戦う…予定だったんですがねえ。メールのシーンはもっとかっこよくできればよかったんですが作者の力不足で(泣)
内面的イメージは、月○の遠野家の妹ですね。ツンデレ妹代表、といった感じでしょうか。なんでも出来つつも、兄にはツンデレ。みたいな。僕はどちらかといえばべったりが好みですが、友人との論争、「ツンデレは世界を救うか否か」で論破されて彼女の性格はこうなりました。
外見的イメージは、実はぶっちゃけ全くありません!一応本編では「ふわふわヘアー」となっていますが、作者はふわふわヘアーがどんなものかさえ知りません(笑)なんなんだ、ふわふわヘアー。ということで、僕の中で彼女は映像化されてはいませんね。
~森羅 瑠璃~
ルリ女史は、ほんとはモブキャラの予定でした。ですが、柊、森音がしっかりタイプなので、天然タイプは必要かな、と思い、めでたくメインキャラ昇格となりました。ストーリーを考えるにあたり、著者はまずエロゲちっくに考えて、攻略ルートを考えます。本編の潜入方法は、ルリ女史ルートのもので、これ以外ではシンが生き延びて彼のハッキングによって扉は開く…みたいな妄想をしてました。迷ったのですが、これはやっぱり女の子優先に(笑)
内面的イメージは、ネ○まの、ちづ姉ですね。ふわふわぽけぽけ、でも中身はしっかり考えてる…みたいな。能力のイメージは、劣化版うにっ。
外見的イメージも、ちづ姉です。とりあえず、細目は外せませんね。