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七日目(日) ~柊~

初作品です。

稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。

 森羅電気、第三区画。

 原子力発電エリア。

 そこに、血に塗れて佇む男が一人。


 「やはり、貴様か……。」

 「ヒヒヒ…おんなァ…、やっぱりきたかぁ…」


 完全に狂気に落ちた目を爛々と輝かせ、愉悦に歪んだ表情で柊を見つめる男。

 この場に存在する、最後の『姓無』。


 (コロシテヤルころしてやる殺してやるコロシテヤルころしてやる殺してやるコロシテヤルころしてやる殺してやるまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと)


 吐き気を催すほどの思考は、間違いなくこの男が、あの『姓無』である証拠。


 「柊、こいつが…」

 「ああ、そうだ。三人目の『姓無』。私が相対するのは、三回目だ。」


 『読心』など持たない俊也が、明らかに憔悴した様子で口を開く。当然と言えば当然かもしれない。なぜならその足元にあるのは。


 まるで象にでも踏みつぶされて様に、所々が平になって息絶えた、人間の死体。

 あるものは恐怖に顔を引き攣らせ、またあるものはその必死に腕を突っ張り。


 「……うぅっ!」

 「先に、行け。ヘタレ。こんな奴とっとと片付けて、すぐに後を追う。」

 「…くぅ…。」

 「こいつの足元。制服姿で無い人間も混ざっている。恐らく無差別に、味方のはずのテロリストまで惨殺しているのだろう。先の人数も減っているはずだ。お前一人でもパルカを救い出せるだろう。」


 必死に吐き気を堪えている (できればみっともなく頬を膨らませるのは勘弁してほしい、と柊は思うのだが)俊也に、小声で指示を出す。俊也は青ざめた顔で前を向き、相手を睨みつけながら言う。


 「……勝算は?」

 「愚問だ。私を誰だと思っている。師父の、シンの後を継ぐ者だぞ。」

 「……分かった。俺だけじゃ、不安だから…。早めに頼む。」

 「訂正してやろう。お前は、きっと大丈夫だ。」

 「なぜそう思う?」

 「勘だ。」


 身も蓋も無い返事に、少しだけ俊也が苦笑いを洩らす。『読心』から感じるのは、ホンノすこし持ち直した心と、再び灯った、強い覚悟の光。この男は、強くなったのだな。心の中で呟く。師父は、師父の思いはちゃんと自分たちに宿っている。その事が感じられたのが、柊はひどく誇らしかった。


 「頼む!」


 そういって走り出す俊也。目指すは、第四区画。武器開発・製造区画。瑠璃曰く、「至る所に火薬の仕込まれた、迷路のように入り組んだコンベヤー地帯」だそうだ。その先にある、『新兵器』の保管部屋。すでに完成し、出荷を待つ悪魔の兵器。


 「ひひ……させるかよォ…オオ!」


 跳びかかろうとした『姓無』が、横薙ぎに放たれた後ろ回し蹴りに吹き飛ばされる。

 放ったのは、勿論、柊。

 一瞬で、自分から敵の注意がそれたほんの一瞬で相手の進路に立ち塞がり、その勢いを利用した強烈な一撃。


 だが、いつかと同じく、やはり思ったほどに吹き飛ばない。

 それどころか、自分の足が若干痺れるほどの衝撃。


 (やはり、「重い」。これがこいつの『異能』だな。)


 『姓無』が空中で猫のように体を反転させて着地し、柊を睨みつける。その目に宿る狂気と殺意をますます強め、恐ろしいほど開かれた瞳孔が柊を射抜く。

 その心に宿るのは、全てを塗りつぶす殺意。


 だが。


 その目を見つめる柊に、恐れの色は無い。

 以前の恐れ、みっともなく狼狽した面影は、彼女にはもう無い。


 自分をはるかに上回る敵を相手に、果敢に立ち向かった榎田。

 心に恐怖を抱えながらも、それでも覚悟を決めた俊也。

 そして。

 自分を、こんな弱い自分を、自慢の教え子と言ってくれた、シン。


 皆の顔が、脳裏に浮かぶ。


 迷いは、無い。



 自分に向けて、凄まじい殺気を放ち、一気に襲いかかる『姓無』の腕を体をひねってギリギリでかわし、カウンターの回し蹴りを深々と叩き込んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「次はどっちだ?」

 「……」

 「早く言わねえかッ!」

 「うぅッ!」

 「ったく。どっちだ!?」

 「……みぎ…。」

 「最初から素直に言う事きいてりゃ、痛い目見ねえんだよ、ったく…。」


 ベルトコンベヤーと重機械の迷路の分かれ道で、数人の男のうち一人が呟く。男たちは皆そろいの迷彩柄のジャケットにゴーグル、数人の左手には拳銃よりはるかに重量級のマシンガン。ステレオタイプな、まるでお手本のようなテロリストファッション。

 そしてリーダー格の大男の腕に引き摺られているのは、まるで人形のような外見をした少女…パルカ。普段のきれいすぎるその顔が、今は青痣と苦痛に歪められている。


 (どちらといっても、かわらないのに……。)


 パルカは、適当に答えているだけだ。男たちはパルカの力を『未来を予測する能力』と考えていたが、実際は『予感』、分岐点を捕えるというだけの力だ。だから正確な意味では未来を予測する事は出来ないのだが、この場合はすこし場合が違ってくる。

 つまり、この先に、『分岐』が見えているという事は、それは不可避なのだ。それは、例えどのように行ったところで、最終的にはそこに辿り着く、辿り着いてしまうという事。だったらどう道順を説明しても変わらず、最深部まで辿りつける事になるのだから、さっきから言っている道筋は完全に勘なのである。それがまるで予言のように行き止まりになることも無く進めるのだから、男たちが勘違いするのも無理はないのだが。


 (もう、いい……。どうなっても……。)


 パルカの心は、もう、壊れた、といってしまっていい状態だった。運命が刻一刻と迫ってくる今。死を選ぶ、もう心は決めているとはいえ、自分を殺すその未来。


 そして何より、昨日の深夜。


 ―――楸シンは、死んだ。雇い主の願いにより、君を連れて行かせてもらう。


 黒ずくめの男が言った言葉。

 兄が、もうこの世にはいないという事を示す、無慈悲な言葉。


 (もう、おにいちゃんに、あえない。)


 その事は、彼女の心を深く傷付けた。攫われる事に対して、全く抵抗できないような思考の停止を引き起こすほどに。いまでも、半分眠ったように、周りの全てがまるでテレビの映像のように、現実感がなく、白黒の無味乾燥なものに感じるようになるほどに。


 (おにいちゃんに、「ありがとう」、いってない…。)


 もう何度めだろう、ループし続ける思考を走らせる。


 (なんでもおしえて、なんでもくれたのに。なにもかえせなかった。おれい、かえせなかった…。)


 自分が、死ぬのだと思っていた。痛いのを、耐えればいいだけだと思っていた。


 甘かった。

 そんなものじゃなかった。

 近しい人がいなくなる、その恐怖を、全く覚悟していなかった。


 絶望で、今にも壊れそうな心の中で、うわごとのように繰り返す。


 「…いっ!おいッ!つぎはどっちだって聞いてんだよッ!!!」

 「ぁぅっ……。」


 呼ばれていたのに気付けなかったらしい。腹部を、膝で蹴りあげられ、くぐもった悲鳴を上げる。


 「おら、起きたかよ!?どっちだ!?」

 「……ひだり…。」


 殴られても、蹴られても、まるで人ごとのように現実感がない。

 心の無い、無機質な痛みは、彼女を現実に引き戻すことはできない。


 彼女の心は、蝕まれ続ける。

 絶望と、後悔で。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「っつぎはぁ!?」

 「右です~、えっと~、そのあとの三差路は直進です~!」


 携帯電話に対して怒鳴るように…ってか、完全に怒鳴り声で指示を仰ぐ。怒鳴ってる事に対して、特に理由はない。特に理由も無く怒鳴りつけられるルリ女史はたまったもんでは無かろうが、怒鳴り返すこともなく俺に指示を与えてくれる。


 「っでぇ、直進の次は!?」

 「左に曲がって~、あとは道なりに行くと~、『新兵器』の保管庫です~!あ、直進のとこの横の銃火器は火薬入ってるから気をつけてください~!」

 「うおばえばあ!」


 加速のために横のコンベアにつかまろうとした手を慌てて離す。あぶねえなオイ、先に言えよそれ!…というか、ちょっと待てよ?


 「このまま着くまでにテロリストと会えない事ってあんのか!?」

 「は、はい~?一応第四区画最奥部、『広域兵器保管庫』への道はこれだけですよ~?」


 おいおいおいおいどうなってんだよ、もう敵さんどっかいっちまってんじゃねえのか!?


 「えっと、あー、あー、うー!」

 「だ、だいじょーぶですか~?」

 「だ、だいじょばない……。」


 んな事言ってる場合じゃねえ。

 考えろ、考えろ。

 ヘタレにとって思考を止めることは死を意味するんだろ、俺。


 『姓無』とかいう奴らがまだ入口を守ってた、という事は、まだ奴らは脱出してはいない。

 つまり、最悪の事態にはまだ至っていない。

 けれど、入口からここまで真っ直ぐ来た俺と出会っていない。

 なら、別の脱出ルート、とかか?


 「ルリさん、その保管庫から外に出る道の最短ルートは!?」

 「え~と~、それでしたら~、搬出口がありますね~、それは保管庫の奥のドアからです~。」

 「あるのかよ!その道は!?」

 「え~と、こっちはロック解除が遠隔操作ではできないです~、利用も一部の限られた職員のキーでしか出来ないですし、こないだセキュリティコードを変えさせたんですが…」

 「…日本語でおk?」

 「え~…!!!…すいません、コードがそのままです~。職員がさぼったようですね~。使用履歴があります~。今日、ですね~。キーは通り魔事件の時の人のものです~…やられましたね…。」

 「とりあえずそいつらはそっち行ったんだな!?」

 「はい~、まちがいn」

 「おk、さんきゅ!」


 そのまま電話を切り、全速力で走りだす。

 できる。

 俺は出来る。


 ―――ヒーローに、なるんだ。だろ?

 ―――お前はきっと、大丈夫だ。


 二人の声が、耳にこだまする。

 その声を力に変えて、先へと急ぐ。


 皆に託された、一人の少女を救うために。

 下らない運命を、俺の『異能』で捻じ曲げるために。


 すこし間が空いて申し訳ありません。では、キャラクター解説、行きますね。


~榎田 涼~

 内面的なモチーフ、実はありません。というか、プロット段階では実は彼は存在すらしていませんでした(笑)いざ書き始めてから、オタが俊也一人ではネタが入れにくい、掛け合いがほしい、という理由で登場となり、ポジションによって自動的に「かっこいいオタ」になりました。

 外面的なモチーフは、「ものすごい髪の色」「ショタ」のみですね。色とかはどんなのを皆さん想像したんでしょう?僕の中では、某一賊の人間失格ですね。


~柊 蓮~

 もっとも構成を考え抜いたキャラです。その割にイマイチなような…。僕は小説を書く上で、まずは始まり(所謂ボーイミーツガール)を考えるのですが、この小説では、「き、貴様なぜ生きている!?」にしてみました。どうですかね。

 内面的なモチーフは、僕の最も好きな作品の一つ、「リトル○スターズ!」の姉御。の、精神面弱体化版、ですね。あと、書き始めて読んだ、「アクセ○ワールド」の○雪姫にもちょっと影響あったかもしれません。めざせクーデレ、でしたが、全然うまくできなかったような。

 外面的なモチーフは、髪型だけですが、「ネ○ま」の忍者のおねーちゃん。この髪型は、うまく使えばアクションの激しさが表現できるのでは、と考えて採用しました…のですが。そう考えていた時期が、俺にもありました。あと、柊は唯一、明確なバトルスタイル(蹴り主体)があるのですが、この描写は、僕の最も(ry「カレと○ノジョと召喚魔法」の、○雪姫をみて勉強しました。この小説はもっと評価されてもいいと思います。

 あと、余談ですが、彼女の名前が素敵だ、とお褒め頂きました。ありがとうございます。でも、申し訳ないのですが、完全に適当です。一応みんな「木」関係ですが、それも「なんか統一感ほしーなー」程度の意識です。深読みした方、申し訳ありません(笑)

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