表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/26

六日目(土) ~瑠璃~

 (ああ、明日だ……。)


 瑠璃は、ゆっくりと目を覚ます。普段は弁当を作るために早起きする瑠璃だが、本来低血圧の彼女にとって、休日は惰眠をむ貪るためにあるといっても過言ではない。


 この日も、瑠璃が目を覚ましたのはもう日が傾き始めていた。これは珍しい事ではない。が、


 (今日と明日くらいは、何も考えずに眠っていたい……。)


 この土日は、森羅にとって特別な日。森羅の所有する最強にして最凶の兵器。『新兵器』の完成と、出荷の日。今日の夜までには完成しているだろう。そして明日、極秘に出荷される。管理データを見るに、遅延は無い。今日、完成するだろう。


 そして出荷され。

 たくさんの人を、殺す。

 未来永劫にわたって、殺し続ける。


 (もう、何も考えたくない……。)


 布団の中で寝返りを打つ。自分がそれに、間接的にとは言え関わっている事が、ひどく醜い事に思える。自分がこの手で人を殺している様な錯覚に襲われる。一番最初に見た悪夢は、まさにそれだった。


 (『新兵器』…。大規模設備を持つ、森羅だから可能な兵器…。)


 『新兵器』には、まだ名前はない。使われて初めて名前がつくだろう。悪魔の兵器として。あえて呼ぶならば「誘導ステルス核砲弾」。大陸間さえも横断しうる、尚且つ炸裂するまで相手には存在を示さない兵器。ステルス、という特性上、抑止力には向かない。使うための核兵器だ。世界に流れた数だけ、大都市が消えるだろう。


 (なんで…。こんなことに……。)


 なぜ森羅が、実の家族がそんなものを作ろうと思ったのかは分からないし、分かりたくもない。その血が流れている事が苦しい。自分にも、罪があるように思う。いや、様に思う、ではないか。自分も同じであろう、と。


 (逃げてしまおう……。)


 ちっとも帰って来てくれない眠気に、二度寝を諦めた瑠璃は、枕元の携帯電話に手を伸ばす。開いた画面には、いくつかのメールの着信。そっけない仕事のメールばかり。それらをまとめていらないフォルダに放り込み、メールの作成画面を呼び出す。


 「ん~。まるで付き合っているみたいですね~。ふふ~!」


 少しだけブルーな気分から抜け出し、常人とは一線を画する速度で携帯のボタンを打つ。逃げてしまえばいい。今はまだ、逃げられない境地では無いのだから。



 件名:こんにちは!

 本文:お忙しい、って言ってたのにメールしてすみません!起きたらこんな時間で、ちょっと俊也さんとお話ししたくなってしまいました (笑)今日と明日は私は家でごろごろしているだけですし、もし時間が空いたり、聞きたい事があったらいつでもメールしてくださいね~!

 さて、本題です!本題と言うか、これも雑談なんですけどね (笑)月曜日もお弁当を作っていくつもりですが、バイト代が入りまして、私のお財布に少し余裕があります!なので、な、な、な~んと!!!リクエストを受け付けます!

 なにか好きなもの、食べたい物とかありましたらメールしてください!無くてもメールくださいね (笑)

 あ、忙しかったら、返信は後でいいですよ~!



 一気に打ち込んで、そのまま送信。タイプミスをしなくなってからもう随分経つな、と瑠璃は心の中で呟く。


 (このまま、ふたりで甘えていたい…。逃げられるところまで逃げて…。)


 そんな甘い幻想を抱く。お互いに甘え合って。醜いところを隠し合って。傷をなめ合って。でも、支え合って。


 センスのいい明るい着信音。予想より遥かに早い返信に心を躍らせて画面を見る。


 だが。

 その返信は、彼女の甘い夢を、あっさりと砕いた。



 件名:Re:こんにちは!

 本文:森羅電気の、武器工場の事、どこまで知ってる?



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 大した意味はない。ハッキリ言おう、大した意味はない。大事な事だからな。

 届いたメールを見た時、いらついた。俺を巻き込む真っ黒の一人が何を言うかと。だから、ついむしゃくしゃしてやってしまった。



 件名:Re:こんにちは!

 本文:森羅電気の、武器工場の事、どこまで知ってる?



 これで、もうメールは帰ってこないだろうな、と思った。数少ない友達の一人を失ったわけだ。ははは。なんかね、もう。自暴自棄、ってこういうのを言うのかもね。いや、知らなかったら、「何ですかそれ?」って返信来て、「なんでもないよ~、ははは~」で済むのかな?良く分からんが。


 ♪~♪♪~

 だが、きた返事は、無情だった。



 件名:無題

 本文:どこで聞かれたんですか?それを。教えていただけるなら、教えていただきたいです。質問には、お答えします。答えは、すべて、本当にすべて知っています。私は、森羅のセキュリティ管制室室長ですから。



 ああ。やっぱりそうか。あんたも、そっち側の人間だったのか。もういいや。話すことなんてない。俺は返信を打つことなく、ケータイを閉じた。そのまま歩き出す。


 ♪~♪♪~

 が、またケータイがズボンのポケットで震えだす。



 件名:無題

 本文:軽蔑しますか?



 ああ、なんだろうな。こんなに気持ちは荒みきっているのに、機嫌とらなきゃ、って考えてる自分がいるね。ヘタレだろ、女の子をふっ切る度胸も無いってことだ。



 件名:無題

 本文:いや。俺もおんなじだし。自分にできることに自惚れてさ。覚悟も無い癖に関わって、怖くなったら逃げ出して。おんなじだよ。



 打ちこみながら、また泣きそうになった。なんか今日は涙腺緩いのかもな。どんな返信来るんだろうかな?「いっしょにすんな」とか?


 ♪~♪♪~

 はは、ルリ女史もヒマだな。こんな奴の鬱話の相手なんかしてさ。



 件名:無題

 本文:逃げませんか?一緒に。



 はは。なに言ってんだよ。もう逃げてるよ。


 ♪~♪♪~



 件名:無題

 本文:覚悟の無い私達は、もともと関わるべきじゃなかったんですよ。だから、一緒に逃げてしまいませんか?私と俊也さんと、二人で。どこか遠くで。のんびりと。



 ♪~♪♪~


 件名:無題

 本文:私は、俊也さんと一緒です。だから、俊也さんを助けたい。そして、俊也さんに助けてほしい。甘えて、逃げて、でも支え合って。それでは、駄目ですか?



 ああ、面倒くさい。この時の俺は、そう思ってしまった。俺は普段の冷静 (ツッコミはもういい)な頭の回転を失っていた。もし冷静なままだったのなら、気付いただろう。ルリ女史がどんなに俺の事を心配していたか。俺を気遣ってくれていたか。どれだけ涙を流しながら、痛みに耐えながらこのメールを打ったのか。

 そして、どれだけ俺に助けを求めていたか。



 冷静さを失った俺は、そのままメールを作って送ろうとした。


 件名:無題

 本文:そうだな。ヘタレだし。このm


 ♪~♪♪~


 メールを作っているときに、割り込む着信。それは、妹から。


 ただ一人。真っ黒な世界に染まらない、染まらせてはいけないとした妹。その表示を見ただけで、また涙が溢れそうになる。



 件名:無題

 本文:夕飯はどうしますか?最近にーさんは、なんか変わりましたね。いつもは「怖いから外出ない」とか言ってるのに、今日はえらく社交的ですし。

 行動も、なんだか良くなっているように思います。だから、無理に帰って来いとはいいません。この調子で頑張ってください。

 夕食の返信は忘れずに。



 ああ。それは勘違いだよ、森音。それで、取り返しのつかないとこに足突っ込んじまったんだよ。だから今から俺は…。


 俺は。

 俺は、逃げられるのか?

 逃げて、いいのか?この、自分を信じている妹を残して?


 心が、揺れた。返信を打つ手が止まる。


 ♪~♪♪~


 続けてなる着信音。登録外のメール音。

 開けたメールの最上段に書いてあった文字は。



 題名:遺書



 これ以上ない分かりやすいタイトル。


 それは、事務所の三人あてに送られた、死者からのメッセージだった。

初作品です。

稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ