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五日目(金) ~特訓~

 「こんにちは~…。」

 「こんにちは、早く来ていただいて助かります。さて、木林君。早速ですが、とりあえず着替えてきてください。」

 「……ホントにさっそくですね…。」


 さっさと事務所から追い出される。まあ、事務所、っつっても単に一軒家の広いロビーに仕事机いくつか置いてるだけだが。で、通された部屋は、おんなじ位の広さのある部屋ではあるのだが、こっちは机とかがない分えらく広く感じる。まあ具体的に言えば教室の半分くらいか。なんもないとえらい広く感じるもんだ。


 で、とりあえずジャージに着替える。あ、ちなみにジャージは普通の人は一組しか持ってないだろうが、俺は3組持ってる。なんでって?俺だからだよ。


 「着替えたようでえすね。では、訓練を始めます。」

 「…着替えてる途中だったらどうするんですか。訓練って何ですか。そもそも何で着替えさせられたんですか。」

 「う~ん、ツッコミは一つにまとめてほしいものですね。」


 いや、それならツッコミどころは一つしかない様に話題を進めてくれよ。


 「何故着替えたか、これから体を動かすので、動きやすい服装がいいからです。訓練とは何か、戦闘訓練です。着替えてる途中の可能性、僕は普通に女の子の方が好みなので別に君の裸を見ても苦しむのは僕です。」

 「……僕も苦しみます。」


 ではなくって!!!ツッコミどころはそこでは無い!!!


 「戦闘訓練ってなんですか!?俺一般人ですよ!?」

 「君はかなり特殊な部類ではありますが、一応『異能』の持ち主です。なので、ある程度の身体能力の上昇がある…要するにこちらの世界に入れるはずなのです。」

 「……はっきりいって入りたくありません。」

 「却下です。」


 ニッコリ笑顔で却下される。なんかこいつほど脅迫っていう言葉が似合うやつもいないと思うんだ。まあ逆らうことはできない訳だけど。否、逆らおうとは思わないけど。


 「では、内容を説明します。今から僕がBB弾を指ではじき出しますから、それをひたすらに避けてください。まあ、簡単に言えば逃げ回ればOKです。」

 「なんだBB弾なr」


 ヒュゴッ。メゴッ。


 俺のセリフを遮る不吉な音。前者は風切り音。後者は破壊音。…俺の後ろの、アスファルトの壁の。耳元を掠めたBB弾は、髪の毛数本を吹き飛ばし、そのまま壁にひびを入れていた…っておいおいおいおいいいぃぃ!


 「ひ、ひょえ…!」

 「BB弾とはいえ、私が全力で打ち出せばこのくらいの速度が出ますね。当たれば痛いと思いますので、頑張って避けてください。」

 「ひゃ、ひゃいいい!!!」


 いやいやいや遺体で済むわけねえだろ!無理無理無理!死ぬ死ぬ死ぬ!いやだってBB弾で壁にひび入れるってどんだけだよ!俺の頭蓋骨は多分アスファルトよりは脆いよ!


 「まあ心配しないでください、いきなりあのスピードで連射したりはしません。もうちょっとゆっくりめから慣らしていきましょう。」

 「いやいやいやそれでも見えない!速い!死ぬ!」

 「まあ一応急所にあたれば死ぬかもですねー。」

 「なんでそんなにのんきなんだよこっちは命かかってんだよ!あ、こら、打つな、いだ!!」

 「はははー。」


 打ちこまれた弾丸が顔を庇った左腕を直撃する。折れたんじゃないかってくらいの衝撃。軽い分腕が弾かれたりはしないが、何発も防ぎ続けられるものじゃない。やばいやばいやびあ!あ、舌噛んだ!


 「とりあえずしばらく逃げ回ってください。連続十分間避け続けられたら次のステップに行きましょう。まあ、これはすぐ終わりますから、とりあえず殺されない様に頑張って逃げてくださいねー。」

 「殺そうとしてる本人がなにをいうだー!!!」


 うん、こんな時にまでネタが出るとか俺もすごいなー、とか思う。うん、あれだね、人間ホントに追いつめられると思考は妙な所にトんでいくものなのかもね。


 とりあえず、こうして俺のデ○ゲームが始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 シンは笑顔のままBB弾を乱射し続ける。いや、乱射、というのはこの場合間違いだろう。彼の持つ『最善』の異能を用いて、俊也の生命、運動能力に異常をきたさないポイントを正確に狙い続けているのだから。もちろんその内何発かは俊也が下手に避けようとしたせいで出血や筋を痛めるのに繋がっているのだが。


 (ふむ…。柊さん、榎田君に比べても遜色無い成長速度ですね……。)


 内心で舌を巻く。実は彼の射撃は、最初の一発を除いて本気のものではない。最初の一発で「当たれば死ぬ」という意識を刷り込んだだけで、後は彼がギリギリで回避できる速度で撃っているのだ。

 のだが。


 (既に拳銃くらいの速度は出てるんですがね…。)


 ここまで掛かった時間は、およそ一時間。ペースだけなら柊、榎田を上回る。だけなら、とつくのは、回避の姿勢が二人に比べてあまりに悲惨で、余裕が全く以て無い為である。それでも避け続ける分には避け続けているのだから、凄いと言えば凄いかもしれない。


 「ひいぃっ!死ぬっ!あぶっ!」

 「んーもうちょっと余裕が欲しいですねえ。」

 「うおっ!ってぎゃふ!」


 なんとか回避した弾丸でバランスを崩し、避けられなくなった一撃が額に直撃する。一応弾速はやや抑えてあったが、頭が仰け反る程度の威力はあったようだ、俊也が額を抑えて蹲る。


 「一応一時間ほどやってますしね。少し休憩しましょう。」

 「目が、目があああ」

 「目には当ててませんよ。ちょっと使いどころが違う気がしますね。」


 そう言い残して訓練室を後にするシン。逆にそのままばったりと後ろに倒れこむ。俊也。ほんの一五分ほどの休憩に過ぎなかったが、相当に疲れていたのだろう、そのまま眠りに落ちてしまった。


 額へのBB弾の一撃で起こされ、直後右耳と左耳にそれぞれあと一センチずれたらピアス穴が空く弾丸が放たれたのは、多分彼のせいではないだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「十分、避けられましたね…。」

 「もう駄目…死ぬ…無理…。」

 「普通はもう少し効率的な避け方を身につけていくものなんですが…。いいんでしょうかねえ…。」

 「いや、もう許して…。」

 「…。ま、いいでしょう。次に行きましょう。二分で終わります。」

 「はいぃ?」


 俺、とりあえず立ち上がる。まあ、二分で終わるっつってんだから逆らう理由は無い。この時、俺は気付くべきだった。イケメンメガネが、なんか不自然な態勢をしていた事に。具体的に言えば、ちょうど懐に右手を入れるような感じ。


 ちょうど懐に右手入れるような感じ。


 うん、この段階で気付くべきだったね。


 ああ、もう、ね。この状況でこいつだったら当然だよね。うん、出てきたのは、やっぱり銃だった。てかおい、でけーよ、ごついよ。なんか護身用って言えないレベルじゃね?


 「コート社製の45口径の最新型、の改造型です。まあこういうときにしか使いませんしね。火薬の分量を調整してあり、通常350m/sの弾速が800m/s出ます。まあ、ホントはライフル弾の1500m/sが理想なのですが、あれはかさばるんですよね。」

 「あ、あの…それってやっぱ……」

 「はい、撃ちます、勿論。」

 「えっと…」

 「君に向けてですよ?」

 「……。」


 殺人予告ここに極まり。もうちょっとなんか言い方無いのかよ、とか言ってる場合じゃねえ!マジで死ぬ、さっきまではBB弾だったよ!?何いきなり超レベルアップしてるんだよ!俺逃げて!超逃げて!


 「さて、これを、君に向けて撃ちます。君はそれを避けてください。」

 「いや無理ですよ。」

 「出来ます。覚悟を決めてください。」

 「いやいやいやいや。」

 「では、いきます。」

 「話聞けよてめえ!」


 タンッ。


 軽やかな音。固まる俺。揺るがない笑顔のメガネ。


 撃ったよ。床にだけど。こいつ…本気だよ。


 「信じてください、って言ったら信じますかね?」


 固まったまま動けない俺。てかもうあきらめた方がいいかも。ああ、儚い人生だったな…。


 「君は、避けられます。君は、こんなところで死ぬような人ではありませんから。」


 そういったメガネがゆっくりと手を挙げ。

 半泣きで動けない俺に銃口を向けて。

 ゆっくりと引き金を。


 引いた。


 タンッ。


 ―――。


 それは、俺の頭蓋を砕いた音、ではなく、後ろの壁に弾丸がめり込んだ音だった。


 不思議な、感覚だった。弾丸が、見えた。というか、遅かった。なんか、さっきまでのBB弾の方が早かったような…。なんか、キャッチボールの球を避けたみたいな感じだった。


 「さっきので、800m/sです。まあ空気抵抗とかでもうちょっと速度は落ちるでしょうが、概ね銃弾はこの半分くらいの速度ですね。マシンガンと同程度でしょう。」

 「あ…あの……。」

 「ちなみにさっきまでのBB弾は1000m/sででたかもしれませんね。」

 「……。」


 俺はぺたりと尻もちをついた。やばいちょっともれそうだった。危ない危ない。せふせふ。ホントに腰が抜けた。腰が抜けた事は人生で数え切れないほどあるが (ホントに数え切れないな。ハハハ。)、これは抜け具合的にトップスリーだよ。


 そのままばったりと後ろに倒れこむ。休憩の前後の一時間は動きっぱなし、最後はホントに命かかってたし。疲れてもおかしくないだろJK (常識的に考えて)。


 「ま、これでちょっと拳銃向けられても頑張れば死なないですから。頑張ってくださいね。しばらく休憩したら、帰っていいですよ。パルカちゃんに飲み物を持ってきてもらいましょう。」

 「……どうも。」

 「では、明日は、朝十時くらいですかね、事務所に来てください。まあ、突入は夜になるとは思いますが。では、さようなら。」

 「……。」

 「君は、強く「は」なりましたよ。あとは、覚悟をするだけです。」


 なんか最後に厭味ったらしい台詞といつものニヤけ笑顔を見せて去って行った。そのまま天井を眺めながら、ゆっくりと目を閉じる。あ、なんか一時間前におんなじことした気がする。デジャヴ?


 あーピアス穴が開くー…


 ピト。


 「ひゃあうん!」

 「ひゃあ!?」


 前者、俺。かわいくもなんともない。後者、美幼女パルカ。超可愛い。お持ち帰りしたいくらい。やったらイケメンメガネに生まれてきた事を後悔させられそうだからしないけど。


 「あ、あの…」

 「あ、飲み物持ってきてくれたの?ありがと。」

 「はい。」


 手渡されるコップをそのまま口につけ、一気に飲み干す。うん。おいしい。なんか久しぶりに水を口にしたような感じ。でもね、そんな事よりも大事なことが一つ。


 「なんか俺に言いたい事あるの?」

 「え…うん……。」


 そのままもじもじし出す美幼女。とりあえず飲み物飲みながら待つ俺。待つ、っつーか息が結構まだ乱れてるからあんまり急いで喋りたくないんだよね。もじもじする美幼女の横に座り込んで乱れた息をしている俺…ちょっと、いやすごく絵的にやばいが、腰が抜けて立てないのでそのことは考えないようにする。


 「あの…ね。」

 「うん。」

 「きのう…どうだった…?」

 「昨日?ああ、アレ。落ち込んだ。」

 「…。」

 「え、それじゃなくて?」

 「たすけるの、いやじゃなかった?」

 「んー、折角生きてるんだし、生きてた方がいいんじゃね?」


 とりあえず脊椎反射で答える。


 「たとえ、しにたくても?」

 「まあ生きてりゃいい事あるんじゃね?」

 「……いいこと、なくても?」

 「きっとあるだろ、いつか。」


 これも脊椎反射。まあ、これはおれの人生のモットーだし。大体こんな人生、何時かいいことあると思ってないとやってられっかっての。


 「しにたい、とおもったこと、ある?」

 「…あるよーな、ないよーなだな。ま、誰でも一回は思った事あるんじゃね?」

 「めいわくかけるとしても?」

 「さあ?生きてりゃどっかに迷惑掛けるだろ。気にしてもしゃーない。」

 「それが、どんなにおおきくても?」

 「?ま、それでも生きてくんだろーな。生きてなきゃ謝れねーし。妹に申し訳ねーし。」

 「………。」


 まあ、普段からそこまで深く考えてるわけじゃねーけど。


 「いいんじゃね?生きてたかったら生きていて。それは誰も文句言えないだろ。」

 「そう?そう、かな。そう、なんだ。」

 「そんなもんだろ。深く考えてもしょうがねえよ。」


 そんなもんだと、俺は思ってるし。よっ、と気合を入れて立ち上がる。うん、なんか銃弾避けるとかとうとう人間やめちゃった感があるね。こういうのも、深く考えない様にしてる。考えない。考えてはいけない。


 「んじゃ、とりあえず、今日はもう帰るわ。お疲れ。」

 「うん。ありがとう。」

 「なんかした覚えは無いが。こちらこそ飲み物ありがと。」

 「うん。また、いろいろはなそうね。」

 「おう。んじゃ、乙。」


 そんなどうでもいい会話をした後、訓練室 (と呼んでいるらしい)から出て、そのまま家路につく。いや、長袖に隠れて見えないけど、結構腫れてるところとかあるんだが、「帰って妹にでもしてもらえや」的な目でメガネに見られたしね。



 ―――この時、俺はまだ覚悟なんて出来ちゃいなかった。

 まあ、していたら何か変わったか、と言われると変わらないのだが。


 これが、平穏の終わりだとは、全く思っていなかった。


初作品です。

稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。


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