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四日目(木) ~救助~

 「今日もやるぜハナ○チ!」

 「おうリョー○君!」


 がっちりと肩を組む俺とチビガキ――榎田。うーん分かる人万歳!


 「……貴様らは何をしているんだ。仲良くなったのはいいが…若干気色悪いぞ。」

 「あ、スキンシップの一種だから気にしねーでよ、レン。」

 「そしてあわよくば引かないでください。」


 だがまあ、分からない人から見ればちょっとそうなるよな。怪力女――柊さんはこういうの興味なさそうだしね。いたしかたない。うん、オタクには行きづらい世の中だしね。こういうの分かってくれる女の子って貴重だよね。いないかな、げんし○んの大野さんみたいな人。


 「はあ、どあほうが二人に……は、置いておきまして。早く来てくださって助かります、木林君。ではパルカちゃんのところに行って、今日の仕事を軽く説明を受けてください。」


 俺とチビガキが超反応する台詞を吐いたのは、イケメンメガネ、楸シン。こいつ、漫画の知識もあんのかよ。でも、GJ!!!


 「というこった、若大将。どうせいつもの休憩室だ。ちょっと行ってこいや。俺は多分、もう別の仕事に行ってるからよ。」

 「私の方はもう聞いている。待っているから早くいって来い、ヘタレ。」


 二人からの励まし (ポジティブに生きるって大事だよ!)を受けて、休憩室に向かう。口ぶりからやっぱり今日は怪力女と一緒の仕事らしい。まあいいけど。


 「…こんにちはー…。」

 「こんにちは。」


 恐る恐る (ヘタレの性だ)ドアを開けると、休憩室でお茶を飲んでいた、人形風の外見の美幼女――楸パルカが、ぺこりとお辞儀をする。うん、本当にぺこりって感じ。動作がいちいち人形っぽいよ。


 「で、今日の仕事の事を…」

 「ひいらぎさんといっしょ。ばしょは、ひいらぎさんにきいて。」


 なんか、うん、なんでここに来たんだろうね。怪力女に全部聞けば解決だったんじゃね?俺。


 「ないようは、いう。えっと、とおりまがでて、ひとをおそう。そこで、ふたりのひとがあぶない。」

 「…それはまた物騒な。」

 「ひとりは、ねらわれてる。もうひとりはとおりがかり。でも、このひとは。」

 「ん?この人は?」

 「……ううん。いい。どちらかひとりがじゅうしょうのうんめい。だから、たすけて。」

 「…どっちを?」

 「それは木林君が決めていいですよ。今のところの運命の道はどちらか、あるいはどちらも重傷、の三パターンが大筋です。気に食わなければ君の『異能』を発揮してください。」


 いきなり話に割り込んできたのは、イケメンメガネ。だからその『異能』ってのが使えりゃは苦労しねえっての。なんか美幼女の話になんか引っかかりを覚えなくはないが、とりあえずはまあ大丈夫だろ。


 …ん?


 ちっと待てよ。ちょっとキーワード抜き出してみましょうか。とおりま→通り魔。ひとをおそう→人を襲う。あぶない→危ない。じゅうしょう→重傷。


 …。

 ……。

 ………結論。

 全然安全じゃねえじゃねえか!?おいおいおい。なんか全部ひらがなだったからあんまり危機感感じてなかったけどこうして漢字に変換してみるとヤバイだろオイ!


 「ちょ、まてy」

 「お前は安全だ。私が守るからな。」

 「…なんというアヤナミ。」

 「……お前のような輩がいるから『読心』が辛いんだ。」


 怪力女の分かってるのか分かってないのか良く分からんフォロー。まあ、良く考えれば、実際に戦うのは怪力女の方だし、俺はとりあえずその場にいればいいんじゃね?的な感じで。


 「ならば仕方ない。」

 「うむ、では、行くぞ。」

 「ちょ、行く、行くから引っ張んなあああ!」


 話すや否や俺の手首をひっつかんで走り出す怪力女。なんだお前はいつもいつも俺を引き摺って。好きなのか俺の事?


 「そんな訳があるか。」

 「ですよねー。」


 あっさりと心を読まれ、引き摺られたまま玄関口まで連れて行かれる。靴を履く間くらいは勘弁してくれるらしい、と思ってたら履き終えた瞬間また引き摺られる。


 「師父、行ってくる。」


 なんか遠くで、「いってらっしゃーい。」と「がんばれよー」が聞こえた。既に遠くだったのが若干怖いのだが。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「なあダンナ。」

 「なんです、榎田君。」


 俊也と柊が台風のように去って行った後、二人はぼんやりとそれを見送る。


 「レンの奴、若大将と一緒に行くときはやたらと手をつなぐよな。あれなんでだ?」

 「おやあ、榎田君?もしかして嫉妬ですかあ?」

 「か、勘違いしないでよねっ!そんなんじゃないんだからっ!」

 「そうですねえ……多分、近く感じたいんでしょう。」


 微妙な小ネタ (実はなかなかの洗練具合である)を完全に無視して、シンが答える。榎田はそんな事を考えるタイプではない、と彼は思っていたし、榎田自身も、柊は気の合う仕事仲間、といった感じだったから、小ネタに使うくらいは何ともない。スルーされた事は些かショックだったようだが。


 「近く?」

 「彼女の『読心』は、対象を近くに感じれば感じるほど深く心を読むことができます。恐らく彼女は彼女なりに、『運命を捻じ曲げる』能力を解明しようとしているのでしょう。行動パターン、反射的思考、感覚の具合、記憶さえも読むことで、なにか、ほんの僅かでも手掛かりを探そうとしているのでしょうねえ。頑張っていますよ。」

 「若大将のプライバシーガン無視だな。」

 「まあ、彼女がそれだけ必死だという事ですよ。そのくらいは、多目に見てあげてください。」

 「で、そっからなんか手掛かりが見つかる事はあり得るのか?」

 「んー、結論から言えば、限りなくゼロに近いです。が…」

 「ゼロでは無い、ってか。ははっ。」


 榎田は苦笑を洩らす。恐らく楸は見つからないと思っている。でも、完全な無意味でない限り、いやもし完全に無意味なものであったとしても、柊に出来る限りの事は、好きにさせてやろうと考えているというわけだ。


 「完全に保護者だな。」

 「まあ、第二の保護者的なポジションになってしまいましたからねえ。そんな年でも無いんですが。」

 「レンは、子供扱いされたくないと思うぜ。」

 「そうですね。そろそろ巣立って貰わないと。」

 「そうじゃな…いや、いや、まあいいや。ダンナなら言わなくても分かってるだろうし。」


 柊はシンのことが好きだ、と言いかけたのを、かろうじて榎田は飲み込む。これはシンだって薄々 (もしかしたらハッキリと、かもしれない)気付いているだろうし、そうでなくても自分から伝えるべきことではないだろう。


 「榎田君。今日の任務は…」

 「んー。一応帽子かぶってくからそんなに目立たないとは思う。つーかこっちレンの方が良かったんじゃね?俺偵察なんて柄じゃねえよ。」

 「ま、今日まで頑張れば明日は榎田君と柊さんは休養日です。決戦に備えて。」

 「…んじゃ、気合入れて行きますか。なーに、工場見学に紛れ込むガキになりすましゃいいだけだろ?任せとけって!」


 なかなかに頼りがいのある笑顔を見せる榎田に、ふっとシンは微笑む。榎田はもう自分のするべき事が分かっている。柊も、自分の出来る限りをしようと頑張っている。上手くいけば、今日の柊と俊也の仕事が上手くいけば、パルカも少し前進する。


 ―――あとは、勝つだけですね。


 心の中で、シンはつぶやく。


 ―――運命という、強大な敵を相手に。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「という段取りだ、分かったな。」

 「わお、すげえ省略。作者楽しすぎだrっイタイイタイ痛いって!」

 「訳の分からん事を言うからだ。」


 ものすごい力でほっぺた抓り上げられた。超痛いかった。


 「分かったか?」

 「分かりました。とりあえず俺は、襲われてない方を助け起こして、落ち着かせます。慌てて逃げ出さないように見張っておきます。」

 「そうだ。貴重な情報源だからな。そして…」

 「十五分たって柊さんが帰ってこなかったら、そのまま事務所に連絡。助けを待ちます。」

 「よろしい。」


 どうやらご満足の様子。鋭い目つきと動かない表情からは、怒ってるのかどうか分からないからヘタレとしては危機察知が出来ずにちょっと困るんだが。というか、外見から得られる情報が少ないよな。美人ってことは分かるが。


 「怒ってはいない。心の中でまでお世辞はいらない。情報とはなんだ?年齢か?それなら17だな。」

 「え、えええ!!!同い年!?うsヘブアァッ!!!」

 「…ヘタレ、貴様はその発言が非常に失礼だと自覚しておけ。…全く、敬語だからそう勘違いしているのではないかと思ってはいたが…。」

 「…すいません。ボディーは後に響くんで勘弁してください。ってか、学校は?」

 「通信制だ。この『異能』では何十人もいる教室には入れん。」

 「大変なんですね…。」

 「敬語でなくてもいいぞ。」

 「…どうも。これは体に染みついたヘタレの習性なんで。」

 「私は自虐癖のある奴は嫌いだ。めんどくさい。」

 「……どうも。」


 とりあえず雑談しながら歩く。そのうち何回かツッコミが入る。最初のうちは強すぎて結構なダメージだったが、それを察してくれたらしく、途中からちょうどいい痛さ加減になった。あ、俺はそういう性癖は持ってないよ?念のため言っとくけど。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「おおおっ!!!」


 現場に着いた瞬間、柊 (怪力女、は頭の中でもNGにされた)がいきなり走り出す…てかおい、すげーよ、カタパルトでもついてんのかあんた。

 まるで弾丸打ち出したように突進する柊にビビったのか襲っていた男がはじかれたように逃げ出す。襲われていたのは、30代くらいの男。スーツ姿からして、会社員だろうか、そいつも転がるように起き上がって逃げ出す。


 「大丈夫ですかっ!!!」


 俺は予定通り、残った一人、襲われてない方の一人…というか、倒れている人に駆け寄る。全く動かないから意識はないんだろう。とりあえず駆け寄って脈を…


 「とおお~。」


 取ろうとして、ちょっと出血が多かったのにビビった。

 ちなみに、これはビビった、で済むレベル。普通の人が見たらくらっとくるかもだが、俺はあいにくふつーの人間じゃなーい。このくらいの出血は良くあることだぜベイベー。天下のヘタレを舐めて貰っちゃ困るぜ。あれ、なんか目の前が滲んできたんだが…とか言ってる場合とちゃうな、手当て手当て。

 手足と、頬に切り傷。でもまあ、これは浅いっぽい。頬が一番出血してるからハンカチ (柊持参、柄無)で抑えて、捻挫してるっぽい足をタオルで簡単に固定する (俺持参、枕用)。


 で、ここまでして一段落。うん、日頃からこういうのを見慣れてるといざ自分がするとなっても割とスムーズにいくもんだね。ちなみに見学するのは妹の手際。つまり、されてんのは自分。あれ、また目の前が…。


 そんな事を考えながらちらっと倒れてる人の様子を見る。

 中学生くらいの女の子だろうか。どこにでもいそうな感じ。しいてキャラ付けするなら図書委員っぽいオーラな感じ。


 「ん、んん……。」

 「お、起きた。」

 「私、なんで生きて…。」

 「ああ、俺が助けた。っていうかまあ、ちょっと成り行きで…というかその…。」

 「ッ!…何でそんなことしたのっ!?」


 はい?あれ、なんだこの雰囲気。何で俺助けたのになんか悪者な感じ?一応ヒーローじゃね?実際大したことなんもしてないけど。多分ほっといても死ななかったろうし。


 「いや、その…」

 「死なせてよッ!!!私なんかッ!生きてても虐められるだけでッ!!!」

 「は、はあ…」

 「靴は三日に一回はドロドロでッ!机はズタズタでッッ!!」

 「ほ、ほお…」


 俺、一時期毎日。机、ちっさく「ヘタレ」で大きなヘタレを描いてあった。


 「私だけプリント回ってこないし!!!そんな私なんて、死ねばいいんだああァァ!!!!生きててもいいことなんか無いいいいぃぃ!!!!!」


 なんか超ヒステリック。すごい、涙と鼻水一緒に流す女の人初めて見た。ヤバイこの人自殺志願者だったのか。あー美幼女言い淀んだのこの事かな。とか思ってたらなんかどんどんもっと叫んでる。やばいかな?


 「だから、だからあ!!!」


 あ、すごいこの人カッターナイフ出した。やばい、とは思っていた。多分俺顔真っ青じゃね?とか思ってたし、刃物こええ! (慣れてても怖いものは怖いのだ)とかも思ってたが、口を突いて出たのは別の言葉だった。


 「え、え、ぇえと、別に普通じゃ…?」

 「何ですってぇ!!!あんたに、あんたなんかになにが分かr」

 「だって、俺、プリントって先生にもらいに行くもんだし、靴がボロボロなんて毎日だったからもう靴箱自体をドロドロにしていじめっ子が開けるのを躊躇うようにしてるし。」

 「……。」

 「机は、もう彫るとこないし、最近は新しいのが隙間見つけて彫ってあると「おお、まだ彫るスペースあったのか!」って感じだし。」

 「………。」

 「二日に一回不良に呼び出されるし。このくらいの傷つくし。」

 「…………。」


 あ、あれ?なんか俺おかしなこと言った?ああ、一般人から見れば普通じゃない事なのかこれって?というか、なんかさっきまでヒステリッてたのがなんか嘘みたいな落ち着き方なんですが。カッター持ったまま固まってるんですが。というか、なんかどことなく憐れむような目になってませんか?


 「え、えっと…。」

 「……。」

 「あの…。」

 「…生きてて、楽しいですか。」

 「…まあ、それなりには。」

 「…辛くないですか。」

 「いや、けっこう。」

 「……。」


 なんだこれ。なんで俺自殺志願者から憐れまれてるんだ?え、俺の人生って自殺志願者が不憫に思うほどひどかったのか?確かに普通じゃないとは思うが!


 「ヘタレ。終わったぞ、そっちはどうだ。」

 「あ、ああ…大丈夫っぽい…。」

 「…普段からヘタレって呼ばれてるんですか?」

 「…そうですが何か?」

 「…いえ、別に。」


 いつの間にか現れた柊は、別にどこも怪我している様子はない。というか、汗一つかいていない。ホントに人間かコイツ。

 とか思っている間に、女子中学生の目が、なんか、ますます目つきがかわいそうな人を見るものになっていく。中学生相手にこれ、どうよ。ちょっと拷問臭くね?


 「ああ、捻挫しているようだな。私が送っていく。ヘタレ、三分で戻る。」

 「…へ、あの、キャッ!」


 軽々と人一人抱え上げて走り出す。というか、こういうのって普通肩を貸すとか、おんぶするとかじゃね?米俵でも持つみたいに肩に抱え上げるってどうよ。


 …。


 ホントに三分で帰ってきた。何なんだ全く。


 「帰りながら、今日の仕事の情報交換をしておこう。とその前に。」

 「なんでしょう。」

 「あの女の子から伝言だ。「手当、ありがとうございました。強く生きてください」だそうだ。」

 「……。」

 「歩きながら、と言ったろう。足を止めるな。」


 なんか、さあ、俺。頑張ったよね?俺、悪いことしてないし、最善尽くしたよね。その上で聞いてくれよオイ。


 なんで俺が一番かわいそうな感じになってるんだよ!!!

初作品です。

稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。

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