表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/26

四日目(木) ~異能~

 「…!!!」

 「ん、おお、おはよ、森音。どした?すんげえ顔してっぞ?」

 「や、やっぱりおかしいです!にーさんが私が起こす前に起きてるって!」

 「え、えぇー…。」


 そんなことでそんな驚くなよマイシスター。すげえよ、素で「な、なんだってー!」な顔してたぞオイ。というか、いくら駄目兄貴でもたまには早起き (と言うほど早起きでは無い。今だってベットで上半身起こしてるだけだし。)くらいするよ。


 「三十八日ぶりです。」

 「……。」

 「三十八日ぶりです。」

 「…いつもご迷惑をおかけしております…。」


 いや、何その意味の無いカウント。やめてよなんか責められてるみたいな感じになってんじゃん。いや、リアルに責められてるのか。そうか。今度から頑張るよ。明日から本気出す。


 「まあ、いいです。とりあえず朝食は出来てますから、さっさと食べちゃってください。」

 「んおー、サンキュ。」

 「いつも通りの時間ですから急いでください。」

 「ん?いつも通りなr」

 「その「いつも」が遅刻ギリギリだからです。」

 「モウシワケゴザイマセン…。」


 ささやかな抵抗も空しくさっさとベットから引きずり出される。着替えを投げつけて出て行く妹。うーん、なんかいつもよりもバタバタしてんなあ。なんか今日あんのか?そういえば「やっぱりおかしい」とか言ってたし。なんか俺おかしいか?そこ、頭とか顔とかいわない。


 「ま、気にしてもしょうがないか。」


 とりあえずごそごそと着替える。うん、今日もそこそこのラップタイム。俺のこのスピードはヘタレ人生で養われた (体育の後の購買とかね!)もんだけど、そういえば妹も結構早い。…遺伝?


 とりあえずいつも通りの朝食を頂く。ちなみに我が家は朝はパン派だ。豪華な時はサラダに目玉焼きがついたりもするが、パンにバターだけでもなかなかに美味く感じる。うん、便利な舌だ、と自分でも思うよ。


 「…連続殺人……犯人は未だ……複数犯…被害者は……フリーター…工場で働いていた帰りに……」


 「遅くなるのは昨日聞きましたが、気をつけてくださいね。」

 「ああ、まだ物騒みたいだしな。」

 「分かってるならいいです。」


 テレビの中で、アナウンサーが無表情に口を動かしているのを見る。続いて、何処かで見たことのある道にブルーシートと黄色いテープがかけられているのが映る。


 「…町では……夜中の外出を控えるよう……警官の巡回…増員し…」


 「まあ、心配すんなって。」

 「……。」

 「え、いや、そこは「心配などしてません。」じゃね?」

 「…はあ。まじめに考えるのが馬鹿らしいですね。まあいいです。とにかく気をつけてください。もう私は学校に行きますから、食器は水張って流しに置いといてください。失礼します。戸締り気をつけてください。」

 「あ、おう、いってらっしゃーい…。」


 なんかあっという間に会話を切り上げて、さっさと行ってしまう我が妹。なんか俺、避けられてる?貶されたり殴られたり怒鳴られたりはあるけど、避けられた事はなかったような…。反抗期?いや違うか?なんていうんだこういうの。


 「なんという疎外感。」


 とりあえず飯食っといた。さっきまで美味く感じてたのがなんかウソみたいに味気なかった。さみしくなんか、ないもんっ!自分で考えてキモってなった。


 「……なんか釈然としねえ…。」


 愚痴っても仕方ないので、さっさと支度して登校。ちなみにここで「さっさと」していなかったら遅刻していただろうことを補足しておく。けっこう危なかったぜ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 兄の様子がおかしい、と昨日から数えて何度めだろう、森音は思う。なにか、隠されている事は分かっている。何か危ない事をしているのも分かっている。以前に万引きの手伝いさせられそうになった時がそんな雰囲気だった様に記憶している。


 ―――でも、今回は、それよりももっと…。


 何か、今回は、拙い。具体的には分からないからこそ、漠然とした不安は際限なく大きくなり、森音を押し潰そうとする。慌てて駆け出してきてからずっと続いていた、無意識の早足が、徐々に重くなる。


 ―――私が、ちゃん見てなくちゃ…。


 今まででもかなり過保護と言っていいレベルの世話を焼いてきたにも拘らず、そんな事を思う。


 ―――にーさんは、私が守るんだから!


 自分の中で、無理矢理に結論付けて、重くなっていた足取りを意識的に力強くする。


 彼女は知らない。自分の事が、言ってしまえば人質的な位置にある事を。そして彼が関わっている危険が、自分の考えているものとは桁違いに大きいもの、ともすれば町一つ、最悪国を壊しかねないような事件である事。

 精々「遅くまで不良の勢力争いにでも駆り出されて、その結果町の事件に巻き込まれるんじゃないか」程度が、彼女の考える「最悪」である。


 ―――今度は、定時連絡でもお願いしようかしら…。包帯の買い置きは…。


 自分は、兄がどんな状態でもきっちりと助けられるように準備している、というのが、森音のひそかな自慢である。今回の不安も、得体の知れなさはあるものの、その自信を頼りにすれば、すぐに元の生活に戻れる、と考えていた。

 森音は、本気でそう考えていた。

 いや、正確には、漠然とだが上手くいかない、それこそ命や将来に関わりはしないと楽観していた。


 だが、その見通しは甘かったと言わざるを得ない。

 最も、彼女がそれを知るのは、もう少し先の事だが。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 brrr… brrr…


 授業中のメールのバイブレーションで、俺の安眠はあっさりと妨害される。朝こそ弱いが、基本的に他の時間は睡眠は浅い方だ。まあ何時殴られるかも分からないような生活を送っているせいで、安心して眠れるのが家だけ、というのが現状だ。なんか眠る時も常に刀を手放さない某幕末の頃の維新志士みたいだ、っていうとかっこいい、かもしれない。


 まあ、そんなネガティブな妄想は置いておいて、メールを開く。


 件名:本日のバイト

 本文:今日は柊さんと一緒にバイトに行ってもらう予定です。確か木曜日、君はすべての科目を置き勉して帰る曜日ですからそのまま直接バイト先に向かって貰っても構いません。あまり時間があるわけではないのでそれもいいかな、と思っています。その場合はまた校門のところに柊さんを待たせておきますが、どうします?


 ……分かって言ってるよなこの人。中身と身体能力はどうあれ、怪力女はとりあえず美人だ。俺内順位でも結構上、というかルリ女史と共に一位を争う位置だろうな。怪力女は凛々しい系、ルリ女史は癒し系でそこも双壁って感じ。え?森音?いや妹だし。まあ顔だけならそこそこ、トップ五くらいなら入るかなレベル。何分性格が、ねえ?ん?パルカ?あの美幼女?いや、俺ロリコンじゃないし。


 …話が脱線したね。とりあえず見かけはSランクおねえさんが校門で俺を待ってる、ちなみに二回目とかはヤバイわけよ。何がヤバイかは察してくれ。


 となると、俺の選択肢は一つ。


 件名:Re:本日のバイト

 本文:まず店に向かいます。急いでいくので迎えはいりません。


 送信。いや、普通に早く来いっていえばいいじゃん、って思うけどね。


 brrr… brrr…


 返信からおよそ三秒。オイオイオイ。


 件名:了解です

 本文:助かります。あまり遅い今日でしたら柊さんを迎えにやりますね。すれ違ったら大変でしょうから、早めにお願いしますね


 で、最後に楽しげな顔文字。すんげえケータイへし折ってやりてえ気分になったが、そんなことしても何も解決しないし、数秒後に自分が後悔するだけだろう。そのくらいは分かってるし、実際そんな事が出来ないヘタレだって自覚もある。いや、ケータイへし折れたらヘタレじゃない、ってわけじゃないが。


 (ぜってぇこのメール元から作ってただろ…ったく。)


 まああのニヤけメガネならそのくらいしそうだよなあ…。


 brrr… brrr… 


 (んん?)


 さっきのでもう終わったと思ったら、もう一通きやがった。やっぱりニヤけメガネだ。


 (えーっと…!?)


 件名:追伸

 本文:今日は君の『異能』が必要になります。よろしくお願いします。


 (『異能』って言われても…)


 俺自身どうすればいいか全く分かっていないのだが、どうしろというのだろう?そもそもそんな御大層な力が自由に使えりゃもうチョイましな人生送ってるんじゃね?


 (ま、とりあえず行ってから考えっか…。)


 ただまあ、割とあきらめはいい方だ。いいか悪いかは別にして。

初作品です。

稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ