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三日目(水) ~違和~

 「ただいまっ!紙とペン!!!」

 「いきなりなんですかにーさん。こんな時間に。」

 「いいから紙とペン!」


 なんかぶつぶつ言ってたっぽいが、その中になんか放送禁止ワード混ざってた気もするが、とりあえずきちんと持って来てくれたっぽい。おお、四色ペンとは気がきくな、さすがは我が妹。まあ別にいらないんだがな。その気持ちはありがたく頂いとくよ。


 「えっと、ここにコンベアーがこう走ってて、機械の配置はこう、ドアはこことここと…」

 「デェトはどうだったんですか?上手くいったんですか?」

 「ちょっとまって今話しかけないでマジで死ぬから」

 「……頭大丈夫…じゃないのはいつもの事ですね。終わったら呼んでください。」


 またなんか言ってた気がするが、気にしない。そんなものに気を取られたら最後、今の頭に無理矢理詰め込んで表面張力ばりのギリギリ感にあふれてる記憶の映像があっという間にこぼれてしまう。命かかってるんだから勘弁してくれ。


 「そんで話した内容は……」


 おお、意外と出てくる!人間命かかってると出来るもんだね、と再認識。え、なんで再認識かって?そんなの決まってるじゃないか、俺を誰だと思ってるんだい?命の危険感じたことなんか一度や二度じゃないよ、俺くらいのヘタレになるとね。まあ今回はちょっと危機レベル違うけどね。


 「おしっ!完璧!やべえ俺ブック○ンの後継なれるんじゃね!?」

 「終わりましたか?その様子でしたら晩御飯は食べていませんね。」

 「おお、ああ、まあ。」

 「レンジで温めてます。さっさと食べてください。片付けるの私なんですから。」


 ああ、作っててくれたのか。気がきくな、さすが我が妹…というか、おい、何で俺が晩飯食って来ないって予想してるんだ?デート (異論は認めない)だったんだぞ、普通相手と一緒にディナー (ちょっと気取ってみた)じゃね?


 「にーさんに女性をエスコート出来るとは思えませんから。」

 「うおビビった!!!」

 「温まりました。さっさとテーブル付いて食べてください。」


 なんか心まで読まれてるんだが。俺そんなに顔に出てたかな?まあいいや。ちなみにテーブルの横に救急箱が用意されていた。俺どんな状態で帰ってくるって思われてたんだオイ。


 「で、外傷は見当たらないようですが。デェトの方はどうだったんですか?」

 「いやいや外傷ってコラ。ふつーだよ。ちょっとお茶したくらいだ。」

 「にーさんが女性に好かれそうな喫茶店とか知っているとは思えませんがね。」

 「いやそれは相手の家で…ってオイ、なんだその目は。とうとう気が狂ったかコイツみたいな目で見んじゃねーよ。こっちみんな。」

 「見ていませんが。まあそう仰るならいいです。」


 相変わらずにべもないな我が妹よ。もう少し愛想とか身につけていかないとこの先人生大変なんじゃないかなー、とか考えてる俺って兄っぽくね?


 「おまえさあ、もうちょっと愛想とか愛嬌とか身につけてみたら?俺の妹だけあって顔はいいんだし、髪のふわふわもいい感じじゃん。それだけで絶対モテるって。無愛想だと生きてくの大変だろー。」

 「にーさんは人の人生心配する前に自分の人生を心配してください。土下座外交でなくてもう少しプライドと節度ある人生になるように。それに恋愛関係に関しても、まずはにーさんのヘタレを直してもらうのが一番です。あの兄の妹、という評価が無くなるだけで周囲の認識がだいぶ変わるでしょうしね。」

 「……すみません。」

 「謝るなら普段から気をつけてください。」

 「はい。」


 すみません調子乗ってました、見取り図と会話完璧に書けたのでちょっと浮ついてました。でもさ、一応ちょっといいこと言ってるっぽいんだし、そこまでバッサリグッサリ滅多打ちしなくてもいいんじゃないかな?かな?


 「まあいいです。食べ終わったのなら片付けますよ。」

 「お、サンキュ。ごっそさん。うまかった。」

 「お粗末さまです。で、まだ起きてるんですか?それならお茶でもいれますが。」

 「お、頼む。」


 うーん、もうこのおかしな生活始まってはや三日目。これが意味するところは、俺の連続遅帰り三日目。今のところ記録タイ。記録樹立の時には不良の集団に負けず劣らずの殺気で睨みつけられ、フライパン攻撃の回数は二桁に達したんだったな…。


 「あのさー、森音ー。」

 「なんですかにーさん。」

 「明日も遅くなるって言ったら怒る?」


 返事は、ガチャンという嫌な音だった。まあ割れてはいないだろうけど、欠けたくらいはしたかもしれない。ごめんな、名もなき皿A。君の雄姿は忘れないよ。


 「何日目ですか?連続。」

 「四日目。」

 「記録更新、だな…。」

 「前回どうなったかは、覚えていますよね?」

 「…刻まれております。この体に。」


 質問の答えは?とかいうことは思わない。だって明らかに声が怒ってんだもん。怒り堪えてる感じの声だよどう聞いても。


 「理由は、教えてくれないんですか?」

 「駄目。……ごめん。」

 「不良、関係では、無いですよね?」

 「ああ。」


 不良関係ではない。嘘はついてない、はず。いやでもルリ女史絡んでるし、不良関係なのか?いやいやバイトの事は関係ないから違うだろ。多分。ま、いっか。もう言っちまったから訂正すんのはめんどくさいしな。


 「……私も人間ですので、我慢の限界がありますから、それをお忘れなく。許可します。」

 「…ありがたきしあわせー!」


 お?おおおおお!よっし、なんとか首の皮一枚つながった!思わず深々と頭を下げる俺。情けない兄、とか言わない。これでも強く生きてるんです。


 「危険な事は、しないでくださいね。」

 「ああ、分かってる。森音に迷惑はかけねーよ。お茶、ごっそさん!やっぱうちのお茶はいいなー。」


 そのまま駆けあがって自分の部屋に駆け込む。よしよし、脱出成功!これ以上長々といるとなんかボロ出しかねねえしな。そこ、逃亡とか言わない、転進と言いなさい。


 ま、森音に迷惑はかけねえよ。兄らしくない兄だけど、まあ妹の命かかっちゃってりゃ、流石に頑張るわ、とかまあ、柄にもなく考えて恥ずかしかった、ってのも無いわけじゃないが。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「おまえさあ、もうちょっと愛想とか愛嬌とか身につけてみたら?俺の妹だけあって顔はいいんだし、髪のふわふわもいい感じじゃん。それだけで絶対モテるって。無愛想だと生きてくの大変だろー。」


 何をアホなことを言っているのだ、と森音は思う。森音は自分の外見、内面について大部分において正しい認識をする事が出来る人間だ。だからそういった所謂「見栄え」や「外面」を気にしていないのは、男友達を作る必要性を感じていないからであるし、その余裕もない、と考えている。大部分において、とつくのは、兄が絡んだ時の事の所為であるのは言うまでも無い。


 「お、サンキュ。ごっそさん。うまかった。」


 兄は、ほとんどいつも合掌の後に自分の料理を褒めてくれる。それはおそらく無意識であって、お世辞とも呼べないようなものだと、頭では分かっている。が、それでも嬉しく感じてしまう。まあ嬉しいのならばいいか、と彼女は深く考えることなく納得している。

 時間が遅い事を除けば、久しぶりのいつも通りの会話。兄ぶろうとする俊也を、自分がバッサリ論破する。この時間が、森音は割と好きだった。


 ―――だが、その時間は、俊也の一言で崩される。


 「明日も遅くなるって言ったら怒る?」


 当然だ。さっきまで考えていたことを口に出しはしないが、声に怒りが籠っているのは相手も気付いているだろう。そこで委縮してしまう兄に、情けなさを感じない訳ではないが。


 「理由は、教えてくれないんですか?」

 「駄目。……ごめん。」


 珍しく即答の兄に、若干驚き、というか、違和感を覚える。そういえば、帰ってきたときの必死さも何かいつもと違ったように感じる。


 (なんていうか……いつもと違って…かっこよかった?真剣だった?)


 何とも言えない違和感に、森音はなにか胸のざらつきを覚える。兄は、頑丈だ。それこそ普通の人間なら病院直行のような事態で笑いながら帰ってきた事だってある。だが、今回のは…何か、一線を画しているように感じる。


 「…危険なコト、しないで、くださいね…。」

 「ああ、分かってる。森音に迷惑はかけねーよ。…。」


 震えを必死で抑えつけた、森音の声。俊也はそれには気付かなかった。そのまま自室にこもってしまう。


 ―――わかってない。ちっともわかってない。


 一人台所に残された森音は、きゅっと唇をかむ。


 ―――私は、にーさんのことを心配してるのに。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 少女は、夢を見ていた。『予感』の力は、夢の中で作動することが多い。


 ―――また、このゆめ……


 ウンザリするほど見続けた夢に、少女は嘆息する。引き摺るようにして連れて行かれる自分。周りに並ぶのは、武器、武器、武器。引き摺るリーダー格の男が手にしたボタンは、町を――いや、ダメージで言えば国そのものを滅ぼす最悪の兵器の発射装置。自分の見た未来を聞き、その通りの扉を開けて進む迷彩服とマスクの男達。


 「おい、次は……とっとと……オラァ!」


 頬に鈍い衝撃。現実ではないと分かっていても、決して慣れることのない痛み。そして自分の言うとおりに進む男達。両手を縛られて、自分で自分の命すらも断てず、為す総べなく引き摺られる自分。


 ―――ああ、もうみたくない…


 ガシャンっ! ―――ドアが蹴り開けられる音。

 「なんだぁ!?」

 マスクの男たちの、一瞬の油断。

 ドアの方に気を取られた男の手にある、ナイフ。

 男の手の高さ…引き摺られて前かがみになった自分の、ちょうど目の前にある、ナイフ。


 選択の瞬間。


 このナイフに、自分の首筋を押し当てるか、否か。


 ―――もう、さめてもいいのに……


 押し当てれば、ここで楽になり、男たちが油断した隙をついて、ドアの所の人がマスクの男達を全員を倒して、ボタンは押されずに済む。この町は、助かる。


 押し当てなければ、ボタンが押される。それは、もう止められない。町が、国が滅びる。


 ―――さめよう…


 少女は目を閉じ。首を押し出す。出来れば一生経験したくなかった感触と共に、一気に意識が遠の

く。


 ―――きっとめがさめたわたしは、ひどいかおをしてるね…


 冷めきった心でそんなことを考えながら少女の意識は遠のいていった。

初作品です。

稚拙なところも多いですが、ご意見やご感想をお待ちしています。

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