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明日(あす)への歌

掲載日:2026/03/10

   1 


 私はリーズン。ノスタルジア博士に造っていただいたロボットです。私の夢は歌手になることです。博士が私に与えてくださった、とても大切な夢なんです。   


   ♪♪♪


 ノスタルジア博士の家系は、代々科学研発所に勤めている人ばかり。エリートなんです。博士も勿論そうです。私は、微力ながら、博士のへ<娘>として、身の周りのお世話をさせていただいたり、お疲れになった博士の体や心を癒し、博士が快適な生活を送れるよう、サポートさせていただいています。 私の年齢設定は、十五歳。平均的な結婚年齢が上がっているといわれる現在、三十一歳の博士に、十五歳の娘というのは、普通なら、ほとんど考えられないことでしょうか。

 ……博士はいつもどこか寂しそうな顔をしておいでです。でも、私が歌うと、博士はとても嬉しそうにしてくださいます。博士の目はいつだって優しいんです。私は博士が大好きです。それに、博士は歌がとてもお上手なんです。えぇ。私など足元にも及ばないくらいに──。博士は私の目標です。いつか、私も、博士みたいに歌えるようになりたい……。 


 博士と一緒に海辺の街にやってきました。

 今日は、オーディションの日です。

「落ち着いて、リィ。いつもどおりに歌えば、きっと合格できるよ。君はとても歌が上手なんだ。自信を持って。きっと、歌手になれる」

 私は、ロボットのくせに、人前に出ると、なぜか──、歌えなくなるんです。

「はい、博士……」

 でも、私はやはり、たくさんの人を前にして、固まってしまいました。たくさんの人の目が怖い。懸命に歌う他の方々の姿が痛い。

 ──違う、チガウチガウ。これは違うの!なにかよくわからないけど違うんですっ!


「ごめんなさい、博士……」

 もう何度口にした言葉なのでしょうか。 眼鏡の奥の、青緑の瞳を細めて、博士は私の肩に、優しく、手を置いてくださいました。 博士の砂色の髪が、音を立てるようにして風に流れています。スーツにネクタイ。博士の服装にはいつも、乱れたところがありません。

「気にすることはないよ。また、がんばればいいんだ」

 博士はいつだってそういってくださいます……。

「そうだ、リィ。オーディション会場の売店でね、これを買ってみたんだ」

 博士はそういって、下げていらした鞄から、何かを取り出しました。小さな紙袋に入っていたそれは、白い貝殻のペンダントでした。

「君の、アクアマリン色の瞳とよく合うと思うんだ」

「博士。ありがとうございます」

 私はそれを首に下げてみました。博士が嬉しそうに微笑んでくださいます。

 

 私は海を見つめています。砂浜に膝を立てて、ロングスカートを抱えて座り込んで。せっかく街に来たので、博士はお友だちに会いに行かれました。私のことも誘ってくださいましたが、私はその誘いを断ってしまいました。博士はむやみなことでは怒りません。優しくこういってくださいました。

「また海かい? 君は本当に海が好きだね。でも、君のボディは水に弱いから、気をつけるんだよ」

 海は不思議です。すぐ近くにあるのに、決して私には触れることのできない世界━━。 魚たちは何を知っているのでしょう? かもめたちは、何を思い、舞うのでしょうか…….。 海は歌っています。繰り返し繰り返し。寄せては返す波の歌。何を、訴えているのでしょう━━。

 この海の向こう。そこには、大陸があるそうです。そこでは、たくさんの人々が、日々を生きているそうです。それは、一体、どんなところ━━?この小さな島国と、何が違うの? 空は? 海は? 風は? 星は? 鳥は? 動物は? 人は? 木々は? ━━そして、歌は? どう、違うのでしょうか……? 私は辺りを見回しました。どこまでも続く、透き通った海。砂浜は、陽光に弾けるようにきらめいています。潮風が、私の亜麻色の長い髪と踊っていました。

 よかった。誰もいないようです。私は大きく息を吸い込むようにして、歌い始めました。


   蹴飛ばしてしまった あの石は

   黄金だったのではないだろうか   

   こぼれていった あの砂は

   もう戻らないのだろうか  

  

  ━━だめです。うまく歌えません………! 私はどうしてこんなに歌がへたなんだろう。 どうしたら、いいんだろう……。 風と波が、慰めるようにメロディーを奏でています。鳴も励ますように鳴いています。 私はもう一度、歌い始めました。  

   輝いていた あの時は

   幻だったのではないか

   すべて 夢だったのではないか


 拍手が響きました。振り返ると、その人は、私の目の前で笑っていたのです。

「とてもすてきだったよ。君、歌手か何か?」

 その人は、細く背の高い体に、少年のような顔。一度目にしたら忘れられないような、輝く海色の瞳を持っていました。年の頃は、二十一、二歳といったところでしょうか。

 私は慌てました。博士以外の人に歌を聴かれることに、私は抵抗を感じるのです。 彼はそんな私に構わずに、私の横に腰を下ろしました。

「わ、私は、そんなんじゃ…...。私はただの、ロボットです」

「ロボット? へぇ、君みたいによくできたロボットは初めて見たな。まるで人間と変わらない」

 ............。そうでしょうか?確かに博士は天才です。私の外見は人間によく似ています。でも、私は歌手になるという夢すら果たせない。博士を喜ばせてあげられない。こんな中途半端な私よりも、一般に普及している、他の━━介護ロボットやレスキューロボット、パーソナルロボットなどの方が、遥かに優れていると思います。「今の、<失われた黄金>だよね。結構古い歌だけどさ。好きなの?」

「は、博士がよく口ずさんでいる歌なんです」

「博士?」

「私を造ってくださった、ノスタルジア博士です」

「ふーん」

 彼は空を見上げました。浜風に柔らかな茶の髪が揺れ動きます。彼の羽織った、白いヨットパーカーもはためいています。鴎たちが気持ちよさそうに飛んで行きます。 彼のその瞳は、どこか遠くを見据えています。確かな意志が感じられます。 彼は頬杖をつくと、楽しそうに海を見つめました。ああ。なんてすてきに笑うのでしょう━━。

 彼の低く甘い歌声が、私の胸を振るわせました。

  

   さぁ、行こう。あの海の向こうへ!

   誰も知らない未来を求めに行こう。

   風と海と眩しい太陽。

   すべてが祝福している。

   掴めないものなんて、何もないから。


 少し照れたように、彼は笑いました。

「オレの好きな歌。<海の向こうの明日あした>っての。君みたいに、綺麗には歌えないけど」 

 私は何も言えませんでした。そういった彼が眩しすぎて。彼の歌は━━彼の歌う姿は、なんて美しいのでしょう。楽しそうなのでしよう。自に満ちているのでしょう。 ━━私とは、全然、違う……! 私は不思議な気持ちを感じていました。持て余していました。これは何?焦り? 不安? 憧れ? それとももっと暗い、マイナスの感情なのでしょうか━━。頭がショートしそうです。両手をいつのまにか、きつく握っていました。

 今の歌はなに? この人は誰? そんなに、その歌が好きなの━━? 私? 私の好きな歌。<失われた黄金>? ━━違う。それはたぶん博士の好きな歌だ。

「君は大陸には行ったことがある?」

「……。いえ、私はこの島の外に出たことはありません」

「そうなのか。オレも、ないんだ。だからなのか、すごく憧れてるんだよ。この海を越えた場所。知らない世界。未知の人々。考えるだけで、眠れないほど、わくわくするんだ。そう思わない?」 この海の向こう━━? 海の向こうの国。そこはどんなところ? ……それは、私も思っていたことだ。

「この海は、この空は、繋がってるんだ。誰かへ。どこかへ。明日あしたへ。━━勿論、この島だって、オレは大好きさ。この島にだって、知らないことや、すてきなことはたくさんある。それはわかってるんだ。でも━━オレは行ってみたいんだ。この海を漕ぎ出して、大陸まで。向こう側まで。どこまででも」

 この島が好き?この島にあるのは、私にとっては、歌と、博士━━。

 博士はとても優しいです。大好きです。歌は、私の夢です。博士がプログラムしてくれた、授けてくださった夢、ユメ、ユメ━━。

「君の夢はなに?」

 彼が訊きました。私の夢。そんなの、決まっています。だけど、私は瞬間、その項目を検索できませんでした。何かのエラーでしょうか。忘れてしまったのです。その単語を。……長い時間をかけ、やっとこう言いました。

「…………<歌手>……それが、私の、夢」

 そう━━そうだわ。歌手よ。こんな大事なこと忘れるなんてどうかしてるわ。

「へぇ、やっぱりそうなんだ? オレの夢はね。船乗りになること。なりたいんだ。そして、この海の向こうへ行ってみたいんだ。君はどうして歌手になりたいの?」 

 ━━━━。

「はは、夢に理由なんかいらないか。君はきっと歌が好きなんだろうね? オレがこの海を好きなみたいに」

「…………私、私の夢は<歌手>になること。でも、それは博士がプログラムしたこと……。私の夢って……」

 私って…………ナ ニ……?

「君、どうかした? 気分でも悪いの?」

 私は笑いました。笑えたはずです。

「平気です。私は機械ですよ? そんなにヤワではありません。大丈夫」

 でも、博士にメンテナンスしてもらうべきなのでしょうか……?

「ごめん、変な話につきあわせちゃって。つまんなかっただろう?」「いいえ」私は訊きました。訊かなきゃいけない気がしました。

「名前、なんていうんですか?」

「え? オレ? ━━リバティ」

 リバティ。

 私はその名を頭の中にセープしました。絶対に消えないよう、プロテクトをかけて━━。


   2


 それから。私は博士と共に、博士の家へ戻りました。

 博士はお仕事が忙しいながらも、仕事の後や休日に、私の歌の稽古をしてくださいます。博士の家は、この島の端。小さな村の一軒家です。ここから研究所までは距離があります。ですから、博土は研究所に泊まり込むことも多いのです。そしてそのまま、何日も帰られないこともあります。それでも博士は、緑のおいしいこの場所がお好きなのです。私はいつもここで博士の帰りを待っています。それが博士のお望みなのです。博士がいなくとも、私は歌の練習をかかしません。だって、そうすれば、博士は喜んでくださいます。少しでもうまくなって、今度のオーディションでは歌えるようにならなきゃ。 洗濯をし、掃除を終え、歌の自主練習をして、帰りの遅い博士のために、すぐに温めて食べられる物を作ります。栄養バランスを考えた物です。博士はお風呂がお好きなので、お風呂の用意もします。 博士は独身です。でも、この時代、この国などにおいて、それは珍しいことではありません。博士にはお仕事があります。他のことをする暇もないほどに。そんな博土の唯一の慰めが、歌、なのです。 博士のお帰りまでには、まだ少し時間がかかります。 どうしましょう? ━━歌、歌の練習をしなきゃ......。


   私はこんなにちっぼけすぎて


 はぁ...…。だめです、気分が乗りません。実はここのところ、こんなことが多いのです。

 私は一体どうしたのでしょう……?

 ドアを開けると、星空が広がっていました。

 私は、家の外に出てみました。

 星明かりが目にみて、私でも、人間のように泣けそうな気がしました。 


   私はこんなにちっぽけすぎて

   明日あしたさえ見えません


 ━━リバティ。 あの日から、私はずっと、その各前をリピートしています。


   輝く瞳を持った あの人のように

   羽ばたくことはできないのでしょうか


 ━━リバティ。 

 リバティ。

 彼は……、どうしてあんなふうに夢を語れるのでしょう。どうして、歌を好きだと、言い切れるのですか……?

「リィ。どうしたんだい、こんなところで」

「……博士」

「帰りが早くなってね。それにしても、今の歌はよかったね。<見えない明日あした>か。リィに合ってるかもね。今度はその歌をデータ化して送ってみよう。きっと審査に通るだろう。

 後は、人前で歌えるようになれれば、問題はないんだけどな……」

「すみません」

「気にすることはない。きっと、できるよ。リィなら大丈夫。きっと夢を叶えられる。君は僕の自慢の娘だからね」

 大丈夫。できる。━━博士はいつも、そうおっしゃいます……。

 私はもう一度、きらめく星の海を見上げました。

 ━━リバティ。あなたなら、この歌をどんなふうに歌いますか……?


   3


 また、オーディションのために、街にやってきました。オーディションの開催は明日です。博上はホテルでくつろがれています。でも、私は━━また、この海に来ています。 そう。リバティと出逢ったあの海です。

 ━━リバティ。リバティ。どこにいるの? 私、あなたに逢いたいの。教えて欲しいの。この胸をふさぐ思いはなに? 私はどうすればいいの? どうしたら、あなたみたいになれるの━━⁈ リバティの姿を、私は見つけられませんでした。 彼はもう、あの海の向こうへ行ってしまったのでしょうか……?


 目が、目が、たくさんの目が、私を見ています。オーディション。審査委員に、他の歌手志願の方々。公開審査を見に来た、観察たち。━━なんとかここまでぎ着けたものの、やっぱり、私、だめです。 

 博士、私━━。怖い。

 リバティ。助けて。私、できない。なれない。あなたみたいになれない。博士が望むように、なれない! 

 目、目、目━━。 問いかけてきます。

 見透かされてしまいます。

<どうしておまえはそこにいるんだ>

<平気な顔して>

<おまえは違うだろう。他の志願者たちと>

<彼らは本当に純粋で>

<一生懸命で>

<歌が好きで>

<なのにおまえはその中に混じって>

<さもそれが夢みたいな振りして>

<みんなをだまして>

<どうしてそこにいるんだ>

くどうしてそこにいるんだ>


「あ…………あ……」

 ち、違う、私、歌わなきゃ、博士のために、歌わなきゃ。

<本当にそれがおまえの夢なのか>

 ━━ウタワナキャ。

『リィならきっとできるよ』

 ……ワタシハ……

『オレの好きな歌』

 ウタ、ウ…………

『オレの夢はね。船乗りになること』

『君の夢は』

『なに?』

 

   4


 ワタシハ コワレタ。

 壊れてしまった。与えられた使命ゆめも果たせないなんて。

 ううん。最初から壊れていたのかもしれない。「リィ⁈」 博士の声を振り切って、私は会場を飛び出した。

「リィ⁈ どうしたんだ、リィ⁈」

 波音が耳を打つ。限りない海が、目の前に立ちはだかっている。

 ━━リバティ。リバティ。どこにいるの⁈ どうして、いないのっ⁈ 私、あなたになりたいよぉ。


『行きたいんだ』

『海の向こうへ行きたいんだ』

 私も行きたい。行きたいんだ……!

「リィ⁈」

 博士が、私を羽交い締めにする。

「放して‼︎ 放してよっ‼︎ 海へ行きたいの‼︎ 海の向こうへ行きたいの‼︎」

「リィ⁈ やめるんだ‼︎ 君は水に弱いんだ‼︎ 壊れてしまうよっ⁈」

「━━もう、壊れてるっ‼︎!」

「リィ……」

「博士はどうして、私に夢なんて与えたの⁈ どうして…….っ⁈  私ってナニ⁈ 夢ってなんなの⁈ 私、もう、歌えない━━‼︎」

「リィ……うわっ⁈」

 私は無理やり博士を突き飛ばし、海へ駆け出した。

 いいんだ、壊れたって。もう、壊れてるんだから。彼になるんだ。彼に会いに行くんだ。それがだめなら、海の中で眠ろう。永遠に壊れてしまおう。それでも、最後に私は海に入れる。海の中を見ることができるんだから━━‼︎! 鴎が、私の視界をよぎった。

 彼に見えた。

 海に入る寸前、私はその白い鳥を追って振り返った。


 博士がいた。


 私の足は止まった。 博士は、私に突き飛ばされたせいで、砂浜に倒れて、肩にけがをしていた。

「リィ、リィ、だめだ……‼︎」

『リィ。君ならできるよ』『気にしなくていいよ』

『君は僕の自慢の娘だからね』

 ━━博士はいつでも優しかったのに。

「博士、博士、ごめんなさい……っ‼︎」

 私は博士のもとへ駆け戻った。

「博士、博士……っ‼︎」

「リィ、リィ、気にしなくていいんだよ。大したことない」

「すぐ、手当しなきゃ...…‼︎ ごめんなさい、ごめんなさい、私……、博士にけがさせるなんて……、ロボット失格だ……」

「気にしないで、リィ。君が無事なら、僕はそれでいいんだ」 

 博士の血は、赤くて、怖くて……。私はしていたスカーフを外して、止血をしました。 

 スカーフの下には、あの、博士に頂いた貝殻のペンダントが隠れていました。

「リィ、僕のほうこそ、ごめん……。君の気持ちを考えられなくて。考えようとしなくて。━━いや、僕は本当は気づいていたのかもしれない。見ない振りをしてたんだろうね……」 

 博士は大きく息を吐き出しました。

「……それは、僕が叶えられなかった夢なんだ」

 鴎が頭上で鳴いています。風が、私たちを包んでいます。

 私はただ、博士を見つめていました。

「僕の家は、みんな、研究所勤めだし……。それを断って、他の道を選ぶ気もなかったし。僕には歌の才能がなかったし……。なにより、根性がなかった」

「そんなことありません。博士の歌は、とても綺麗です。私、博士の歌が━━大好きなんです」

 そうだ。私は歌が好きだ。寂しいけどとても温かな、博士の歌が、大好きだったんだ。だから私も博士みたいになりたくて……。

「ありがとう。僕もリィの歌が大好きだよ。 ━━人間は……いや、僕は勝手だね。叶えられなかった夢を、君に押しつけるなんてね…....。

 いいよ。そのプログラムは消去する。君は自由にお生き」



   5


 汽苗が鳴り響きます。 

 リバティは、船乗り見習い━━というより、雑用係という形ですが、今日、自分の力で、夢を叶えて、大陸へと旅立っていきます。

「おめでとう。リバティ」

「ありがとう。リーズン」

私たちは、あれからあの海で再会しました。そして、私たちほとても親しくなりました。

「楽しみだなぁ。大陸って、どんなところなのかな。着いたら、ハガキ出すからな」「うん。楽しみにしてる」「リーズンもいつか大陸へ来ないか? 別に、船乗りじゃなくて、乗客としてでいいんだからさ」」

「うん。その時は、博士と一緒にね」

「この、ファザコン娘が⭐︎」

「へへー♪」

「……みやげ買ってくるからな」

「うん。博士のもね」

「まだ言うかコイツ!」

 私たちは大きな声で笑い合います。

「━━リーズンの公演会に行けないのが、心残りだけどな」

 そうです。私もついにオーディションに受かったのです。

 そして、近々、公演会への出演が決まっているのです。

「大丈夫。私、がんばって、これからもっともっと公演会へ出られるようになるんだから! その時、リバティも聴きに来るといいよ」

「ああ。そうする。━━いつか、大陸へも歌いに行ったりしてな」

「この、大陸おたくが⭐︎」

「あはははは」

「━━ねぇ、リバティ。あの歌を歌って」

「あの歌?」

「私たちが初めて逢ったときに、あなたが歌ってくれた歌。私……あの歌も大好きよ」

 

   さぁ、行こう。あの海の向こうへ!

   誰も知らない未来を求めに行こう。

   風と海と眩しい太陽。

   すべてが祝福している。

   掴めないものなんて、何もないから。


 また、汽笛が鳴り響きます。 束の間のアンサンブルも、潤えてしまいました。 私たちは、しばらく見つめ合っていました。

「ねぇ、リバティ。あるよね? 大陸にも、この島にも。同じものが。変わらないものが」

「ああ。世界は繋がってるからな!」

 彼の海色の瞳に、私が映っていました。

 私の瞳にも、彼が映っていることでしょう。

 私たちの瞳は、これから何を映していくのでしょうか。今と過去の大切な映像を記録して。明日へ未来へ、記録し続けて。

 やがて、リバティが言葉を紡ぎました。

「じゃ━━、お互い、がんばろうな!」

「ええ!」

 私は大きく笑い返しました。

 

 リバティの乗った船を見送って、振り返ると、そこには博士がいらっしゃいます。いつもどおりに、日溜まりのような優しい眼差しをしておいでです。

「本当によかったのかい、リィ?」

「ええ。私が自分で選んだことです」

 私たちは、腕を組んで家路につきます。なんとなく今日は、甘えてみたい気分なんです。 私の胸元で、白い貝殻のペンダントが、陽光を弾いて、きらめきます。 私たちは自然に、歌を━━大好きな歌を口ずさんでいました。


   私はこんなにちっぽけすぎて

   明日さえ見えません


   輝く瞳を持った あの人のように

   羽ばたくことはできないのでしょうか

 


   蹴飛ばしてしまった あの石は

   黄金だったのではないだろうか

   こぼれていった あの砂は

   もう戻らないのだろうか


   輝いていた あの時は

   幻だったのではないか  

   すべて 夢だったのではないか



   明日あすを言じよう

   たとえ今が 辛くとも

   希望の歌を 歌い続けよう


   心が壊れた日は 星空を見上げよう

   輝きが きっと 君の心を慰めるだろう


   遥かな海を眺めよう

   潮騒が きっと

   君の心を助ますだろう

 

 ━━違く、鴎の歌声が聴こえました。


   ♪♪♪


 私はリーズン。ノスタルジア博士の娘です。

 私の夢は、始まったばかりです。


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