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わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第1章 ブルーグラス・ブルーム
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ブルーグラス・ブルーム 第7話

「おじゃましまーす」


 中は薄暗く、何かの箱や農機具や古そうな家具が雑多に置かれていて、入ったすぐ左には壁があった。


「あれ?」


 と、思ったけど壁では無い、入り口方向から反対側まで太いロープで毛布が何枚も吊されて仕切られている。

 窓から見てカーテンに見えたのはこれだったのか…


「何これ?」

「防音、あとこのままだと広すぎて冬は寒いから」

「ああ、なるほど」


 後ろについて行き、毛布をめくって入った内側は蛍光灯が吊されていて明るく、床は板か何かを敷いているのか一段高くてその上に絨毯がかけられていた。


 水城さんはサンダルを脱いで絨毯に上がり、二人掛けのソファーから垂れ下がって床に半分落ち掛けていたパッチワークキルトを敷き直すとギタースタンドの横に置かれた通学カバンを手に取った。


「どうぞ」


 ポンポンと叩かれたソファーに言われるがままに座ると、水城さんは部屋の隅からビールコンテナを引っ張ってきて、そこに座布団を乗せてから腰掛け、カバンに教科書を入れるとそのまま休み時間に読んでいたブックカバー付きの文庫本を取り出して読み始めた。


 窓からギターを弾いているのを見ていたし、大きい納屋だから勝手に楽器まみれでごちゃごちゃしているんじゃないかと想像していたけど、目につく楽器はギターとアンプだけであとは今座っているソファー、スマホの充電ケーブルとタブレットが置かれてテーブル代わりにされている古いテレビ台とさらに古臭い扇風機くらいしかない。


 そんな納屋の壁をよく見ると一面に波型スポンジが貼られている。

 わたしも防音のためにやっているけどこんなに大量ではないし、よくやったものだと感心しながら思わず手を伸ばしてしまった。


「ボロボロだから触らないでね」

「あっ、ごめん」


 バツが悪くて引っ込めた手を胸の前で握ったまま固まってしまった。

 結構強引にここに入ってしまったけど何を話せばいいのかわからない、焦ってもしょうがないし何かとっかかりがないかと教科書を借りたときよりも詳しく水城さんの姿を観察する。


 さっき向かい合って立ったらわたしより頭一個分無いくらい背が低くて、わたしはこの前の身体測定で163センチだったから多分150センチくらい、スカートを短くしたり制服を着崩すこともなく人畜無害そうないかにも文学少女的な外観で、とてもあんな風にギターを弾くようには見えず、こうして読書している姿の方が似合っている。


 あっそうだ、これを話そう。


「さっきから何読んでるの?」


 初球としてはなかなか悪くない問いかけが出来た自分を内心褒めつつ返球を待っていると、文庫本のタイトルが書かれたページを見せつけられた。


『夕闇の牙』


 知らない。


 小説なんか暇な時、稀に投稿サイトくらいでしか読まないけれどラノベとかでは無いような気がする。


「どんな小説」

「警察小説みたい」


 警察小説?

 警察小説って何だ?

 名前からして警察が出てくる小説なんだろうけど、推理小説ってことでいいのか?


 いや、ここは読んでいる本人に聞けばいい、こうやって会話を弾ませればいい。


「どういう内容なの?」

「さあ、家にあったのを適当に持ってきて今日読み始めたからまだよくわからない」


 うう、空振った……


 せめて今読んだところまででもどんな内容か聞いた方がいいのか?

 いやでも本人が「わからない」って言ってるのにそこを(つつ)き回すのは悪印象な気がする。


「へ、へー……」


 会話が終わった。


 なんか他に無いかと見回しても、そもそも物がない。

 と、スタンドに立てかけられたギターに目が止まった。


 古そうで多分ビンテージ物、本がダメだった以上ここにあって会話のタネになりそうなのはこれくらいだけど、どうにもこれには触れたくない。


 普段から友達にはギターが弾けることも動画投稿をしていることも自慢していて、みんな応援してくれるから結構いい気なっていたけど、あの演奏を聞いた後では思い出すだけで恥ずかしくなる。

 学校の事でも話すか? でもこの子と話せそうな話題って───


「百合川さん?」

「はい!?」


 向こうから、しかも苗字で呼ばれるのを想定していなかったから滑稽な声で返事してしまった。というか覚えててくれてたんだ。


「百合川さん、ギター弾けるの?」

「えっ!? な、なんでそう思うの?」

「音が聞こえてわざわざ向こうに回って見てたから」


 弾ける……とさっきまでは自負していたけど、そう答えていいのか?


 いやでもここで嘘をついてもしょうがない、本当のことを言おう。

 あっそうだ、動画投稿のことは黙って「中学で始めた」って言おう、それなら別に恥ずかしくない。


「そうだね、弾け───」


 言え、別に恥ずかしいことじゃないんだから言え自分。


「弾けたら楽しいんだろうね」


 ああ、日和った。

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