ふたりぼっちステージ 第5話
メイド喫茶は結構好評なようで、さすがに並んでいる人はいないけど、ほとんどの席は埋まっているし通りすがりに中をのぞき込む人もいた。
自分達の準備やら練習やらでてんやわんやしていたせいで飾り付けも全く手伝えずにいたから、いつも使っているはずの教室なのにこうしてかわいらしくデコレーションされた外観に新鮮な非日常感を味わわされた。
そうして出来映えに感心しながら廊下から眺めていると、ここへわたしたちを呼びつけた張本人である陽葵に見つけられた。のだけれど───
「いらっしゃいませー、お二人さん!」
「いや、えっ?……何その格好?」
元気よく教室から飛び出してきた陽葵はカチューシャとフリルの付いた、いかにもメイドらしいエプロンを身につけているのだけど、その下にはなぜか体操着の長袖ジャージと短パンを着ている。
「ほら、ジャージメイドだよジャージメイド、ここに書いてあるでしょ」
と、ビシッと指さされた人差し指の先にあるメイド喫茶の段ボール製看板をよく見ると「メイド」の前に「ジャージ」と書かれた段ボールが付け足されている。
看板と同じ色で塗られている上に雑に黒のマジックで書いただけだから全く気が付かなかった。
でも作りかけで廊下に置かれていた時はたしかこんなことになっていなかったはずだ。
「そもそもジャージメイドって何?」
「なんかそういうのがあるらしいよ?」
陽葵自身がよく分かってないようで、答えとして「ジャージメイド」の画像検索結果の画面を突きつけられた。
これを見る限りではたしかに存在しているらしい、でもクラス投票ではメイド喫茶をやることになっていたはずだし、どんなメイド服にするかというやりとりをしていたのも聞いているからどうにもわたしの記憶と現状がかみ合っていない。
「いやいや、たしか最初は普通のメイド喫茶だったはずでしょ、いつの間にジャージになったの?」
「いやー、実は食べ物いっぱいあった方がいいかと思ってメニュー増やしたら服買うお金無くなっちゃった……」
それでカチューシャとエプロンだけ買ってジャージメイドにしたと……いや、よく見ると両方とも縫い方がいびつでどうも手作りっぽい。
明日はわたしもメイドで手伝うことになっていて、知らない間に決まっていたとはいえメイド服を着るのは少し楽しみにしていたのにこんなことになっていたとは……あっ、だから服のサイズを聞かれなかったのか。
色々腑に落ちないけど、全然手伝っていないわたしがあれこれ言っても仕方が無い。
本来の目的である「お腹を満たす」のために案内された席に座ってメニューを見るとドリンクはオレンジとリンゴジュースにコーヒー、紅茶、主食がオムライスかナポリタン、デザートがチーズケーキにプリンにクッキー、たしかにこんなに豊富だったら予算も無くなるなと納得してしまった。
「叉音ちゃん何にする?」
「ナポリタン」
即答。
「そういえば好きなんだっけ、ナポリタン」
なんか前に話してくれたような記憶がある
「好きだけどおじいちゃんたちがあんまり好きじゃ無なくて、家だとあんまり食べられないから」
「そっかぁ」
そういえばわたしもナポリタンは最近食べていない。
メイド喫茶=オムライスの固定概念があったからオムライスにしようかと考えていたけど、叉音ちゃんのせいで少し焦げた香ばしいケチャップソースが絡んだモチッとしたスパゲッティが恋しくなってしまい、ぬるい水道水が注がれた紙コップを持ってきた陽葵にナポリタンをふたつ注文した。
陽葵によればナポリタンもオムライスも冷凍とのこで、少し心配だったけどちゃんと美味しかった。
食べ終わり、食後に持ってくるようにお願いしていたドリンクを陽葵が持ってきてくれ、わたしにはアイスコーヒー、叉音ちゃんにリンゴジュースを置くなり「じゃあデザートはプリンとケーキどっちにする?」とさも当然のように提案してきた。
ナポリタンの量が思っていたよりもあって、食べようと思えば食べられるだろうけど、他の模擬店で食べ歩きもしたいからここでデザートを入れるのはなぁ……
「食べる?」
自分で考えるのが面倒くさくなって小食な叉音ちゃんに合わせようと選択肢を委ねたら、案の定不安な顔をされながら首を横に振られた。
「わたしもナポリタンが多かったからいいよ」
「えー、美味しいよ?」
「いやいや美味しいかどうかじゃなくて、ここでおなかいっぱいになったら他の所で食べられないから」
「じゃあクッキーでいいよ、これなら持って帰れるし」
今度は押し売り、こうなると面倒くさい。
陽葵はこう見えて頑固で、例えば一緒にファミレスでごはんを食べるときに同じ物を注文しそうになると、一口交換をしたいから自分のはそのままでわたしに対して「頼む物を変えろ」と言ってくる。
そしてそうなるとテコでも動かなくなる。
「はぁ…あんたがそれでいいならいいよ、もう」
完全に陽葵のペースにハメられ、逆らっても長引くだけだろうから受け入れることにした。




