重なる音と重なる心 第8話
「どうしたの?」
「その……『叉音ちゃんがいじめられてたら』って思ったら、残念というか悲しい気持ちだったからちょっと嬉しくて」
「心配してくれてたんだ」
「だって嫌じゃんそういうの」
「……ねぇ、私がもし死んじゃったら、響は悲しんで泣いてくれる?」
「えっ、何の話?」
「どうなの?」
いじめが無かったと聞いて安心していた所に飛び出してきた言葉は、まるで急に喉元に突きつけられた刃物のように冷たく鋭利で、なんて答えればいいのか分からずにいた。
「えーと……小五の時に家で飼ってた犬が死んじゃって、最初は全然泣けなかったんだけど、物置の隅っこにリードと餌入れがあるのを見たら急に現実感みたいなのが出てきて泣いちゃったんだよね。だから、叉音ちゃんがもしもそんなことになったら、やっぱり最初は泣けないかもしれないけど、後で泣いちゃうと思うし、ずっと立ち直れないかも」
これが叉音ちゃんの問いにとっての正解なのか分からないけど、多分今のわたしの素直な気持ちだと思う。
「ありがとう、嬉しいよ」
微笑みかけてくれる叉音ちゃんの表情は朗らかで嬉しそうで「わたしが死んだら泣いてくれる?」の質問とのコントラストのせいで余計にギャップを感じた。
「なんでこんな事聞いたの?」
「私って友達いないでしょ、だからもしもフッと居なくなっても悲しむのは家族くらいでクラスの人は心配はしても悲しいとかは考えてくれないと思ってた。でも響は私のこと気にして心配してくれる、だからもしも死んじゃって、泣いてくれたらすごく嬉しい」
「えー、なんかそれって歪んでない?」
「そう?」
「そうだよ、危ないこととかしないでよ」
「しないよ、響が泣いちゃうのは嫌だから」
やっぱり歪んでる気がする。
でもよく考えれば叉音ちゃんはわたしに自分を特別だと思っているのかを確認したかったのかもしれない、だからわたしも聞いておこう、叉音ちゃんが私をどう思っているのかを。
「叉音ちゃんはわたしが死んだら泣いてくれるの?」
「うん泣く、泣きすぎて死んじゃうくらい泣くと思う」
「そっか……へへ、ちょっとうれしいね」
「でしょ」
わたしの亡骸にすがりついて泣いてくれる叉音ちゃんを想像したら、たしかにちょっと嬉しかったけど、同時に泣かせてしまう事への罪悪感も感じて、苦くて甘いような感覚がした。
お昼を食べ終えて、いつもならここで音楽の事だったり他愛も無い会話を楽しむのだけど、あいにく昼休みが終わるところだった。でも、実はもう一つ叉音ちゃんにしておきたい重要な話があって、できれば時間に余裕があるときしておきたかった。
「叉音ちゃん、放課後ちょっと話がしたいんだけどいいかな?」
「今じゃなくて?」
「うん、ちゃんと時間があるときにしたい」
「わかった、じゃあ放課後でいい?」
「うん、じゃあここで待ってる」
約束をしたところで予鈴が鳴り始め、ロッカーへと急いで向かった。




