重なる音と重なる心 第7話
「響、大丈夫?」
「えっ、なっ何が?」
「なんか変だよ」
昼休み、いつも通り階段に座ってお弁当を食べていると、隣から叉音ちゃんに顔をのぞき込まれ、思わず目を逸らしてしまった。
「ど、どの辺が?」
「さっきの体育の授業中ずっと私のこと見てた。それで話があるのかと思って近寄ったら逃げるし、今も何も話してこない」
「ああ、うん……だよねぇ」
昨日心に決めたのに早くも決意が揺らいでいた。
わたしは隠し事は出来ないタイプの人間で、それもあって友達からの重い相談にもなるべく乗らないようにしていた。
今、わたしが叉音ちゃんにいじめのことを聞いてしまおうかと悩んでいるのも一番は自分が楽になりたいからで、ズルくて自分勝手な動機だけどやっぱり秘密を抱えたままでいたら関係をギクシャクさせそうで、そんなことになるくらいなら聞いてしまいたい。
うん、聞こう。
悪い結果になったとしてもしっかり受け止めて、叉音ちゃんを傷つけないようにしよう。
「その……叉音ちゃんって、小学校ではどんな感じだったの?」
「小学校? 別に今と変わらないよ」
「そうなんだ……」
隠してる……のかな?
「どうしたの、急に?」
「ええと、あのね……人から聞いた話なんだけど、小学校で叉音ちゃん……いじめられてたって本当?」
「えっ……」
叉音ちゃんはびっくりした顔をして、下を向いてしまった。
どんな表情しているのか分からないけど、やっぱり古傷をえぐって傷つけてしまったんじゃないかと不安になり、やっぱりこんな話をしなきゃよかったと後悔していた。
「その話、誰に聞いたの?」
「……海玲ちゃん」
「ミレイって、藤塚さんだよね?」
「うん、藤塚海玲」
「……」
海玲ちゃんの名を聞いた叉音ちゃんは天井を見上げながら体を左右に少し揺らしながら何か考え込んでいる様子で、意外なことに『古傷えぐられて傷ついている』という様子ではなさそうで、わたしは聞いていた話とこの状況がかみ合わず、ただポカンと叉音ちゃんを見つめていた。
「……あぁ」
しばらくの沈黙の後で出てきたこの「あぁ」には何かに気がついた納得のニュアンスがしていた。
「えっあの、いじめられてたんだよね、そう聞いてるんだけど?」
「違うよ。勘違い」
「か、勘違い?」
本当? その割には海玲ちゃんの話は妙に具体的でただの勘違いとは思えないんだけど。
「えっと…私、昔からこんな感じで、誰かと一緒に遊ぶのよりも一人で本読んだりしてる方が好きで、学校でも教室とか図書室に本読んだりすみっこでじっとしてた」
たしかに、その光景は今の叉音ちゃんからも想像できる。
「それで、最初は『遊ぼう』って誘ってくれる子もいて、ずっと断ってたらそれも無くなって、だけど新しく来た、若くてやる気いっぱいみたいな男の先生が担任になって、私がいじめられて無視されてるって勘違いしちゃった」
「……あぁー、そういうこと」
「藤塚さん、ずっと別のクラスだったはずだから『いじめられてた』って勘違いしてるんだと思う」
「それで、結局その『いじめ』ってどうなったの?」
「先生は『仲間はずれにしないでみんなの輪に入れてあげよう』って言って、みんなも遊びに誘ってくれて、私も断れなくなったから一緒に遊んでた。でもやっぱり一人でいるほうが好きだし、みんなが無理してるのも分かってたから学校行きたく無くて仮病で休んでたらお母さんにバレて、最後は親と学校で話し合って『いじめはなかった』ってなった」
「そうだったんだ。なんて言うか……大変だったね」
「うん、大変だった」
叉音ちゃんにとっては新任の先生が一人で空回りしてドジった昔話なのか、あっけらかんとした様子でお弁当を食べるのを再開したけど、わたしはいじめが無かったのが嬉しくて感傷に浸ってしまっていた。




