重なる音と重なる心 第6話
今日は陽葵にお昼に連れられた以外は別に特別なことは何もなく、途中から叉音ちゃんとお昼を食べ、放課後は学祭の準備で居残る生徒たちを横目に見ながらさっさと帰ってアコギの練習をしようとしていたのだけど、昇降口で靴に履き替えている所へ海玲ちゃんがやってきて一緒に帰ることになった。
帰り道ではあまり記憶にも残らない、他愛も無いような会話をしていたのだけど、海玲ちゃんは急に叉音ちゃんの話題を振ってきた。
「百合川さん、最近水城さんと仲いいの?」
「ああ、海玲ちゃんも気づいてたんだ」
「えーと、お昼に山口さんと話してるのが聞こえてて、ごめんね」
「いや気にしなくていいよ。叉音ちゃんねぇ……最近気になって一緒にいたりしてるよ」
「そっか、良かった」
「あー、海玲ちゃんも叉音ちゃんに友達いないの気にしてたんだ」
陽葵も言ってたから、どうもこの叉音ちゃんに友達がいないのは相当有名らしい。
「それもあるんだけど……ほら、私って水城さんと小学校が同じって言ったよね?」
「そういえばそんなこと言ってたね」
たしかにそんな記憶があるけど、何の流れで聞いたのかは覚えていない。
「中学は別で、高校で久しぶりに会ったんだけど、ええと……水城さん、小学校の時にいじめられてたみたいで、それで気になってたの」
「……えっ」
小学校時代の思い出話でもされるかとノンキに構えていた所に急に飛び出して来た”いじめ”の言葉に、わたしの頭は真っ白になってしまった。
「い、いじめられてたの?」
「ずっと別のクラスだったし話した事も無かったからあんまり詳しく知らないけど結構騒ぎみたいな感じになったし、しばらく学校を休んだこともあったからたぶん……」
「そう……だったんだ」
「そのせいで他の人と話さなくなったのかと思って心配してて、私が話しかけても
全然ダメだったから心配してたの。でも水城さんが仲良くなってくれてよかった」
海玲ちゃんはわたしと叉音ちゃんの仲がいいことを本当に喜んでいてくれていたけど、そんな話をされたわたしの内心は荒れ狂っていて、作り笑顔を返すので精一杯だった。
家に帰ったけれど練習どころでは無くなってしまっていて、制服のままで重い身体をベッドに放り投げて枕に顔を埋め、さっきされた衝撃的な話の整理をし始めた。
海玲ちゃん本人はあまり詳しく知らない様子だったからいじめは勘違いで実際は無かったと考えたいけど「騒ぎになった」と言っていたし、学校も休んでいたそうだから多分本当にあったんだろう、それに叉音ちゃんのあの引っ込み思案で他人と関わらないようにする性格も”いじめられてそうなった”と考えれば色々と辻褄が合うし、夏祭りの帰りに小学校の頃の話をしようとしたお父さんを叉音ちゃんが大声で止めていたのも納得できる。
「いじめねぇ……」
わたし自身は八方美人の処世術のおかげかいじめられたことは無かったけれど、中学で先輩がそういうことをしているのを一度だけ見てしまったことがあって、言い表しがたい不快感を覚えたのと同時に、見て見ぬふりをした自分に罪悪感を覚えたことがあった。
今まで忘れていたけどふと思い出してしまった。
その先輩たちがその後どうなったかは知らないけれど、あの小さな体の叉音ちゃんがいじめられているのを想像してしまい胸が締め付けられ、そんな経験をしながらわたしにあのへにゃっとした、安心しきったかわいい笑顔を向けてくれていたかと思うと涙が出そうになった。
結局この日は練習も出来ず、ご飯ものどを通らず、満足に寝ることも出来なかっ
た。
でも、今まで叉音ちゃん本人がこの話をしなかったと言うことはわたしに知られたくないとのだろうから、このことはもう忘れていつも通りの付き合いをしよう心に決めていた。
だったのに───




