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わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第4章 重なる音と重なる心
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重なる音と重なる心 第4話

 こんな演奏を聴かされ、わたしも何か弾きたくなっていたけど、こんなことになるとは思っていなかったからギターは持ってこなかった。


「ギター持ってくればよかったなぁ……」

「アコギは?」

「わたし弾いたことないんだよね」

「さっき約束したんだから教えるよ」

「え、本当にいいの?」


 もしかしたらお父さんをあしらうために言ったんじゃ無いかとも考えてたけど、叉音ちゃんが教えてくれるならそんないいことはない。


「うんいいよ、家の手伝いがあるから、手が空いてる時にだけど」

「それならわたしも手伝うよ、その分一緒に練習できるし」


 ギターを教えてもらえるのはもちろんだけど、何よりも今日からずっと叉音ちゃんと一緒に過ごせるのが一番嬉しい。


「まだ時間もあるし、練習しようか」

「そうだね、なんか叉音ちゃんオススメの曲とかある?」

「それだと……『おおスザンナ』(*注1)なんかどう? 多分聞いたことあるしそんなに難しくないと思うよ」


 おおスザンナか、たしかに聞き覚えがある。


「うん、じゃあそれにしよっか……ええと、それでなんだけど……」

 実は、練習するにあたってさっきからどうしてもお願いしたいことがある。

「参考にしたいから叉音ちゃんが弾いてるところ、録画していいかな?」

「えっ……」


 ものすごく不安で嫌そうな顔。


「いや、いやいやいや、ネットにあげたりとはしないから、後で自分で見直す用だから! ダメ?」


 あと、二人でこうしてるのが楽しいからそれを記録しておきたいのもある。


「……まあ、そういうのならいいよ」

「ありがとう」


 お礼を言い、荷物からお祭りで使うかと思って持ってきていたるスマホ用の三脚を引っ張り出し、部屋の片隅に設置して練習を開始した。




 教えて貰った曲自体はそんなに難しくはなかったからそこにはさほど苦戦しなかったのだけど、そもそもアコギを弾く事自体が大変で、弦が固くて弾きにくいし疲れる。

 こんなに違うとは思わなかった。


「うぅ……手が痛い、こんなんで大丈夫なのかな」

「そのうち慣れてくるよ、それに結構弾けてるから大丈夫」

「だといいんだけど……」

「じゃあもう一回」


 まだまだ拙いわたしの演奏に合わせて、叉音ちゃんがバンジョーを弾いてくれた。


 二つの音が重なって音楽になる。


 中学校の文化祭でバンドをやった時に同じ事を感じた。でも今はそれよりも遙かに楽しくて、何よりも叉音ちゃんの心とふれあえたような気がしてとても嬉しかった。




 とりあえず聞き苦しくない程度に「おおスザンナ」が弾けるようになった所でトイレに行きたくなって一度母屋のトイレに行ってきたのだけど、自分の家のような『廊下のドアを開けたらすぐトイレ』ではなくてドアを開けると手洗い場があって、その先のさらにドアが二つあって一つは男性用の小便器、もう一つは洋式便器が置かれていた。


 こんな作りだから手洗い場に窓が無くて真っ暗で、手探りで付けた電灯はカバーが変色してるのかもともとそんな色なのかほの暗い黄色っぽい光だったせいでジャパニーズホラーの映像みたいな恐ろしげな光景だった。


 わたしはホラーの類いは嫌いで、友達の家とはいえそんな場所には一秒でも長く居たいとは思わないから最短距離を必要最小限の動作で済ませてさっさと叉音ちゃんが待つ納屋に戻ったら中からアコギの音がしていて、そっと覗くと叉音ちゃんがソファーに座ってわたしが貰ったアコギを弾いていた。


 さっきバンジョーを弾くのに使っていたフィンガーピックを付けた親指でベース音を、それ以外の指でメロディーを鳴らしている。

 前にちらっと見た解説動画で見たことがあったけど、生でやってるのは初めて見た。


 というか、叉音ちゃんって本当に何でもできるんだなぁ。


「あっごめん、勝手に借りてた」

「いやいや、叉音ちゃんのお父さんのだったんだし大丈夫だよ」


 両手のひらを突き出しての「どうぞ遠慮なさらず続けてください」の意思表示をくみ取ってくれ、続けられる演奏を隣に座って聴かせてもらっていた。


「動画で前に見たんだけど、その弾き方ってなんていうんだっけ?」

「トラヴィスピッキングとかギャロッピングって言われてるね」

「あー」

 たしか動画だと「ギャロップ奏法」って言ってた。たぶんこれだ。

「かっこいいなー」

「響も練習する?」

「いやー……出来る気がしないし」

「大丈夫だよ、まだ夏休みは十日もあるし」

「ちょっと待って、練習って毎日やるの? ここで?」

「えっ、そうだと思ってた」


 こうして夏休みの残りのルーティンが決まり、翌日からは家で朝ご飯を食べて叉音ちゃんの家に行きお昼まで畑仕事を手伝い、その後は夕方までずっと練習をする生活を続けた。



(*注1)おおスザンナ(Oh Susanna)スティーブン・フォスターおよびアメリカで最も有名な曲の一つ

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