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わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第4章 重なる音と重なる心
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重なる音と重なる心 第3話

 納屋に戻るとスポットクーラーのおかげで防音室の中はだいぶ涼しくなっていた。


「どっちにする?」


 バンジョーとフィドル、どちらも魅力的だけどせっかく自分が運んできたんだから最初はフィドルにしよう。


「じゃあフィドルで」

「そうだね……ええと」


 叉音ちゃんはタブレットを眺めながらなにやらぶつぶつ言いながら悩んでいる様子で、後ろから覗いた画面には譜面が映し出されていた。


「タブレットに入れてるんだ」

「無料のソフト、自分でアレンジしたのも打ち込めるから便利だよ」


 たしかになぁ、タブレットは無いけど動画編集用にノートパソコンはあるから今度使ってみようかな。


「……これにしようかな」

「どんな曲?」


 クルッとわたしの方にタブレットを向けられた譜面の曲名は「Marching Through Georgia」(*注1)と書かれていたけどわたしの英語力ではパッと訳すことが出来ない。


「マー……チングスルー……げ、げお?」

「ジョージア、ジョージア行進曲。CMで使われたりしてるから聞いたことあると思うよ、日本だと替え歌で『パイノパイノパ』とか『東京節』っ言うけど……まあ知らないよね」

「うん」




 叉音ちゃんは弓の弦に松ヤニを塗り、チューニングを始めた。


「おぉ、なんかすご」

「ただ調整してるだけだよ」

「でもバイオリンって持ってるだけで教養があるように見えない?」

(ひびく)、ピアノやってたんでしょ?」

「いやぁ、ピアノとバイオリンだとバイオリンが弾ける方がかっこいいよ」

「うーん……でもフィドルだからね、バイオリンよりもなんて言うか”軽い”感じなんだよね、扱いとか」

「へぇ」


 そんなやりとりをしていたら準備が終わり、ソファーに座ったわたしの前に立って演奏を始めてくれた。


 奏でられたフィドルは楽しげであり行進曲ということもあってかどこか勇ましげな旋律で、叉音ちゃんの言った通り何となく聞き覚えがある曲だ。

 バイオリンと言えばクラシックのイメージしか無かったから新鮮で、こんな近くで演奏を生で聴くのが初めてだったから感動しっぱなしだった。


 そして、フィドルを弾く叉音ちゃんはすごくかっこよかった。





「・……ええと、どうだった?」


 あふれた感情がわたしのキャパシティをオーバーしたせいで何も反応出来ずに呆然としてしまったせいで不安にさせてしまった。


「あっ! すごいすごかった、感動した!」


 嗚呼、なんてひどい感想なんだ……

 でも、こんな感想でもちゃんと喜んでくれて───


「ありがとう、そんなに喜んでもらえると私もうれしいよ」

 照れくさそうで嬉しそうな表情を浮かべながらフィドルを抱きしめるようにしている姿を見ていると、胸の中で暖かいものが広がる感覚がした。

「次はバンジョーでいい?」

「お願いお願い!」

「そうだね……じゃあフォギー・マウンテン・ブレイクダウン(*注2)にしよっか」


 フィンガーピックをはめ、バンジョーを抱える姿はさっきよりもリラックスしたような雰囲気だった。

 素早く、リズミカルに動く指先から生み出される曲調は軽快で自然と身体が動いてしまっていた。


 今までいろんな曲を聴いて、歌詞だったりリズムが好きだったというのはあってけど、演奏自体に感動させられたのは初めてだったのかもしれない。


「すごいよ叉音ちゃん!」

「あ、ありがとう……」


 わたしがガバッと立ち上がって手をつかんだものだから、叉音ちゃんはちょっと引き気味だった。



(*注1)ジョージア行進曲(Marching Through Georgia)南北戦争末期に作曲された行進曲

(*注2)フォギー・マウンテン・ブレイクダウン(Foggy Mountain Breakdown)ブルーグラスにおける定番曲

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