重なる音と重なる心 第1話
熱気にあふれる祭り会場を後にするのは少し後ろ髪を引かれる。
でも、一刻も早く叉音ちゃんの演奏を聴きたかったので予定よりもずっと早めに迎えを呼んでもらって、駅からやや離れた歩道に二人で立っていた。
その間、手は繋ぎっぱなしで『早く帰りたいけど、ずっとこのままでいられればいいのに』と、聞いた神様が呆れるような願いを祈っていた。
十五分くらい待っていると、ここまで送ってくれたのと同じ車が来てくれて乗り込んだのだけど、運転していたのはお父さんの方だった。
「よ、よろしくお願いします……」
叉音ちゃんとは喧嘩してから音楽のことは話してしていないと聞いていたから緊張しながら挨拶をしてしまったけれど、お父さんの方は「よろしくー」と軽い感じで答えるとわたしたちがちゃんと座ったのを確認してから発車してくれ、わたしと叉音ちゃんとの関係や普段何をしているのか聞かれた。
お母さんの方はわたしがはしゃいで叉音ちゃんと話していたから遠慮してくれたのか単に口下手だったのか、会話らしい会話をほとんどしなかったのに対して、こちらは話し好きなのか矢継ぎ早に話題を振ってきた。
「この子、学校でほとんど喋らないでしょ? 小学校の時なんかそのせいで──」
「ちょっと、その事は話さない!」
「あぁ、そうだった」
珍しく叉音ちゃんが声を荒げた。
止めようとして大きな声を出したというよりも怒っている気がして、わたしは隣でびっくりしていた。
そういえば叉音ちゃんとは音楽や楽器の話の他は家だったり学校だったりといった何気ない会話はしているけど、不思議と小学校の話はしなかった。
今の会話から考えると、本人が意図的に黙っていたような気がした。
「ええと……百合川さんは音楽とかやってるの?」
「はい、叉音ちゃんから聞いたんですか?」
「いや、聞いてないけど音楽くらいしか趣味が無いコマがいきなり友達なんか作ってきたからさ」
「ああ、なるほど……」
たしかに、わたし以外には無愛想で存在感も消している叉音ちゃんが他人とつながりを作るとしたら音楽くらいか。
その後、叉音ちゃんのお父さんにわたしの音楽の趣味について聞かれ、素直に普段聞いている曲を答えたのだけど、ちょっと古いJ-POPの話が出来るのが分かると嬉しかったようで更に口数が増えてしまった。
こっちもこういう曲の話が出来る相手があまりいなかったから最初は嬉しかったけど、口を挟んでこない叉音ちゃんが寂しそうにしているように見え、どうしようかと悩んでいたら目的地である水城家の前に着いていて、ホッとしていると───
「百合川さん、アコギ持ってる?」
「あっいえ、無いです」
「じゃあ一本あげるよ、準備しておくから持って帰りな」
「い、いいんですか?」
「いいよいいよ、古いのだから」
視線を車を降りて意気揚々と家に入っていくお父さんの背中から、無言で車から降りる叉音ちゃんに送ると呆れたようにため息をついた。
「若い子と趣味が合って嬉しいんだろうね」
「そうなの?」
「そうだよ、私とはできないから」
「ギターなんか貰っていいの?」
「本人がいいって言ってるし、アコギは四本もあるから」
「まあ、それならせっかくだし貰うね」
わたしたちが着替えている間に用意されていたアコギは使い込んだ様子だったけど、物はそれなりにいいとのことでまだまだ使えそうだった。
ついでにハードケースも貰って弾き方も教えようかと提案されたけど、それに関しては叉音ちゃんが「私が教える」と言ってくれた。




