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わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第2章 音叉と響き
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音叉と響き 第11話

 一通りお店の中を見て、来たついでに何か適当に買っていこうかと雑誌とギター楽譜を読んでいたら───


「ヒビクじゃん!」


 肩を叩かれながらわたしの名を呼ぶ元気な声で振り向くと、そこには笑顔の()(まり)


「偶然ー、一緒に買い物しない?」

「あーっと……」


 なんて言おう、叉音ちゃんの事って言っていいのかな?


 一緒に買い物に行くのは断らなきゃいけないけどなんて言えばいいのか悩んでいると、陽葵の背後で叉音ちゃんが小走りでお店から出ていくのが見えた。


「あっごめん、わたし用事あるから!」


 適当に断って、急いで叉音ちゃんの後を追いかけてるけど、意外と足が速いし休みで人が多いせいでなかなか追いつけなくて、そのうちわたしがへばって足が止まったのを確認してからようやく立ち止まってくれた。


「こ…叉音ちゃん足速いね……」


 ヨロヨロと歩み寄るわたしに対して申し訳無さそうな顔をしながら「ごめん」と謝ってくれた。


「ねえ、なんで音楽やってるの秘密にしてるの?」


 叉音ちゃんは言いたくなさそうだったから今まで質問しなかったけどずっと気になっていたし、答えてくれなくてもいいけどもういい加減聞かなきゃいけないような気がした。


「ここではちょっと……」


 さっきまで追いかけっこをしていたから行き交う人々の冷たい視線が突き刺ささっている。


 まあ、たしかにこんな通路で話すことじゃないか。




 場所をモールの中のカフェ、なるべく奥の目につかない席に移して叉音ちゃんはソファー、わたしは手前の椅子に座った。


 叉音ちゃんは黙ったままミルクと砂糖を入れたホットコーヒーをずっとスプーンでかき混ぜていて、一方わたしのアイスコーヒーは間を持たせようとちびちびと飲んでいたせいでほとんど無くなっている。


「……中学の時、さっきのお店にギター持っていったら学校の先輩に見つかって、文化祭でバンドやりたいから一緒に出てくれないって頼まれたの」


 ようやく話してくれた叉音ちゃんの昔の話に、わたし両手を膝の上で丸めて聞き入ってしまっていた。


「最初は断っただんけど、私がやりたいの曲も一緒にやってくれるって言うから出ることにして練習してたの。でも、メンバーの人が私の曲は『難しいし練習してる時間が無いから出来ない』って言ってやらないことになって、それでもみんなでやる曲は一緒に練習してたんだけど、そしたら最初に誘った先輩が別のギターが出来る人を連れてきて『今までありがとうね』って言われた。それでおしまい」


 一気に語り終えた叉音ちゃんは、両手でコーヒーカップを持って一口だけ飲み、持ったまま持ち手を右手の親指で撫でていた。


「文化祭、出なかったの?」

「うん、私は出なかった」


 その表情はお店に入って席についた時の不安げな物からホッとしているように変化しているように見えたけど、話を聞いていたわたしは胸の奥を締め付けられ、ドス黒い物がにじみ出てくるような感覚がしていた。


 多分その感情は”怒り”と”憤り”で、もう終わった話に最近知り合ったばかりのわたしがそれを伝えてもどうしようもない。

 

 だけど吐き出したくて仕方がなかった。


「それは……ひどいよ! 向こうから誘ったくせに約束破って追い出すなんて! 叉音ちゃんは悪くないのに!」


 わたしの拙い怒りの言葉を聞いた叉音ちゃんは顔色を変えず、再びコーヒーを一口飲むと何かを懐かしむような遠い目をしていた。


「でも先輩のステージ、凄く楽しそうだった……先輩も聞いてる人も。私だったあんなふうにはならなかったと思う」


「それでも、その先輩はひどいよ! 叉音ちゃんがかわいそうだよ!」

「……」


 叉音ちゃんは何も言わずにさっきと同じように右手の親指でカップの持ち手をしばらく撫でていたけど、また一口コーヒーを飲み、カタンと音をさせてソーサーにカップを置いた。


「ありがとう」


 目を細め、口角をわずかに上げて感謝の言葉をくれた。

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