音叉と響き 第10話
遊びに行くのが楽しみで寝付けないんじゃないかと心配していたけど、畑仕事の疲れで布団に入った瞬間記憶が飛んで朝になっていた。
夢さえ見なかったみたいで、そのせいで全然寝た気がしなかったけど早く目が覚めたおかげでお風呂に入れて、いつもよりも気合いを入れた服を着てみた。
ただ、そんな自分を鏡で見ていたら「もしも叉音ちゃんがラフな格好で来たら上滑りして変な感じになるんじゃないか?」と不安になって、ジーンズにオーバーサイズのシャツを着た、無難でカジュアルな格好にしておいた。
家からモールは近いし、何となく叉音ちゃんは約束よりも早い時間な気がしたから十二時半くらいに着くように家を出てぴったりに着いていた。
メッセージで叉音ちゃんに『今着いたよ』と送って、様子を見ようとしたら即座に『たこ焼き屋さんの横のベンチにいる』と返事が来た。
慌てて言われた場所を見てみると、紺色のワンピースに上着を羽織った叉音ちゃんがちょこんと座りながらキョロキョロしていて、目が合うと立ち上がってトコトコと駆け寄って来てくれた。
「えー、もう来てたの?」
「遠いから早めに来ちゃった」
わたしと叉音ちゃんの家って反対方向だからなぁ。
「叉音ちゃんの服、かわいいね」
「ありがとう、何着たらいいか分からなくて出掛ける用ので来ちゃった」
うーん、わたしの服は少しカジュアル過ぎた気がしてきた、これなら最初ので来ればよかった。
まずは楽器屋に行くことにしたけど、今日もそうだし学校でも叉音ちゃんは朝が早いように感じたので歩きながら疑問をぶつけてみた。
「そういえば叉音ちゃんっていつも朝早い気がするけど、何時に起きてるの?」
「六時前くらい」
早っ!?
「は、早すぎない?」
「おじいちゃん達がいつもそのくらいの時間に朝ご飯食べてて、一緒だから」
それで早いのか……いやでもそれにしても早いよ。
「そういえば今日叉音ちゃんの家に来てる親戚ってこの前来てた人?」
「違うよ、おばさんといとこ」
「そうなんだ、いとこって男?女?」
「女の人、学校の三年生で名字が同じだから分かると思う」
「いいなー、ウチは年が近くてよく会う親戚って男ばっかなんだ」
女の子は一番年上で小学四年生だから、一緒に遊ぶにしてもこっちが合わせてあげなくちゃいけないからなんか疲れるんだよね。
「ううんと……でもそんなに仲良くは無いよ、明るくて人気者みたいな人で私はちょっと苦手であんまり話したこと無い」
一人でいるのが好きそうな叉音ちゃんがその親戚を苦手と思う理由には納得できたけど、自分も友達や知り合いからは『明るい性格』と言われることが多いからその辺は大丈夫なのかな?
「叉音ちゃん、わたしは苦手じゃないの?」
「えっ…と、それは……響は平気」
凄く嬉しかった。
恥ずかしいのか、隣で背中を丸めて縮こまってさらに小さくなっている叉音ちゃんを抱きしめたかったけど、どうにか思いとどまって急いでニヤけた顔を元に戻した。
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
ああダメだ、まだちょっと口元が緩んでる。
そんな話をしていたら楽器屋に着いていて、わたしは真っ先にギター見始めた。
「ギター欲しいの?」
「今使ってるのって初心者用セットのやつだからねー、本当は今年のお年玉で買いたかったけど、他のことで使っちゃったんだよね」
友達に誘われ遊びに行って「ちょっとくらいいいかなー」と思ってたらほとんど使っちゃったんだよね……
「試奏する?」
「いいや、したら余計に欲しくなりそうだし」
わたしの答えを聞くと小さく「ふーん」と言い、今度は叉音ちゃんがギターを見始めた。
「叉音ちゃんもギター欲しいの?」
「見てるだけ、本当はエレアコ欲しいけど高いから」
エレアコ───エレクトリック・アコースティックギター───アンプに繋いで音を出せるアコースティックギターで、存在は知ってるけどそういえばちゃんと見たことは無かった。
まあそこにあるんだから見てみるかと、今いるエレキギターの反対側のアコギのスペースに行くも、そもそもアコギ自体触ったこと無いからよく分からず、すぐに叉音ちゃんの隣に戻った。
「この前のギターはお父さんのって言ってたけど、叉音ちゃんのギターってどういうのなの?」
この辺の話は叉音ちゃんの部屋で楽器を見せて貰った時に聞こうと思ってたけど、いい機会だから聞いておこう。
「無いよ」
「えっ、そうなの?」
十年以上も弾いてると言っていたから、てっきり何本も持ってると思っていた。
なんか以外だ。
「あのギター気に入ってるし、お金は他の物買うのに使っちゃっうし、それにバイト禁止だから貯まらないから」
「叉音ちゃん家、バイトダメなんだ」
「うん『バイトするなら家のこと手伝え』って言われるから」
「なるほどねぇ」
大変だなぁ、うーんわたしも夏休みはバイトしようかな。




