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わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第2章 音叉と響き
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音叉と響き 第7話

「響、お風呂いれたから入っていったら?」

「いいの?」

「汗かいたでしょ」


 確かに全身ギトギトで、それを見越して着替えは持ってきたけどお風呂に入れるならそれはとてもありがたい。


「じゃあ入るね」


 居間に置いてきた着替えを持って案内された脱衣所はウチの倍はありそうな広さで、玄関もそうだけどもしかするとこの家は全ての部屋がウチの倍の大きさなんじゃないかと勝手に不安になった。


「タオルはこれ使って」


 頭上のポールに掛けられたバスタオルとハンドタオルを指さすと叉音ちゃんは出ていったのでカギをかけて汗でベタベタの服を脱いで、いざ浴室へと入った。


 脱衣所の広さからここも倍の大きさなんじゃないかと期待と不安を持っていて、確かに風呂場はかなり広いけど浴槽はウチよりもやや大きい程度だった。ただ、浴室も浴槽もタイル張りなのがわたしには珍しくて、同時に滑るんじゃないかとちょっと不安になった。


 先にシャワーで汗を流してお風呂の蓋を開けるとお湯は黄色寄りの黄緑色の入浴剤入りで柑橘系の匂いが室内に充満した


「ふー……」


 お湯に肩まで浸かると、疲れた身体に熱めのお湯が染み渡って思わず声が出た。

 それと他人の家の、しかも初めて入るタイル張りのお風呂だったから目を瞑ると入浴剤の香りと相まって本当に温泉に来ているような気分になった。


 ずっとただなにもせず、なにも考えずにふやけるまで入っていたかったけど、一番風呂のわたしが長々と入っている訳にもいかないので後ろ髪を引かれながら湯船から出て、体を洗った。




 さて、体はお風呂場の棚に置かれた固形石鹸とハンガーから持って来たハンドタオルで洗ったけれど、頭はどうしようかと悩んだ。


 シャンプーとコンディショナーがタイルの床にそのまま置かれていてこれを使えばいいんだろうけど、悩ましいことにシャンプーが四本、コンディショナーが二本あった。


 シャンプーはそれぞれ、高そうなの、普通の、育毛剤入り、シャンプーとコンディショナーが一緒になってる一番安そうなのの計四種で、コンディショナーは高そうなのと普通のの二種だった。


 普通に考えると育毛剤入りと一番安そうなのが叉音ちゃんのお父さんかおじいちゃんので、他が残り三人用と言うことになる。


 なので、普通のシャンプーと普通のコンディショナーを使わせてもらおうかと思ったのだけど、客人の自分が勝手に使うのはどうかと思うし『どうせ今日一回使うだけだから』と一番安そうなのを選択した。




「あぁ、やっぱりなんかギシギシする……」


 お風呂から上がってタオルで拭いているけどすごく髪に違和感がある、こんなことなら普通のやつにしておけばよかった。

 洗い直してコンディショナーを使おうかとも思ったけど、後がつかえているからこれ以上長風呂する訳にもいかず、諦めた。


 あとは髪を乾かして待っている三人の内の誰かに入ってもらおうと思ったけれど、ドライヤーが見つからない。

 洗面台にドライヤーのホルダーらしき物はあるけどここには無く、ざっと見渡しても見つからない。


 もしかしたらここには無いのかもしれないと思って濡れた髪のまま脱衣所の扉を開けると、目の前に着替えを持った叉音ちゃんがいた。


「うわっ!」


 お互いにびっくりして飛び退いてしまい、お互いにどうしたんだろうと黙りこくって何を言い出すのかを待ってしまった。


「あっ、シャンプーとリンスどれ使ってもよかったんだけど……もう終わっちゃったね」

「そうだね」


 これを伝えようとしてくれていたらしい、ちょっと遅かった。


「ええと、ドライヤーってどこにあるの?」

「ここだよ」


 早足でわたしの脇をすり抜けて脱衣所に入ると、洗面台の隣の金属ラックにフックで掛けられたドライヤーを取ってくれた。


 そこにあったのか、干しているタオルの陰で見えなかった。


「ここだったんだね」


 手渡されたドライヤーをコンセントに挿したのだけど───


「えっ?」

「…えっ?」


 なんで叉音ちゃんに「えっ?」と言われたのかがわからず、コンセントに差し込んだ格好で考え込んでしまったけど、数秒してから「わたしがここから出ていって、別の部屋で髪を乾かしている間に自分は今からお風呂に入ろうかと思っていたのに」の意味なんじゃないかと思い至った。


「ああ、別の部屋で使うね」


 コンセントを握ったままの手に引っ張る力をかけたけど───


「ううん、気にしないで」


 そう言うと、叉音ちゃんは急いで脱衣所のカギをしめて、着替えを棚の上に置くと服を脱ぎ始めた。

 わたしの方は洗面台の鏡で目を丸くした自分の顔を見ながら、さっさととっとと出ていくためと衣擦れが聞こえないようにドライヤーをフルパワーにして乾かしに掛かった。


 しかし、そんなに簡単に乾くはずもなく、叉音ちゃんが脱ぎ終わってお風呂場に入った音が聞こえたのに安心と疲れを感じながら風量を弱め、ゆっくりと乾かしていい感じになったところで出ていこうとした。


「待って」


 お風呂場のドア越しに呼び止められ、叉音ちゃんはそこから首だけを出してきた。


「今、親戚の人が来てるから私の部屋に行ってて。階段上がって右のドア、名前書いてあるから。それとここのドア、外からカギかけられるからかけておいて、おねがい」


 髪を下ろしてメガネをしていない姿は新鮮だったけど、ドアがすりガラスだから向こう側もなんとなく見えていて、気まずいわたしが目を合わせずに「うんうん」と生返事で答えているうちにドアを閉められた。


 やっと脱衣所から出られたのに安心しながら引き戸を閉め、カギの所を見ると確かに外からコインか何かで回せるような作りをしている。

 なにか回せる適当な物として家のカギを取り出し、それで回すとカチャリと音を立てて閉まった。

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