音叉と響き 第6話
家から五分くらい歩いて見えてきた軽トラを目指し、あぜ道をさらに進むと叉音ちゃんのおじいちゃんとおばあちゃんが畑で仕事をしていた。
「よろしくおねがいします」
なるべく元気に挨拶すると、おばあちゃんがニコニコしながら近づいてきて「コマの友達だね」から始まり、仕事そっちのけで学校での叉音ちゃんの事を根掘り葉掘り聞こうとまくしたてられた。
その勢いに気圧され、そもそもこうして話すようになってから一週間も経っていなくてそれ以前は存在すら認知していなかったから、どう答えたものか考えながら悩んでいると───
「そういうのいいから!早く行こ」
叉音ちゃんに腕を掴まれて畑に引っ張られた。
初めて聞いた強めの口調と恥ずかしそうにしているのが新鮮で、ちょっといじわるを言いたくなってしまった。
「『コマ』って呼ばれてるんだね、わたしもそっちで呼んだ方がいい?」
「ダメ」
やっぱりダメか。
早足で連れて行かれた畑には全体的に緑色で背が高くてなんか見覚えがある植物が生えていて、隣に支柱が立てられていた。
「これ、トマト」
「あートマトね」
トマトならおじいちゃんの畑で摘んだ事があったからそこで見たんだ。
「この支柱にヒモで茎を結んで」
結び方と結ぶ場所を教えてもらって、結んでは隣に移りを繰り返して黙々と繰り返していたけど、事前に叉音ちゃんに「いいよ」と言われていたのでイヤホンで音楽を聴きながらだったから学校の授業よりも集中できていた。
もしかすると、こうして黙々と作業するのに自分は向いているんじゃないかと思い始めた頃───
「響!」
「うわっ!?」
屈んでいた背後から肩を叩かれながら急に話しかけられたから驚いて尻もちをついてしまった。
「はいこれ、飲んで」
手渡されたスポーツドリンクを飲むといつも以上に甘くて凄く美味しかった。
「ちゃんと飲まないと倒れるよ」
あー…忘れてた、どおりで美味しいはずだ。
トマトが終わると次はナス、ナスが終わればキュウリを同じように支柱に茎を結びつけ続けていたら、叉音ちゃんにまた肩を叩かれて「もう今日は終わりだよ」と告げられた。
気がつけばもう夕方。
黙々と作業をしていたせいで時間の感覚が無くなっていた。
疲れた体で「よっこいしょ」と立ち上がった瞬間、背中にビリっと痺れるものが走った気がした。
痛む腰と足でフラつきながら道具を軽トラの荷台に積み込んで、それらと一緒に私と叉音ちゃんと二人も積まれて家まで帰っていく。
「大丈夫?」
「うーん、ちょっと怖い」
初めて乗ったけど、揺れるし荷台の周りの仕切りが低いから落ちそうでさっきからしがみついている。
無様な私とは対象的に叉音ちゃんの方は荷台に寝そべって空を眺めていて、実に気持ちよさそうだった。
「叉音ちゃん、なにしてるの?」
「こうやって空見るの。面白いよ」
面白いと言われるとやってみたくなって、真似して寝そべると雲と木々の枝葉が流れて行ってたしかに面白かった。
「そうだ、響」
「なに?」
「明日、休んでいいって」
「えっ、いいの?」
「うん、響が頑張ってくれて明日の私の分まで仕事しちゃったから」
「おぉ、やった」
それなら背中を痛めながら頑張った甲斐がある。
今日、もしも時間があったら叉音ちゃんの部屋に遊びに行こうかと思っていたけど、明日も一日遊べるなら外に行くのもいいかもしれない。
明日のプランを頭の中で練っているうちに家に着いて、私たちと一緒に積まれていた農機具を降ろして今日の仕事は終わった。




