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わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第1章 ブルーグラス・ブルーム
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ブルーグラス・ブルーム 最終話

 雨は上がったけど頭上の木々の枝葉から雨水が落ちてくるからそれぞれ傘を差して横並びで歩いていると、真っ暗な道ばたの所々で赤いランプがチカチカと点滅しているのに気がついた。


「あの光ってるのって何?」


 道に沿って点在しているようだけど、それぞれの距離が遠いし真っ暗な状況でやっと気がつく程度の明るさだから、道路の目印というわけでは無い気がする。


「イノシシ避けの電気柵の本体、触ると痛いから気をつけてね」

「ああ、なるほど」


 そういえば来る時、ずっと道沿いにやたらと低い柵が立ってると思ったけどそれだったのか、触らなくて良かった。


 そういえば農道は田んぼよりも一メートル以上高かったから足を踏み外して落ちれば大けがしかねない。

 なので怖いから反対の雑木林側の端っこを歩いていたのだけど、いきなり水城さんに手を握られて引き寄せられた。


「わっ、えっ!?」

「側溝あるから危ないよ」


 道の真ん中に引き戻され、危なっかしいと思われたのかそのまま手を握りっぱなしにされた。


 わたしの方はこんなことをされたのが初めてなのと辺りが真っ暗なせいでドキドキしてしまいながら、自分の傘を閉じて水城さんの傘に入っておとなしく一緒に歩いた。

 所々に立っている街灯を反射するふっくらとした頬は白っぽくて冷たい印象だけど、握ってくれている手は温かくて、もしかすると体温は高めなのかもしれないと勝手な想像をしていた。


 水城さんの家から農道を抜けた先、そこそこ交通量のある二車線道路まで精々十分程度だったのに体感ではもっと長く感じていた。


「ええっと、その……手」

「あっ、ごめん!」


 道路に出たのにわたしが離さないから繋ぎっぱなしになっていた。


「今日はありがとね、それと……」


 さっきから言おうかどうかか悩んでいたけど、もうここまで来たら言ってしまおう。


「水城さんのこと、名前で呼んでもいい?」

「名前?」


 小鳥のように小首を傾げるその姿はとてもかわいらしかった。


「うん、わたし友達のことは名前で呼ぶようにしてるから、水城さんもいい?」

「友達なんだ」


 言葉には出さなかったけど「私たち」と続いた気がした。


 確かに今日出会ったばかりで図々しい気がするけど、なんだかこれは特別な出会いな気がして、どうしても水城さんのことを「叉音」と呼びたくて仕方なかった。


「友達というかこれから友達になりたいなって、嫌だったらいいよ。全然いいよ」


 全然いいよはちょっと意味が分からない、でもこちらから強制する訳にはいかない。


「ううん大丈夫、でもそれならわたしも『(ひびく)』って呼ぶよ」

「えっ、別にいいけど『ヒビキ』じゃなくて『響』呼びなんだ」


 友達はちゃんとした読みを知りつつ「ヒビキ」と呼んでいて、それに慣れていたから意外な感じがした。


「だってそっちが本当の名前なんでしょ、ダメ?」

「イヤイヤ、全然オッケーだよ、ありがとう」

「うん、じゃあまたね、響」

「また明日、叉音ちゃん」


 思わずちゃん付けで呼んでしまった。


 叉音ちゃんは僅かに微笑みながら手を振り来た道を戻って行く、そしてその後ろ姿は暗闇に溶け、懐中電灯のほのかな灯りになっていった。


 なんだか名残惜しかったけどわたしも自分の家に向かって歩き出す。


「ヒビク、ヒビクね……」


 帰り道、家族と先生以外に初めて呼ばれた本当の名前を反芻する。


 あまり聞き慣れない自分の名前を口に出すたび、喜びと新鮮さと若干の照れ臭さ、そしてそこにほんの少し特別感を振りかけてグルグルと混ぜ合わせたものが胸の中に満たされていく、そんな感じがした。


 それは嬉しくて、なんだかちょっと背中がムズムズした。

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