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わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第1章 ブルーグラス・ブルーム
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ブルーグラス・ブルーム 第11話

「そういえば、時間大丈夫なの?」

「えっ、あっ!」


 言われて見た窓は真っ暗、さらにスマホで確認した時刻は七時になろうとしている。


「ヤバっ、もう帰らないと!」


 大慌てで足元に置いていたカバンと傘を引ったくって重い木戸を開けると、雨はあがっていた。


「雨、あがっちゃったね」


 水城さんがぽつりとつぶやくその言い方は『雨が降っていた方が良かったのに』と聞こえた。


「そうだね?」


 そんなに運動は好きではないから運動会や体育祭の前日辺りに雨天中止になってくれないかと淡い希望を抱いたことはあっても、各種天気の中で「雨が好き」と言っている人には生まれて初めて会ったから不思議な印象だった。


「じゃあ帰るね、今日は教科書ありがとう」

「待って」


 急いで走って帰ろうと回れ右しかけたのを止められ、360度ターンをすると水城さんは納屋に戻って懐中電灯と傘を持ってきた。


「そこまで送るよ」

「いやいいよ、悪いし」


 家の前は雑木林と田んぼに挟まれた農道だけど、数百メートル歩けば交通量の多い道路に出れるからそこまで気を遣ってくれなくてもいいのに。


「夜は暗いし、この辺イノシシ出るよ」


 やっぱり出るんだイノシシ。


 でも、教科書借りて返し忘れて無理やり納屋に押し入った上に送らせるのもなぁ、と考えていると、納屋の脇の藪がガサガサッと鳴り、振り向くと黒い影が素早く走っていった。


「イ、イノシシ?」

「ううん、多分ウサギ」

「初めて見たかも、野生のウサギ」

「あとはキジとかイタチとかも出るよ」


 なんか怖くなってきた。


 イノシシは論外として、ウサギですらこんな暗闇で急に飛び出してきたら驚いた拍子に農道から田んぼまで転がり落ちて行きかねない。


「じゃあ、やっぱり送って」

「その方がいいよ、親に言ってくるからちょっと待ってて」


 家に入る水城さんについて行って、空いたままの戸からウチの倍以上の広さの玄関を伺うと直径一メートル以上はありそうな巨木を輪切りにした置物とクマの剥製が飾られていた。


 流石にクマは出ないよね、この辺……


「じゃあ行こっか」


 戻ってきた水城さんはなぜか左手にビニール袋をぶら下げている。


「何それ?」

「いらないって言ったんだけど、おばあちゃんが持っていかせろって言うから」


 そう言いながら見せられた袋の中身は切ったスイカが入った保存容器と、仏壇にあげるような小袋入りのお菓子が詰め込まれていた。


「ああ、おばあちゃんってそういうところあるよね」


 うちのおばあちゃんも遊びに行けばやたらと何か食べさせようとしてくるし、みんなそういうものなんだろうか。


「足元気をつけてね」


 門から外に出ると目を瞑って歩いても変わらないんじゃないかと思えるほど真っ暗で、街灯はあるにはあるものの雑木林から伸びた枝葉に遮られて真下を照らすのが精々な上に立っている間隔がやたらと遠い、言われた通り水城さんに案内してもらって良かった。

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