ブルーグラス・ブルーム 第10話
「水城さんの名前なんて読むの? 教科書に書いてあったけどなんて読むのか分からなかったから気になってたんだ」
そうだこれこれ、ずっと気になってたんだ。
と、その前に───
「わたしは百合川響、よろしくね」
まずは自己紹介から。
「ヒビキじゃないんだね」
「チャンネル名で書いてるからそう思うよね、響って書いて『ヒビク』なんだ。まあみんな『ヒビキ』って呼んでくれるからそっちでもいいよ」
両親によれば最初は素直に「ヒビキ」読みにしようとしていたけど、従兄が同じ読みで紛らわいいからこの名前にしたそうだ。
そんなにしょっちゅう会う仲じゃないんだからそのままにしてくれればよかったのに。
「私は叉に音で『コマネ』水城叉音」
「へぇ、コマネって読むんだ」
なんかコマっとした響きで水城さんにとても合っている、可愛い名前のような気がしたけど───
コマネ、叉音、叉に音、音に叉で……
「あっ、音叉!」
そうだ、音叉をひっくり返して叉音なんだ。どうして気が付かなかったんだ。
「名前が『音叉』なんていいなー」
いかにも音楽系っぽい名前。
「”響”も十分っぽいよ」
「まあそうだけど……」
友達にも結構そう言われ運命的だと自負していたけど叉音ほどではない。
「私は父さんが『ヤマハ』にしようとして怒られてこの名前になったし、一回もちゃんと呼んでもらったことないからあんまりいいこと無いよ」
そういうことではわたしも今まで一度も本当の読みで呼んでもらえたことはないけど「キ」と「ク」でまだニアミスみたいな違いだからねぇ。
「やっぱりお父さん音楽好きなんだね」
「うん、それでギターもやらされたんだけどね」
じゃあ昔からやってるのか、そりゃあんな上手いわけだ。
「どれくらいやってるの?」
水城さんはわたしに向けていた視線を逸らし、考え込むような素振りをした。
「十年くらい?」
「じゅっ、十年!?」
今十五だから五歳、小学校に入る前からギターを始めてそれからずっと続けてることになる。わたしのピアノ含めた音楽歴より長い。
「す、凄いね、幼稚園の頃からなんだ……」
そんな英才教育をされてるからあんな逆立ちしても勝てない腕前なのか…
「えっと、始めたのは幼稚園に入る前くらい」
「えっ!?」
じゃあ十二年は続けてることになる。もう訳が分からない。
「へー、でも親がギター好きだと色々やりやすくていいでしょ、ウチは全然だから大変だよ」
「そうでもないよ、お父さんは邦楽の、特にロックが好きで最初はそっちをやらされてたの、だから今の私をあんまり気に入ってないみたい」
「それは……大変だねぇ」
「去年、それで喧嘩してからは音楽の話はしないようにしてる」
家庭内でも『音楽性の違い』問題ってあるんだ。
ともあれ、少し打ち解けてきた気がする、最初の印象よりも話しやすくていい子だ。




