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わたしをブルーに染め上げて  作者: かつをどり
第1章 ブルーグラス・ブルーム
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ブルーグラス・ブルーム 第1話

百(ゆ)合(り)川(かわ)響(ひびく)はアニメの影響でギターを始めて弾き語り動画の投稿をしている女子高生であり、無名に毛が生えた程度の知名度と再生数ではあるものの趣味と割り切り、それなりに充実した毎日を送っていた。


そんなある日、教科書を忘れた響は話したことも無い小柄で地味な隣のクラスの女子生徒、水(みず)城(しろ)から教科書を借りたものの放課後に返し忘れている事に気が付く。


教科書を返すために水城の自宅へ向かった響は、納屋の中から似つかわしくないエレキギターの音を聞き、思わず覗き見をするとそこにはあの人畜無害そうな水城がギターをかき鳴らす姿があった。

「あと六回……」


 雨が連日降り続け、宣言前だけどとっくに梅雨に入っているだろうと心の中でツッコミを入れていた六月の頭。


 蛍光灯の光で照らされる廊下を歩きながら、スマホで自分のチャンネルに昨日投稿した動画を確認すると、再生数は194回となっていて、誰かがあと六回再生してくれれば200回となる。

 別に200回になったら何かが起こるわけではないけど、ゼロが二つ並んでいるのは気持ちがいいし、数字が多いに越したことはない。


 この動画チャンネル「HIBIKI Guitar」には、文字通りギターでの『弾いてみた動画』あるいは『弾きながら歌ってみた動画』をあげている。

 ちなみにチャンネル名は「HIBIKI」だけど本名は百(ゆ)合(り)川(かわ)響(ひびく)。


 名前とチャンネル名が違うのには深い理由は無く、三日三晩悩んだ挙げ句何も思い浮かばず、自分の名前をもじる……というかみんな間違えて呼ぶから諦めて受け入れたあだ名の「ヒビキ」をそのまま付けた。

 中学でハマったバンドアニメの影響でギターを始め、動画投稿は今年で三年目。

 今では平均再生数は200回前後、一度だけ900回を超えたことがあって、毎回コメントを残してくれる人も数人いる状況になっている。

 別にプロになりたいわけでもこれでバズって収益を得られるとも考えていないけど、友達やコメントで応援してくれる人がいるから日々のモチベーションになっている。



 再生数と前の動画で貰ったコメントを確認して自己肯定感をチャージした所でスマホをポケットにしまい、次の授業のためにロッカー内のカバンから手探りで数学の教科書を引っ張り出そうとしたところで、不吉な予感がした。


 無い気がする……


 いや、まだそうと決まったわけではないと本腰を入れて探し、カバンを引っ張り出して覗くも教科書は見当たらない。


「やっば、忘れた……」


 忘れた記憶は無いのだけど、ここに無いという事はそうなんだろう。


 こういう場合は隣の席のクラスメイトに頼んで机をくっつけて見せてもらうもので、そんなことをしている姿は何度か見たけど、自分の席は廊下側の端で見せてもらえる対象が左手の男子一人に限られる。

 そしてその一人がいつも何かをやらかして先生に怒られている良く言えば学年屈指のお調子者、悪く言えばクラス一のバカで正直苦手だったからそうしたくは無かった。

 なので隣のクラスの友達に借りるという懸命な判断をすることにしたのだけど───


「えー、今日数学無いから持ってきて無いよ」


 このセリフを二人連続で言われて心も首もガックリと折れてうなだれた。


 三人目、高校からの付き合いだけど明るくて人懐っこい性格のおかげでやたらと話しやすい陽(ひ)葵(まり)がトイレから出てきた所を捕まえ、これでダメならもう諦めるしか無いかと腹を括っていたけど───


「えー持ってきてないよ、ヒビキ置き勉してないの?」

「……してないから困ってるんだって」


 どうしよう……こうなったらお金は掛かるけどクラスの誰かにコピー機でコピーさせてもらうしかないか?


「あー、でもミズシロさんなら持ってきてるかも」

「ミズシロサン?」


 知らない名前だ。


「”お水”の”お城”で水(みず)城(しろ)、ちっちゃくてメガネでおとなしそうな子。話したことは無いけど、前に教科書みんなロッカーに入ってるの見たから置き勉してるんじゃない?」


 それなら助かる。ただ、入学してまだ二ヶ月とは言え同じ中学から進学した同級生が多くて知らない子の方が目につく、その上体育だったり音楽だったりクラスでの合同授業も何度もやったのにその水城サンには名前、容姿共に全く覚えが無かった。


 両目に疑問符が浮かんだまま右手を牽引され、陽葵の教室に入ると窓際から二列目最前席まで連れていかれた。

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