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幕間 静かな横顔 ――知らないままでいること――

■ エリアナ視点


午前の診療所は、いつも通り慌ただしい。


エリアナは机に向かい、動作訓練の資料を整理していた。


歩行距離、姿勢の安定度、補助の有無。


サクラたちの書いた記録は簡潔で、読みやすい。


「そこ、まとめてくれたの?」


マルタが覗き込む。


「はい。表にしておいた方が分かりやすいかと思いまして」


「助かるわ」


それだけのやり取り。


だが、その自然さが心地よい。


午後は、イルゼの手伝いだ。


喘息治療の記録を並べ、薬草の組み合わせと反応の違いを確認する。


「この組み合わせ、持続時間が少し延びています」


「ええ。ですが、安定させるには、もう少し検証が必要ですね」


柔らかな敬語。


変わらない口調に、少しだけ安堵する。


城の空気は、静かだ。


だが、その静けさが不自然であることに、エリアナは気づいている。


最近、クロト・ヴァルハルトの姿を見かけない。


護衛騎士の数も、どこか入れ替わっているように感じる。


偶然ではないだろう。


兄は大国にいる。


直接顔を合わせることはない。


だが、便りの間隔や言葉の選び方で分かる。


何かを決めたのだと。


詳しい内容は知らない。


知ろうともしていない。


知らないままでいることも、役割の1つだ。


けれど。


資料を整える手が、ほんの一瞬だけ止まる。


――無事でいてください。


声には出さない。ただの祈りだ。


サクラは、結界を整える。


騎士たちは、見えない場所で動く。


兄は、その中心にいる。


そして自分は、ここで紙を揃えている。


それぞれが、それぞれの位置にいる。


エリアナは、静かに息を吐いた。


今日も診療所は動いている。


その規則正しさが、いまは救いだった。

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