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幕間:水面下 アレクシオス側③― 伏せられた事実 ―

現国王である叔父は、軍を手放さない。


それは権力欲というより、理解の問題だった。


軍を押さえれば、国の中枢の大半を制御できる。

行政も、重臣も、民も――

最終的に従うのは、武力だ。


だからこそ、統制は異様なほど強い。


命令系統は単純化され、

異論は、芽のうちに摘み取られる。


恐怖は、今も十分に効いている。

軍上層部が動かないのは、そのためだ。


忠誠ではない。

計算の結果だ。


――ここは、想定通り。


軍を切り崩す段階では、まだない。


一方で、重臣層の空気は、確実に変わってきていた。


表では従っている。

だが、内心では、終わりを計り始めている。


理由は明確だった。


前宰相は、生きている。


それは事実だ。


ゼフィーリアの密偵からの報告で、

アレクシオスは、すでに確認している。


拘束状態。

処遇は未定。

生存。


だが、その事実は伏せている。


公表もしない。

断定もしない。


ただ、曖昧なままにしている。


「まだ終わっていない」


そう思わせる情報だけを、慎重に流した。


それで十分だった。


もし前宰相が完全に消えているなら、

それは誇示される。


だが、そうなっていない。


その“不自然さ”が、

沈黙している重臣たちの思考を揺らした。


接触は増えた。


忠誠の確認ではない。

安全の確認だ。


――動いた場合、切り捨てられるのか。

――戻る余地は、完全に消えたのか。


問いが出た時点で、

恐怖は、絶対ではなくなる。


すでに切り捨てられた重臣たちとの連携は、安定している。


彼らは迷わない。


戻る場所がない以上、選択肢は一つしかない。


今、崩れ始めているのは、

まだ表に立ち、

恐怖によって留められていた者たちだ。


想定よりも、進みは早い。


アレクシオスは、思考を切り替えた。


――失敗した場合。


その可能性は、最初から排除していない。


だから、一番の身内だけは先に遠ざける。


守りたい、という言葉を、口にするつもりはない。


だが、切り離さなければ、巻き込む。


中等度の喘息。

環境と医療が、生命線になる。


ゼフィーリアからはすでに了承を得られている。


治療目的の滞在であれば、誰も疑わない。


成功すれば、迎えに行く。


失敗しても、

少なくとも、この国の崩れゆく中心にはいない。


それでいい。


軍は、まだ動かない。


だが、重臣層は、確実に切り崩されつつある。


事実を握り、伏せる。


その判断だけで、歯車は回り始めた。

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