幕間:水面下 ゼフィーリア側③―― 判断は、まだ出さない
――第4師団・特別師団会議――
会議室は静かだった。
卓の上には、密偵から集められた報告書が整然と並んでいる。
第4師団長は、それらに一通り目を通すと、資料を揃えた。
「……では、現状を確認しよう」
視線を、第4副師団長へ向ける。
「整理を」
「はい」
第4副師団長は、落ち着いた声で報告を始めた。
「現段階で確認できているのは、三点です」
一つ、指を折る。
「接触は、確実に増えています。
思想的な一致というより、利害を軸にしたものが中心です」
二つ目。
「切り崩しも進行しています。
ただし、個別対応の域を出ていません」
そして、三つ目。
「軍上層部において、
明確な多数派形成には至っていません」
言い切る。
推測は挟まない。
第4師団長は、小さく頷いた。
「……つまり」
「動きはあるが、
“流れができた”とは言えない、ということだな」
「その通りです」
短いやり取りのあと、
クロトが静かに口を開いた。
「補足します」
視線は資料のまま。
「今、言えるのは
“不穏な動きがある”という事実までです」
一拍。
「切り崩しが十分でない以上、
クーデターの時期を決めることはできません」
声は低く、抑えられている。
「今は、
動く準備を進めている段階に過ぎない」
短い沈黙。
その中で、
特別師団長――ヴァルター・アイゼンが口を開いた。
「急がない、という判断だな」
確認するような口調だった。
「今は、成功させる段階じゃない。
失敗しない段階を作っている」
視線を卓に落とす。
「それなら、動かないのが最善だ」
第4師団長は、すぐには返さなかった。
数秒、考える。
「……判断としては妥当だ」
そう言って、顔を上げる。
「重臣に上げるのは、
“進展がある”という事実まで」
「時期の話は、まだ出さない」
ヴァルターが、短く頷いた。
「異論はない」
クロトも、無言で頭を下げる。
この場で、結論は出ない。
だが――
水面下で、確実に何かが動いている。
その認識だけは、全員で共有されていた。




