幕間 水面下 アレクシオス側② ― 揺れている沈黙
報告は、短かった。
生存。
拘束。
処遇は、未定。
前宰相は、まだ生きている。
生存の確認が取れる可能性は、高くはなかった。
それを承知のうえで、送り込んでいる。
本件の密偵は、優秀だ。
必要な情報を持ち帰ることに、成功している。
発見されたことは、想定の範囲内。
それでも、生存を確認できた――それで十分だ。
糸を引いている者までは、割れていない。
誰の命令なのか。
そこまでは、掴ませていない。
――――――――――
アレクシオスは、書面から視線を上げた。
机の上には、王都とその周辺を示した地図が広げられている。
主要な行政の位置。
軍の配置。
その間に、主要な人物の名前が書き込まれていた。
「……やはり、時間は残されていないな」
前宰相が生きているという事実は、
現体制への完全な服従を、許さない。
内心では反発しながらも、
粛清を恐れ、しぶしぶ従っている者たち。
彼らにとって、
前宰相の生存は、
「戻る先が、まだ消えていない」という合図になる。
皇帝も、密偵の存在は把握している。
だが、疑っているのは外だ。
圧力をかけている小国。
あるいは、別の勢力。
よもや、国内から崩されようとしているとは、考えていない。
――――――――――
だが、それだけでは足りない。
沈黙を続けている者たちは、確かに揺れている。
接触は、少しずつ増えている。
話を、最後まで聞く者も出てきた。
それでも、決定打にはならない。
粛清の危険を冒してまで、動く理由が、まだ足りない。
アレクシオスは、別の書面に目を落とす。
粛清を受けた者たちの名が、並んでいた。
すでに職を追われ、
あるいは、監視下に置かれている者たち。
彼らとは、すでに協力体制にある。
戻る場所がない以上、迷いはない。
必要なのは、身の安全だけだ。
クーデターの瞬間、
彼らの身柄を確実に確保する。
それが、最優先事項だった。
――――――――――
ゼフィーリア、
カスティア王国、
ルメリア公国には、
密偵の派遣と同時に、
身柄の安全確保に関わる役割を依頼してある。
表立っては動かない。
だが、退路は用意する。
一時的な保護。
情報の遮断。
追跡を断つための手配。
目的は、政権を奪うことではない。
その後の国を、壊さないことだ。
アレクシオスは、静かに息を吐いた。
――――――――――
口が堅く、
粛清に飲み込まれず、
成功したあとも、欲を出さない。
そういう者にだけ、
計画の骨子を伝えてきた。
そして、選ばせている。
どちらにつくのかを。
準備は、進んでいる。
だが、まだ終わらない。
沈黙している者たちを、切り崩す。
一気には、いかない。
少しずつだ。
それでも、ここを越えなければ、次はない。
アレクシオスは、地図を閉じた。




