第24章 外務大臣の独白
外務大臣アルト・ヴァルハルトは、
机の上に置かれた数通の書簡を、黙って見下ろしていた。
いずれも、表には出ないやり取りだった。
差出人の名は伏せられ、
肩書きも、正式な立場も書かれていない。
それでも、
誰からのものかは分かっていた。
協力関係にある、
小国の外務大臣からの連絡だった。
文面は、終始落ち着いている。
感情的な言葉はなく、
助けを求める調子でもない。
国の機能は、まだ保たれている。
行政は動いている。
軍も統制され、
物流も途切れてはいない。
――今すぐ、国が崩れる状況ではない。
だからこそ、
書かれている内容は、
必要なことだけだった。
国境付近で、
軍の動きが目立ち始めていること。
検問が増え、
通行や交易に、少しずつ制限が出ていること。
外交の場で、
相手の態度が、
以前とは違ってきていること。
侵略だと、断定できる段階ではない。
だが、
侵略ではないと、
言い切ることもできなくなっている。
自分たちの意思だけでは、
拒めない力が、
すぐ近くにある。
小国は、
ただその事実を、
静かに伝えてきただけだった。
それとは別に、
帝国内部からも、
説明のつかない動きが、断続的に届いていた。
最近になって始まったものではない。
以前から、
静かに続いている流れだった。
アルトは、
ゆっくりと息を吐いた。
ゼフィーリアは、
結界を保持する国だ。
魔物の脅威を最前線で引き受け、
その安定の上に、
周辺国との協力関係を築いてきた。
その協力関係にある国が、
侵略の可能性を前にしている。
それを見て、
何もしないという選択はない。
それは、
外交的な中立ではない。
――責任の放棄だ。
アルトは、
書簡を閉じた。
「……関わらない、という選択肢は消えたな」
それ以上、
独り言を続けることはなかった。




